今回は身のまわりの化学工学シリーズとして 「チューハイの温度」について取り上げます。前回は「ミルクティーの温度」を取り上げましたけど、熱収支計算を実施してみたんですね。熱い紅茶と冷たい牛乳を混ぜる操作において、室温と各液体間での熱移動についても考慮してみたんですね。どうせ混ぜるのであれば、まず最初にドンと混ぜておいた方がその後の冷め具合が遅くなるって事でした。で、ミルクティーなんで熱い飲み物なんですが、今回 計算してみるのは冷たい飲み物であるチューハイとします。
因みにこのブログでも 「No.11 より早く!より冷たく!」で缶飲料の冷やし方について計算してみました。まあ、缶飲料用の氷を使う冷却装置を使えば割と短時間で冷やせます。ですが、正直なところ面倒くさいです・・・。どうせ氷を使うのであれば、コップに氷をぶち込んで そこに飲料を注ぎ かき混ぜれば温度は下がりますね。そして、そのまま飲めば万事OKです。なんですが、飲み頃温度になるには 飲料に対して どれくらいの量の氷を入れれば良いのか?を知りたいですよね。と言うのも、氷を使うってのは 融解潜熱 Latent Heat of Fusion を利用した冷却なんですよね。つまり、氷が融けて水になる訳で そうすると飲料が薄まります・・・。まあ、そんなところを計算してみようかと。
ところで、チューハイってのは 焼酎ハイボール Shochu Highball の事なので、略して Chu-Hi となるんですね。なんですが、焼酎だけでは無く ウォッカとかスピリッツがベースのものも多いですね。で、私事で恐縮ですが ビール党では無くてチューハイ党ですね。どっちも炭酸系飲料ですが、より強炭酸でストロングなものが良いですね~。ですが、最近はストロング系よりはローアルコール系が増えてきたように感じます。コンビニによってはストロング系チューハイを全く置いていないお店とかも有ったりして。これも時代の流れなんですかね~。
※ 冒頭の画像を差し替えてみました。今度は Google の Gemini に作って貰いましたけど、いろいろとプロンプトで指示すると普通に人物が追加されるんですね。まあ、それっぽい現実には存在しない人ですけど・・・。
氷の融解における熱収支 Heat Balance in Melting Ice
✔ 氷の熱物性 Thermal Properties of Ice
今回の計算で最も重要なのは、融解潜熱ですが 0 [℃] で 334 [kJ/kg] とありますね。参考文献には温度依存性も記載されていました。ただし、数式化されていなかったのでデータを読み取って多項式近似してみました。密度、比熱については近似式が記載されていたので、その式を使って計算しています。0[℃]よりも温度の低い氷を用いる場合には比熱値が必要となりますね。で、融解潜熱の温度依存性ですが参考文献には 250 [K] ですから摂氏ですと -23 [℃] までは単調に減少しています。氷は 0 [℃] で融解するので 融解潜熱の温度依存性ってのは良く分かりませんね。ただ、融解点温度 (=凝固点温度) は圧力によって変化します。圧力が高くなると融解点温度は下がりますね。なので、そんな状況では融解潜熱も減少するのかなと。また、圧力は一定でも 水溶液とかだと融解点温度は下がりますね、凝固点降下によって。何も溶けていない純水に溶質が溶け込むと融解点温度は低下します。そんな状況を想定しているのかなと。
融解潜熱以外の密度、比熱ですが、日常 取り扱う温度範囲では そこまで大きく変化はしないので、まあ適当な代表値としておけば良いですね。例えば、0 [℃] における各値は以下のとおりです。比較として、0 [℃]における液体の水の物性も示しています。密度は明らかに液体の水よりも小さいのでプカーっと浮かびますよね。肝心の潜熱ですが、融解潜熱は蒸発潜熱の 13 [%] くらいになりますね。
- 融解/蒸発潜熱 334 [kJ/kg] 2500 [J/kg]
- 密度 917 [kg/m3] 999.8 [kg/m3]
- 比熱 2.07 [kJ/kg K] 4.22 [kJ/kg K]
- 熱伝導率 2.22 [W/m K] 0.56 [W/m K]
✔ 熱収支式 Heat Balance Equation
