今回は「身のまわりの化学工学」シリーズとして、電気ポットの電気代について取り上げてみます。電気ケトルとも言いますね。昔からありましたけど、最近ではごく一般的な家電品として認知されてるな~と思いますね。また、昔は家庭の電源容量とかも15アンペアくらいだったと記憶していますが、結構頻繁にブレーカーが落ちていたな~と思います。電気ポットは 1000ワットくらいは有るので、あまり気にせず使ってしまうとブレーカーが落ちますね。なんですが、拙宅とかも電源容量は 60アンペアにしています。IHコンロを使っているってのが大きな理由ですが、リビングのエアコンもそこそこデカいですし。
まあ、そんな感じで電源容量の制約も無くなってきたのが、電気ポット普及の理由のひとつなのかな~と思いますが、ハッキリとは分かりませんね。それと、シャレオツな電気ポットは樹脂製が多いですが、耐熱性とか着色性などに優れた樹脂が使えるようになったのも理由なのかも知れませんね。あと、断線しにくいヒーターが開発されたとか。
で、この電気ポットですが 計算してみるのは、夜の間 ずっと電源を入れっぱなしにしてお湯のまま維持した場合の電気代と、夜は電源を落としておいて 朝 エイっと電源を入れてお湯にする場合の電気代です。まあ、普通に考えると電源を入れっぱなしにしておく方が電気代がかかりますね。んじゃ、どれくらい違うのか?って辺りを知りたいですね。
電気ポット 電気代 計算式 Calculation Equations
✔ 水の加熱と冷却 Water Heating and Cooling
まあ、電気ポットの中に有るのは水なんで 電源を入れてヒーターで加熱すると温水とか沸騰水になりますし、電源を切ってそのままにしておけば放熱によって冷却されます。その2種類の過程を図にしてみるとこんな感じとなります。
- 方法 1.
電気ポット内の水は初期温度 T3 [℃] から放熱によって冷却され温度が下がります。その後、朝になったら電源を入れて加熱を開始します。その時の水の温度は T1 [℃] です。なので、夜中じゅうずっと温度は下がり続けますんで、電源を入れる直前は水になってますね。 - 方法 2.
電気ポット内の水の初期温度は T3 [℃] なのは方法1. と同じですが、水温が T2 [℃] になったらサーモスタットによって自動的に電源が入り 加熱が開始されます。そして、水温 T3 [℃] になったら今度は自動的に電源が切れます。なので、夜中じゅうずっと 冷却→加熱→冷却・・・ を繰り返します。なんで、お湯の状態が維持される事になります。
で、ここで重要なのが加熱時と冷却時の温度変化をどうやって求めるかとなります。
- 加熱
下図を見ると 加熱時の温度変化は直線となっています。電気ヒーターによる加熱なので投入された電力のほぼ全てが水に伝わるものと考えられます。まあ、それはそうですがやはり伝熱なので、駆動力である温度差が無ければ、熱は伝わりません。結論から言えば、ヒーターに通電するとヒーター温度が上昇して 水との間に温度差が生じ、それによって熱が伝わります。なんですが、今回の計算ではヒーター温度とかは直接には関係無いので、投入電力 = 加熱量 とします。 - 冷却
電気ポット内の温水から周囲空気への放熱によって冷却が進行します。周囲空気温度は一定とすると、水温の低下に伴い駆動力である温度差は徐々に小さくなります。即ち、冷却量も徐々に小さくなります。その結果、下図にあるように温度変化は曲線状となりますね。この辺りについては、このブログでも 「化工計算ツール No.4 物体の冷却 媒体温度一定」において取り上げています。
✔ 計算式 Calculation Equations
電気ポットなんですが、まあ単純化して円筒形状とします。また、放熱面積ですが側壁の接液部面積とします。なんで、液面部分面積と底板部分面積は除外します。内容積と重量は式①で、放熱面積は式②で計算出来ます。
そして、放熱による冷却時の温度変化は式③で計算されますが、これを時間について解けば式④となります。で、方法1. では夜から朝までの一定時間 冷却されるので、時間 t を指定して式③でエイッと温度が求められますね。一方、方法2.では初期温度 T3 が T2 [℃] になるまでの時間がどれくらいなのかを知りたいので、式④を使って時間 t [sec] を求めます。
次に加熱時の温度変化ですが、ヒーター容量 q[W] が重要ですね。これによって温度の上がり具合が決まりますんで。そして、方法1. では 朝の冷えた水を温度 T1 から T3 [℃] まで一気に加熱します。一方、方法2.では 夜間 何回も加熱を繰り返しますね。その際の温度変化は T2 から T3 [℃] となりますね。
計算例 Examples
✔ 50kg 温水タンク 50kg Hot Water Tank
