化工計算ツール No.119 加湿操作 Humidification

 今回は空気の加湿操作について取り上げます。増湿操作とも言いますが、読んでそのとおり空気の湿度を上げる操作となります。まあ、空気中の水蒸気量を増加させる操作ですね。ザックリと言えば、空気中に水滴とかスチームをぶち込めば良いですね。水滴を噴霧するのであれば、水滴が蒸発して水蒸気となり加湿が進行します。また、スチームであれば 既に気体なのでそのまま加湿されますね。

この冬は寒かったですけど、寒気が到来すると湿度もグンと下がります。そうすると、大嫌いな静電気が起こりやすくなったり、風邪をひきやすくなったりと良い事は有りませんね。なので、加湿器を使って加湿操作を行います。拙宅の場合もここ数年で何台かの加湿器を使ってきました。基本ず~っと電源ONなので短いと1シーズンで故障します・・・。で、使っている加湿器のタイプは超音波式ですね。ブワ~っとミスト混じりの空気が吹き出すタイプですね。気化式も使った事が有りますが、水を吸い上げる加湿フィルター部分にスケールが付着するので、そのお手入れが大変ですね。スチーム式はお湯を沸かして水蒸気を発生させているので消費電力が大きいかな~と思い使った事は無いですね。パワフルなんだとは思いますけど。

また、家庭用だけでは無く生産設備においても建屋の空調として加湿操作が行われますね。以前関わっていた電子材料生産設備の建屋には、空調機械室があって調湿用機器もあったように記憶しています。なので、年がら年中 建屋内は 気温 23[℃]くらいで相対湿度も 60[%] だったと記憶しています。で、更にクリーンルームでした。快適なのは良いですけど、常にクリーン服を着用しないといけないですし、出入りにはいちいちクリーンブースを通過する必要があるので面倒くさかったですね。

とまあそんな感じで、加湿操作について少し計算してみます。


湿り空気線図 Psychrometric Chart


湿り空気がらみの操作では、湿り空気線図 Psychrometric Chart が必要となりますね。どんな操作をするにしても、いくつか縛りが有るんですね。例えば、飽和水蒸気圧は温度で決まりますが、その飽和水蒸気圧を超えて水蒸気を含む事は出来ないですよね。

✔ 湿り空気の物理量 Property of Humid Air

湿り空気は乾き空気 Dry Air と水蒸気 Water Vapor との混合気体ですが、気体の一般的な物理量と同じものが有りますね。また、湿り空気に特有な物理量としては「湿度」Humidity が有りますね。湿り空気にも粘度とか熱伝導率といった輸送物性がありますけど、湿り空気の状態変化 (温めたり冷やしたり等) を計算する上では特に必要では無いですね。

  • 粘度・熱伝導率     Viscosity, Thermal Conductivity
    乾き空気と水蒸気の各物性値を用いモル分率(分圧比)の重み付き平均値として近似的に計算出来る。
  • 比容積   Specific Volume
    湿り空気の場合、含まれる水蒸気量の量によって比容積 [m3/kg-DA] が変化する。
  • 定圧比熱   Specific Heat 
    水蒸気を多く含むほど 定圧比熱 [kJ/kg-DA ℃] は増加します。
  • 比エンタルピー   Specific Enthalpy
    乾き空気の 1 [kg] の比エンタルピーとx [kg] の水蒸気の比エンタルピーとの和 [kJ/kg -DA] となる。
  • 湿度    Humidity
    水蒸気圧から絶対湿度 [kg-water / kg-Dry Air] が得られ、水蒸気圧と飽和水蒸気圧との比が相対湿度 [%] となります。また、比較湿度 [%] ってのも有って、こちらは絶対湿度と飽和絶対湿度との比率となります。
  • 露点温度・湿球温度    Dew Point Temp. ,  Wet Bulb Temp.
    その空気と同じ水蒸気圧と持つ飽和空気の温度が露点温度で、結露する時の温度がこれですね。また、湿球温度は乾球温度計の感温部を水で濡らした場合に示す温度ですね。