式⑤の左辺は氷に関する熱量となります。第1項は融解潜熱、第2項は氷が0[℃]になるまでの顕熱量、そして第3項は融けた氷(水) が最終温度になるまでの顕熱量です。一方、右辺の第1項は水溶液が初期温度から最終温度まで変化する際の顕熱量、第2項は容器が同じ様に温度変化する際の顕熱量となります。見て分かるようにこの熱収支式は放熱量は含みませんね。それと、一般的には容器の熱容量は小さいので無視しますね。
温度としては、氷の初期温度 Ti、水溶液の初期温度 T1、水溶液と氷の最終温度 T2 が有りますね。それと、もう一つ 温度 Te が含まれますが これは融解温度です。純水の融解温度は 0 [℃] です。厳密に言うと 水溶液が何らかの溶質を含む場合、凝固点降下が起こるので 融解温度は 0[℃] よりも下がりますね。まあ、純水に氷を投入する場合は考慮しなくても良いですね。
計算例 Examples
✔ アイスティーを作る Making Iced Tea
紅茶は熱々のお湯でいれるので 温度は 100 [℃] とします。んで、氷は 0 [℃] とします。前述の式⑤を使って直接 最終温度を求められますね。まあ、少し式を変形しないといけませんけど。
熱々の紅茶 100 [g] として計算してみると、当量の氷を投入すると 10 [℃] くらいになりますね。ヌルいって感じでは無いですけど キンキンに冷えている訳でも無いですね。となると、紅茶は半分くらいの濃度まで薄められます。なので、茶葉多めでだいぶ濃く作っておく必要が有るとなりますね。で、もう少し氷を足して 125 [g] にすると 温度は 2 [℃] くらいまで下がります。十分冷たいですね。んじゃ、もっと 200 [g] とかどか~んと氷を入れれば良いのでは? と思いますが、限界が有りますね。ご存知のとおり、水と氷が共存している状態の温度は 0 [℃] です。なので、これ以上は氷を入れても融けずにプカプカ 浮かんでいるだけとなります。で、その量を逆算してみると 氷重量は 126 [g] となります。下図 下段グラフは 投入する氷の温度を更に下げてみた場合の必要氷重量ですが、冷た~い氷を使っても 氷の量は そんなに減りませんね。なので、まあ 冷凍庫の氷で十分ですね。
計算してみると以下のようになるんですが、まあ氷はどか~んと沢山入れたほうが見た目にも涼しげですよね。なんですが、それは温度を下げるのにはあまり寄与しませんし、ほっておくとどんどんアイスティーが薄まるって事になるんですね。
✔ チューハイの温度 Temperature of Chu-Hi
まとめ Wrap-Up
で、いろいろと計算してみたんですが 今回の計算ってのは あくまでも平衡論的な取り扱いですよね。コレとソレを混ぜたら最終的にこうなりますよ的な。今回について言えば、氷を溶液に投入する訳ですが、「平衡状態に到達した時の温度を計算してる」って事ですね。ですが、日常生活において グラスに氷を入れて そこにチューハイを注いで すぐに飲んでも、そんなに冷たくはないですよね。なので、氷で冷やすにしても所謂 速度論的な縛りが有るってのが分かります。
溶液を氷で冷やすってのは、ざっくりと言えば氷の表面において融解潜熱が吸収される事によって進行しますよね。と言う事は、氷を細かく砕いてクラッシュアイスとすれば 表面積は大幅に増大するので より早く融けますね。まあ、日常生活においても経験している事ですよね。ドデカい塊の氷はなかなか融けませんよね。 また、マドラーのようなものでグラスの中身をグルグルとかき混ぜると 早く冷えますよね。実際にやってみると 氷が融けるのでかき混ぜる際の抵抗が明らかに小さくなります。で、飲んでみると結構冷えてますね。これは氷表面の温度境界層を薄くしている事に他なりませんよね。何もしないで放置していると、氷表面近傍の溶液温度はほぼ 0 [℃] となり、これは氷の温度 0 [℃] とほとんど差が無いので氷の融解もゆっくりとしか進行しません。なので、氷の融解も氷表面の温度境界層の厚みによって律速されるんだろうなと思います。 まあ、ここら辺も考えてみると面白いですね。
と、そんな事を考えてみても、また考えなくてもチューハイは美味いんで今夜もチューハイで乾杯します!
参考書籍・文献 References
- 「氷、雪、および海氷の熱物性」
熱物性 第2巻 第2号 1988年 - 「水溶液中の氷の融解潜熱に関する研究」
日本冷凍空調学会 論文集 第22巻 第3号 2005年
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