では、早速計算してみます。まずは参考書籍に記載してある例で計算してみます。水量は 50[kg] とそこそこ有るので電気ポットと言うよりは 電気式 温水タンクといった感じでしょうか。初期温度は 60[℃] で外気温度は 15[℃] のようです。放熱面積は 1[m2] で熱伝達係数は 10 [W/m2 K] との事です。方法1. では夜11時にヒーター電源を切り、翌朝 7時にヒーター電源を入れます。方法2. は 水温が 57[℃] になったらヒーター電源が入り、60[℃] になると電源が切れます。また、ヒーター加熱容量は 3[kW] です。
計算結果は以下のとおりですね。一晩当たりで比較すると方法1. の方が 1.33[kWh] ほど電力消費量が少ないですね。下図下段グラフは それを 365回繰り返した 年間電力消費量ですね。で、電力量単価を 23 [Yen/kWh] として年間電力コストを計算したのが下段グラフです。年間だと 11,000円くらいは違いますね。う~ん、1万円違うんだったら 電源は切って帰りましょうか!となりますが、1日当たりでは 30円ですからね~。方法2. はいつも温水があるんで、どうしても夜に温水を使いたいとか、早朝からすぐに温水を使いたい場合には良いですね。方法1.では 朝7時に電源を入れますが、水温が 60[℃]に到達するのは 約 40分後なんで、温水が使えるのは 7時40分過ぎなんですね。
※ 計算した結果は参考書籍と同じ結果になりましたが、少し気になる事がありました。水量は 50[kg] なんですが、放熱面積は 1[m2] 有るんですね。で、これを円筒形状で実現しようとするとすごく細長くなるんですね。タンク径は 204[mm] で液面高さは 1560 [mm] となりました。これってタンクと言うよりは配管なのでは? まあ、放熱の影響を大きめにしたいと思ったのかな~と。
✔ 家庭用電気ポット Home use Electric Kettle
さて次ですが、家庭用電気ポットについて計算してみます。家庭用なんで水量は 3[kg] とします。サイズですが 直径 148[mm] で水面高さ 178 [mm] となり、放熱面積は 0.0827 [m2] とします。周囲温度は ちょいと低めで 10[℃]、熱伝達係数も低めの 2 [W/m2 K] とします。まあ、保温はしっかりされていると考えました。そして、ヒーター容量は 700[W] とします。で、水温ですが 熱々の 90[℃] と少しぬるめの 60 [℃] とします。
で、結果は下図のとおりです。電気代で見てみると、夜にはずっと電源を切る方法1. の方が、ずっとつけっぱなしの方法2. よりも電気代は安いですね。なんですが、その差は正直 小さいですね。 熱伝達係数を小さくしているので保温が効いてるんですね。なので、電源を切っても温度の下がりが小さくなります。これはどちらの方法でも有効ですね。
それと、水の温度は結構影響が大きいですね。温度が高いとその分放熱量が大きくなりますんで。なので、あまりアツアツのお湯が必要で無いのであれば、ぬるめにしておいた方が電気代は安くなりますね。
せっかくなんで、温度プロフィルをグラフにしてみるとこんな感じですね。方法1. だと温度はずーっと下がって朝の所定時間に加熱昇温されます。方法2.だと下がったり上がったりを何回も繰り返している様子が分かります。
まとめ Wrap-Up
今回は電気ポットの電気代について計算してみましたが、要は物体の加熱・冷却過程を考えれば良いと言う事ですね。で、夜の間も電源を入れっぱなしにした場合と、夜は電源を切った場合を想定し、それぞれに水の冷却・加熱過程を当てはめれば 必要な熱量が得られると言う事になります。計算式自体は簡単ですし試行錯誤なども必要ないので、EXCEL を使ってサクッと計算できますね。
そして、電気代を少しでも安くしたいのであれば 電源を入れっぱなしにするよりは、必要無いときは電源を切っておいたほうが良いんですね。前述のとおり、水温の高い状態で維持するってのは、放熱量が常に最大の状態で維持されると言う事なので。そして、完全な断熱ってのは出来ないので、放熱は避けてはとおれないですね。ですが、適当な保温では無くて、しっかりガッチリ保温しておけば 放熱量は低下するので、投入すべき熱量も削減されますね。これが、どうせ加熱するんだったら保温とかしなくても良いんじゃね? とか考えて、保温を一切しないと放熱しまくりなんで、非常に不経済となりますね。
で、この手の計算は ケミカルプラントにおいても時々は出てきますね。例えば、保温している貯蔵タンクとかでしょうか。規模が大きくなれば スチーム加熱とかになると思いますが、ずっと加熱しっぱなしにするのか、それとも内液を使用する時だけ加熱するとか。んでも、スチーム加熱とかは基本 そのまま流しっぱなしですね。スチームトラップからドレンがブシューっと排出されてたりしてますね、タンクヤードとかでは。
参考書籍・文献 References
- 「微分方程式で数学モデルを作ろう」 日本評論社 1990年刊
web site
- タイガー電気保温ポット
https://www.tiger-corporation.com/ja/jpn/product/list/water-heaters/
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