✔ 湿り空気線図  Psychrometric Chart

で、湿り空気の状態をがグラフにしたのが湿り空気線図となります。参考書籍によるといくつか種類が有りますね。


  • h-x線図
    縦軸に絶対湿度、横軸に乾球温度、斜軸に比エンタルピーをとったもので、空気線図と言えばこれになります。更に通常温度域は NC線図、低温域は LC線図、高温域のHC線図があるとの事です。で、湿り空気の状態量である 乾球温度、湿球温度、露点温度、相対湿度、比エンタルピー、絶対湿度、比容積、水蒸気分圧が記入され、これらのうち2つの値を決めると、残りの値は自動的に決まります。例えば、乾球温度と湿球温度を決めると 絶対湿度とか露点温度などが線図からズバりと決められます。便利ですね。ただ、少し面倒くさいです部分も有ります。線図には温度の縦線が複数描いてありますが、良く見ると垂直では無いですね。

    下図は参考書籍に記載されているNC線図を取り込んだものですが、湿り空気の状態をで示しています。で、この1点を通る線分が引けるんですね。例えば、乾球温度であれば赤い実線(ほぼ垂直)ですので、値を読み取ると 26[℃] となります。同じ様にして比エンタルピーとか湿球温度などの値を読み取れますね。着目している点をズバリ通過する線が無ければ、隣接する線を平行移動して その距離を按分して値を算出しますね、面倒くさいですけど。 で、ここら辺を計算してくれる EXCEL ファイルなんかも有るんですね、有償だったりしますけど。まあ、空調メーカーとかだと自社でそんなソフトウェアを保有しているんでしょうか。



  • t-x線図
    基本的なところはh-x線図と同じですが、等湿球温度線を比エンタルピー線で代用している点がh-x線図とは異なります。こちらの線図については温度の縦線は垂直となっています。いくつか参考書籍を当たってみましたが、t-x線図が載っているのが多いのかなと。本来は h-x線図で解析するべきなんでしょうが、t-x線図で事足りるのであれば それで良いのかなと。

  • t-h線図
    横軸に乾球温度、縦軸に比エンタルピーをとった線図で、冷却塔やエアワッシャーなど空気と水が直接接触するような場合の解析に向いているとの事です。


✔ 加湿操作  Humidification

前述のとおり、湿り空気線図上のある1点を指定すれば、それがその湿り空気の状態量を表わします。で、加湿操作ってのは湿度を上げる操作ですし、この操作の始点から終点までを湿り空気線図上に描く事が出来ますね。ただ、まあ適当に描く事は出来なくてお作法が有るんですね、当たり前ですけど。

下図のとおりですが、加湿操作の手段としては大きく蒸気加熱と水噴霧でしょうか。パン内の加熱水から水蒸気を蒸発させると言う方法も有りますが、能力はそれほど大きくは無いとなってますね。で、手っ取り早いのがスチームを吹き込む方法と水滴をスプレーする方法でしょうか。

  • 水噴霧加湿
    蒸気でも水でも追加された水蒸気の分だけ絶対湿度は増加します。なので、物質収支から加湿操作後の絶対湿度は計算出来ますね。で、水が蒸発する際に潜熱を奪いますんで加湿後の空気温度は下がります。それが経路①→②です。で、その経路を表わす線分の傾きは熱水分比 u によって決定されます。この場合は 噴霧水の比エンタルピー hw となりますね。湿度図表の左上には熱水分比を表わす円弧があるので、それを使って傾きが得られます。で、点①からその傾きの線分をエイッと描くと 加湿後絶対湿度の水平線と点②で交差します。絶対湿度は分かってますが、その時の乾球温度ってのは 点②の温度なんですね。点②から線分を下におろして読み取れば良いですね。

  • 蒸気加湿
    まあ蒸気なんで100[℃] 以上ですよね。なので、加湿後の空気温度は上がります。熱水分比 u は蒸気の比エンタルピー hv となりますので、前述の円弧からその傾きが得られます。で、点①からその傾きの線分をエイッと描いて加湿後絶対湿度の水平線と交差する点②' が加湿後の湿り空気の状態量となります。また、式⑤によっても近似的に計算する事も可能です。


それと、 空気調和の業界では 標準空気条件における体積流量を用いるんだそうです。圧力は 101.3 [kPa abs] で温度は 20 [℃] となります。ノルマル (0℃・1atm) では無いんですね。式⑥が換算式で、標準空気での体積流量であれば それを 0.83 で割り算して重量流量に変換する事が出来ますね。



 計算例  Examples

早速 計算してみます。と言っても、上記の湿り空気線図の上に線分を描いていけば良いですね。

✔ 蒸気加湿 Humidification by Steam


参考書籍に記載されている計算例をトレースしてみます。以下の条件となります。

  • 乾球温度      30 [℃]
  • 湿球温度      17 [℃]
  • 標準空気換算流量  500 [m3/min]
  • 蒸気温度      100 [℃]
  • 蒸気流量      5 [kg/min]
  • 蒸気 比エンタルピー   2,674 [kJ/kg]


