今回は蒸留塔のウィーピング点について取り上げます。以前、このブログで「No.87 蒸留塔のフラッディング点」について取り上げました。フラッディング Flooding は多孔板式 蒸留塔において液が降りてこなくなる現象ですね。蒸留塔内を上昇する蒸気流量が過大である時に発生します。で、蒸気流量を下げていけば フラッディングは解消されますね。蒸気流量を下げるにはリボイラーで発生させる蒸気量を減らすんですが、加熱量を減らす事を意味します。加熱量を減らせば必要なユーティリティ使用量も減らせるんで省エネにもなりますね。勿論、かと言って分離性能が悪化して 塔頂液・塔底液の組成が製品仕様を満たさないのであれば、それは NG ですね。ただ、製品仕様がクリア出来るのであれば 蒸気量は少ないに越したことは無いんですが、ここにウィーピング限界が有るんですね。
この ウィーピング現象ですが、蒸気流量が少なすぎて多孔板 Sieve Tray の孔から液が落ちてくる事ですね。Weep はすすり泣くと言う意味ですが、まあそんな感じですね。で、本来であれば 各トレイの上を流れる際に蒸気と適切に接触して分離が進行する筈なんですが、これが孔からポタポタ落ちるんであれば 分離効率は悪化しますね。なので、このような状況は避けるべきで 適切な蒸気流量で運転する必要があります。若しくは、新規に蒸留塔を設計する際には ウィーピングが発生しないような断面積、塔内径とする必要が有るって事になります。
実務では少しやった事が有りますね。スチームストリッパー Steam Stripper だったんですが、ガンガン スチームを吹き込めば ストリッピング効率は上がるんですが、エネルギー原単位が増えますよね。なので、スチーム量を減らしてみるんですが 今度は効率は悪化するんですね。で、計算してみると ウィーピング状態になっていると言う結果となりました。なので、シーブトレイの孔径や孔数をいろいろと変えたりしましたね。
ウィーピング 計算式 Weeping Calculation Equations
✔ 気液及び圧力損失挙動 Vapor - Liquid & Press. Drop Behavior
フラッディングにおいては、いくつか計算式があってそれらを使って計算してみました。なんですが、ウィーピングについては実験データを整理したグラフから読み取ったりするんで 少しばかり面倒ですね。で、蒸留塔内における気液及び圧力損失の挙動については、まとめて下図に示します。✔ 計算式 及び 図表 Calculation Equations and Graph
参考書籍に記載されている計算式と図表は以下のとおりです。やはり、蒸留計算ではインチinch とかフィート feet とかポンド lb とかが入ってきますね。その都度 変換が必要ですが、EXCEL であればそこまで面倒では無いですね。
ウィーピングが起こるのか起こらないのかは、式②で判定されますね。左辺は多孔板の乾き圧力損失と表面張力による圧力損失の和ですが液高さに変換しています。右辺はシーブトレイにおける堰 Weir 起因の液高さと液の盛り上がり高さを合算したものとなりますね(下図参照)。堰高さは決まってますが、液の盛り上がりについては 式③で計算します。また、式④は多孔板の孔を通過する際の圧力損失で、式⑤は表面張力に起因する圧力損失となります。どちらも計算されるのは液高さとなります。
で、これだけでは計算出来なくてグラフから読み取る必要が有ります。まず、Fig.1 は式②の関係を表わしていて、ある hw + how について ウィーピングを起こさない為に必要な hd + hσ が得られます。なので、実際の hd + hσ は この値から大きくないと駄目なんですね。で、how については式③から計算しますが定数値 Fwが含まれており、その値は Fig.2 から読み取ります。また、実際の hd は式④から計算しますが 定数値 C0 が必要なので、Fig.3 から読み取ります。
う~ん 文章で説明するのは面倒なのでフローチャート的なものにしてみると下図のとおりです。要は hd + hσ を 2種類 求めて その大小でウィーピングが起こるか起こらないのかを判断するんですね。Fig.1 から読み取った hd + hσ よりも、計算された hd + hσ の方が大きければ ウィーピングは発生しません。
計算例 Examples
✔ 蒸留塔仕様 及び 試験条件 Tower Spec. and Test Conditions
✔ ウィーピング計算 Weeping Calculation
せっかくなんで、蒸気流量を変化させて計算した結果は以下のとおりです。参考書籍の条件 蒸気流量 1.44 [kg/s] だと読み取り hd + hσ = 15[mm] で 計算 hd + hσ = 16.4 [mm] となりました。なので、値は近いけどもウィーピングしてはいないだろうと考えられます。更に蒸気流量を大きくすれば 計算 hd + hσ の方が明らかに大きくなるので、ウィーピングの心配は無いと判断されますね。で、下図 の下段グラフ 3つは読み取りの結果です。まあ、やはり図表からの読み取りは面倒くさいですね~。
まとめ Wrap - Up
今回はだいぶアナログ的に計算してますが、プロセスシミュレーターとかでは ここいら辺も組み込んであって、蒸気流量が少ない条件で計算させれば ウィーピング発生の警告とかが出るのかなと。まあ、あまりと言うかほとんど蒸留についてはやった事が無いので何とも・・・。冒頭で述べたスチームストリッパーの技術検討では いろいろとやったんですが、少しばかり扱うものが特殊だったんで、納得の行くような整理が出来ませんでしたね~。参考文献の 3. が参考になったんですけども。今回の様に シーブトレイを使った塔ですが何とダウンカマーが無いタイプってのも有るんですね カウンターフロー型と言うらしいですけど。単に多孔板が何段も積まれている感じですね。で、ダウンカマーが無いので、トレイのどっかではウィーピングしているんですね、そうじゃないと、液が降りてこないので。で、ウィーピングしているエリアってのは時々刻々変わってるんだろうな~と思います。ってのが、参考文献にはキレイな絵で説明してありますね。
参考書籍・文献 References
- 「絵とき 蒸留技術基礎のきそ」 日刊工業新聞社 2008年刊
- 「蒸留工学」 講談社 1990年刊
- 「塩ビ製造技術の研究 モノマー排出量の削減による環境対策」
化学工学論文集 第36巻 第2号 2010年
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