化工計算ツール No.113 物体まわりの熱伝達 External Convection Heat Transfer

 今回は伝熱計算においてしばしば出くわす、物体まわりの熱伝達 Heat Transfer around Object について取り上げます。外部流れの熱伝達 External Heat Transfer とも言いますね。一方、円形配管とか矩形ダクトの内壁については内部流れの熱伝達 Internal Heat Transfer となります。で、熱伝達の種類としては強制対流 Forced Convection と自然対流 Free Convection があります。自然対流についてはこのブログでも以前取り上げました。自然対流の場合は外部流れになる場合が多いように思いますね、もちろん内部流れもありますけど。


化工計算ツール No.95 自然対流熱伝達


で、実務においても何回も計算してみた事が有りますね。簡単なところで言えば、配管表面からの放熱量の計算において 熱伝達係数を知る必要が有ります。これは円柱まわりの強制対流熱伝達ですね。球まわりの熱伝達についてですが、例えば 噴霧液滴表面における熱伝達係数が必要になる場合が有りますね。水噴霧による高温ガスの冷却などでしょうか。また、燃焼炉では噴霧された燃料液滴は周囲の高温ガスにより加熱された後に着火・燃焼しますけど、液滴表面における熱伝達係数が必要ですね(放射伝熱の影響もあると思いますけど)。と、この辺りをCFDで計算してみた事もありますが、液滴表面の熱伝達係数については Ranz - Marshall 式で計算してたんですね。まあ、燃焼炉と微小液滴とではスケールが違いすぎるので、両方を同列に取り扱うのは厳しいですね。なので、炉内空間についてはオイラー的に数値計算し、液滴についてはラグランジュ的に計算するって事でしょうか。



円柱・球まわり熱伝達  External Convection Heat Transfer of Cylinder , Sphere 


✔ 円柱・球まわりの流れ External Flow of Cylinder , Sphere 


まあ、大抵の場合は円柱 Cylinder もしくは 球 Sphere でしょうか。平板 Flat Plate とか矩形断面物体 Rectangular cross-section Object とかも有りますけども。で、一様流れの中に置かれた円柱や球のまわりには特有の流れが形成されます。特に カルマン渦列 Karman Vortex Street などは面白いですね。

参考書籍には円柱・球における外部流れの模式図が有るので、それにならって絵を描いてみました。前段は二次元物体である水平円柱まわりの流れの模式図となります。見て分かるように、物体前縁部には境界層厚みが薄くなる「前方よどみ点」 Forward Stagnation Point が形成されます。そして、下流にいくに従って境界層は厚くなり 円柱後方には後流 Wake が形成されます。更に、この後流部分には渦が発生しており 逆流している事が分かります。このような流れが形成されるのは、主流速度と円柱外径とから計算される レイノルズ数が比較的低い場合となります。

下段は二次元物体と三次元物体の違いを表していますが、三次元物体だと物体まわりにまさに三次元的に境界層が形成されるので、二次元物体のように単純にはなりませんね。




✔ 円柱表面の局所熱伝達係数  Local Heat Transfer Coefficient on Cylinder Surface

そして、物体まわりの熱伝達係数ですが 上記のように流れが複雑なので局所値はその場所場所で変化します。参考書籍にはその様子が図として載っていますが、さすがにこれをトレースするのはシンドいのでキャプチャしたのが下図です。

下図左側は低レイノルズ数(層流域) の場合ですが、前縁部の前方よどみ点において局所熱伝達係数 (局所ヌッセルト数) は最大となり、下流にいくにつれて減少し 剥離点において 最小となります(図中の青い矢印)。そして、後流部分では多少回復します。また、高レイノルズ数 (乱流域) においては前縁部の熱伝達係数も大きいですが、それに劣らず後縁部での熱伝達係数も大きいですね。と言うのも、円柱表面の流れが乱流に遷移している為です。で、こちらの場合は極小値が2つ発生します (図中のオレンジ色の矢印)。1個目の極小値は境界層が乱流に遷移する事によって熱伝達係数が急激に増加し、それによって相対的に極小値となるって事のようです。また、2個目の極小値は剥離点の発生によるものです。

とまあ、こんな感じで流れの様相に影響を受けて局所熱伝達係数は大きく 且つ複雑に変化するんですね。なんですが、実際 放熱量を計算するなどの目的であれば 平均熱伝達係数値が分かれば事足りますね。





参考書籍) 伝熱概論 甲藤 好郎 著 1964年初版発行


熱伝達係数 計算式  Heat Transfer Coefficient Calculation Equations


で、円柱と球における熱伝達係数 計算式は以下のとおりです。

✔ 円柱 平均熱伝達係数   Cylinder Mean Heat Transfer Coefficient

参考書籍をいくつかあたってみましたが、前述の甲藤 好郎 先生の著書である 「伝熱概論」に記載されている計算式は以下のとおりです。下図の McAdams Data は様々な論文の結果を整理したものとの事です。で、式①・②・③を用いて レイノルズ数に対してヌッセルト数をプロットしてみると、当たり前ですが同じ結果になりますね。ただし、式②は適用範囲に制約が有りますね。