湿り空気線図に加湿前後の点①と点②' をプロットすると下図のようになります。そして、加湿後の空気状態量は以下のようになります。絶対湿度だと 2倍以上になってますね。相対湿度もそれなりに増加しています。乾球温度の方はあまり上がってませんね。まあ、湿り空気の重量流量を計算してみると 602 [kg/min] と蒸気流量の120倍も大きいですし。

  • 乾球温度      30.0 → 31.0 [℃]
  • 湿球温度      17.0 → 23.2 [℃]
  • 相対湿度      21 → 53 [%]
  • 絶対湿度      0.0068 → 0.015 [kg/kg-DA]




✔ 水噴霧加湿  Humidification by Water Spray


次は水噴霧による加湿操作について計算してみます。条件は以下のとおりとします。ちょっとひねって有って、温かい湿り空気に水を噴霧して温度を下げる状況を想定しており、その際に必要な噴霧水量を求めるんですね。

  • 乾球温度       38 [℃]
  • 絶対湿度       0.006 [kg/kg-DA]
  • 標準空気換算流量   1,200 [m3/min]
  • 噴霧水温度      40 [℃]
  • 目標乾球温度     30 [℃]
  • 加湿効率       35 [%] 
  • 噴霧水 比エンタルピー   167.4 [kJ/kg]

で、下図のような結果となります。必要な噴霧水量は 843 [kg/hr] なので結構 多いですね。空気流量 1200 [m3/min] で管内平均流速 10 [m/sec] とすると、内径は 1.6 [m] となりますね。これまた結構大きいので 管内に均一に噴霧されるようにスプレーヘッドの数量と配置を考える必要がありますね。空気乾球温度と噴霧水温度との温度差が小さいので、可能な限り微細な水滴を噴霧した方が良いんだろうな~と思います。

  • 乾球温度       38 → 30 [℃]
  • 絶対湿度       0.006 → 0.0094 [kg/kg-DA]
  • 相対湿度       14.5 → 40.5 [%]
  • 必要噴霧水量     843 [kg/hr]




✔  t-x 線図へのプロット plotting on t-x chart


因みに、上記の2種類の加湿操作を t-x 線図にプロットしてみると下図のようになりますね。まあ、ほとんど同じ様な図にはなりますね。ただし、温度と絶対湿度は直交しています。右上がりの曲線は 温度に対して絶対湿度をプロットしたもので、一番 上は飽和絶対湿度線となります。また、右下がりの直線は断熱冷却線とか等湿球温度線と呼ばれるものです。この t-x線図は EXCEL を使って計算とグラフ作成すればサクッと作成出来ますね。んでもって、各種の操作を線図上にプロット出来るので便利ですね。



まとめ   Wrap-Up

今回は湿り空気に対する加湿操作について取り上げて、いくつか計算というか作図をしてみました。まあ、空気調和に関連する計算を実施するうえで湿り空気線図は必須ですね。今はEXCEL とかアプリとかで計算出来るんでしょうけど。実際、ネットで検索するとそれなりに有りますね。まあ、線図が描けるって事は元になる数式とか関数が有るんでしょうから、線図を使わずに 計算だけで状態量を計算するってのも出来るんだとは思いますけど。んでも、湿り空気線図上にプロットすると、各操作における挙動が俯瞰的に見渡せるのでそれはそれで便利ですよね。ネットで紹介されている EXCELファイルでも計算はしますけど、その結果は湿り空気線図上にプロットしてますね。

実務でも湿り空気線図にお世話になる事はあったんですが、使ってたのは h-x線図じゃなくて t-x線図でしたね。まあ、そんなに誤差が有るわけでも無いですし、何と言っても使いやすいです。NC線図のように微妙に傾いた線図は作るのも使うのも大変じゃないかな~と思います。まあ、実際にやってたのは「乾燥機出口の湿り空気は何度まで温度が下がれば結露するのかな?」とかだったんで、露点温度を求めれば良いんですね。なんで、わざわざ線図を使わなくても EXCELで計算出来ますね。と言うのを、このブログでも「化工計算ツール No.23 湿度と結露」で取り上げてますね。んで、やっぱり湿り空気線図上にプロットしてましたね。


参考文献・書籍  References

  1. 「空気線図の読み方・使い方」オーム社 1998年刊
  2. 「改訂4版 化学工学便覧」 丸善 1978年刊











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