下記の式以外にも、より径の小さい円柱 例えば針金とか熱線風速計の細線など (レイノルズ数が非常に小さい) に適用出来る計算式とか、液体金属 (プラントル数が非常に小さい) に適用出来る計算式などもありますね。で、式中にプラントル数を含む式は気体でも液体でも使えますが、含まない式③だと空気用となりますね。




✔ 球 平均熱伝達係数  Sphere Mean Heat Transfer Coefficient

冒頭でも触れた Ranz - Marshall 式 と別の計算式を2つほど挙げています。んでも、どの式でも右辺第1項には "2" が含まれています。これは、無限静止流体中に球に関する熱伝導の解から純粋に理論的に導出されたものなんですね。1.98 とか 2.02 とか実験的に決定された値では無くて、理論的にピッタリと 2 なんですね。

で、レイノルズ数に対してヌッセルト数をプロットしてみるとどの式でも同じような値となりますね。R-M 式の適用範囲は レイノルズ数で 1000 以下ですが、まあ更に高いレイノルズ数でも使えそうです。と言う事なので 広く一般的に使用されているって事なのかな~と思いますね。まあ、別の式でも勿論使えますね。

そして、せっかくなんで 円柱の結果も併せて示しています。見ると低レイノルズ数範囲では差が有りますね。円柱はレイノルズ数が小さくなるのに伴いヌッセルト数も減少します。これには理由が有って、前述の熱伝導解では球は Nu → 2 に漸近しますが、円柱では Nu → 0 となるんですね。なので、遅い流れとか径が小さい場合、球と円柱ではヌッセルト数に大きな違いが生じます。一方、高レイノルズ数範囲では同じくらいでしょうか。10万を超えると差があるようにも見えますが。





計算例  Examples


✔ 主流速度の影響  Effect of Bulk Velocity 


では、早速計算してみます。流体としては、やはり空気・水でしょうか。主流速度を変えて計算してみると下図のようになります。やはり、液体である水の方が熱伝達係数値は圧倒的に大きいですね。それと、円柱と球の違いってのはそこまで大きくは無いですね。





✔ 円柱・球サイズの影響  Effect of Cylinder , Sphere Size

主流速度は 0.3[m/s] 一定として円柱・球の径を変えて計算してみると以下のとおりです。見て分かるように細いと熱伝達係数は大きくなりますし、太いと小さくなりますね。





まとめ  Wrap-Up

今回は物体まわりの熱伝達を取り上げて、円柱と球表面における熱伝達係数を計算してみました。そんなに頻繁にと言うほどでは無いですが、実務でもやってましたね。保温配管表面における熱伝達係数とかは計算するまでも無く 15 [W/m2 K] としておけば良いですけども。円柱に関して言えば、例えば貯蔵タンク内に設置した加熱コイル表面の熱伝達係数とか。まあ、液が流動していないのであれば自然対流のみを考えれば良いですが、タンク内液をポンプ循環しているのであれば コイル周辺の液は流動しているので、その効果を見積もる必要が有りますね。また、逆にこれくらいの時間で液を温めたいので熱伝達係数はこれくらい以上必要ですね、となると液流速はこれくらい必要ってのが検討出来ますよね。また、冒頭で触れたように球表面の熱伝達係数については、やはり液滴噴霧に関する場合が多いかなと。まあ、例えば デカい 球形ガスタンクなどの外表面 熱伝達係数なんかも計算出来るんだと思いますけど。

そして、これまた冒頭で触れましたけども、流れに置かれた円柱において発生するカルマン渦列ですが、韓国 チェジュ島において発生するものが特に有名ですよね。下図は参考文献に記載されてる衛星画像ですが、キレイにカルマン渦列が形成されています。で、風が吹いていれば いつもこんな渦が出来る訳では無くて、下図下段に示すような関係にある時に限って形成されるんですね。カルマン渦列の関係を見出したのは、「航空力学の父」とも呼ばれる あのカルマン博士ですね。

まあ、見てるだけだと面白いカルマン渦ですが時に重大な事故の原因ともなります。例えば、タコマ橋の崩壊事故、もんじゅ ナトリウム漏洩事故などでしょうか。一方、渦流量計として実用化されたりとか利点も有りますね。





参考書籍・文献  References


  1. 「伝熱概論」 養賢堂 1964年 初版発行
  2. 「大学講義 伝熱工学」 丸善 1983年刊
  3. 「演習 水力学」 森北出版 1981年刊
  4. 「伝熱工学資料 第4版」 丸善 1986年刊
  5. "Atmospheric Kármán Vortex Shedding from Jeju Island, East China Sea:A Numerical Study" 
    MONTHLY WEATHER REVIEW Volume 144 2016
    American Meteorological Society
















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