さて、今回は 円管内乱流における速度分布について取り上げます。円管内層流における速度分布については、このブログでも 「No.72 ハーゲン - ポアズイユの式」 で取り上げてますね。比較的に単純な数式で円管内における速度分布がドンピシャ得られます。この関係が発表されたのは 1839・40年なので もう186年も前の事となります。一方、乱流 速度分布の数式についてですが、H-P式のような単純で正確なものは有りませんね。まあ、文献や書籍に記載されているような計算式を使えば実用上問題無い精度で速度分布が得られますけども。
んで、乱流ですが 円管内に流体を流すと流速が遅いうちは流れは層状にスーッと流れます。ここから徐々に流速を上げていくと 流れが乱れるようになります。この辺りは レイノルズ数 Reynolds Number によって判断する事が出来ます。層流から乱流への遷移は Re ~ 2,300 で発生するとされています (臨界レイノルズ数)。「流れが乱れる」の意味合いですが、空間的・時間的に速度が変動するって事ですね。参考書籍・文献を見ると実際の速度変動測定例が載ってますね。速度成分が細かく不規則に変動してますね。
実務では速度分布そのものを知りたいって事はあまり無いですね。必要なのは圧力損失値でしょうか。んでも、大学では伝熱工学の研究室に所属していたんで、矩形流路内を流れる湿り空気の温度分布をほっそ~い熱電対で実測したりしていました。直接 速度分布を測定した訳では無いんですけど、温度分布もすご~く変動してましたね。まあ、今ならばロガーとかで記録するんでしょうけど、もう40年ちかくも前なんで ペンレコーダーで記録紙に記録してましたね。そして、それを読み取って記録してました・・・。とまあ、そんな訳で管内乱流の速度分布について少し計算してみます。
管内乱流 速度分布 Turbulent Flow Velocity Distribution in Pipe
✔ 円管内の乱流構造 Turbulence Structure in Pipe
参考書籍によれば 円管内の乱流は下図のような構造になっていると記載されています。まあ、乱流 流れなんで 管内のいたるところが乱れて流れています。なんですが、主流中ではそうであっても管壁に近いところでは 粘性の影響を強く受け、乱れはほとんど無いものと考えられます。そして、管壁近傍と主流に挟まれた中間的な領域も存在しています。で、大抵の参考書籍には 管内乱流は以下の3層から構成されると記載されていますね。- 粘性底層 viscous sublayer
壁面のごく近傍には分子運動による粘性や熱伝導が支配的な薄い層が存在しています。層流的な性格が強いので「層流底層」とも言いますね。 - 遷移層 buffer layer
粘性底層のすぐ外側には層流的性格と乱流的性格が混在する領域があります。 - 乱流域 turbulent region
遷移層の外側から管中心までは流体塊の不規則な激しい混合によって運動量や熱エネルギーの交換が進行している領域があります。
✔ 普遍速度分布 Universal Velocity Profile
そして管内乱流の速度分布ですが 実際に実験をすればデータが得られますよね。例えば、化学工学 分野ではものすご~く有名な 京都大学の水科 篤郎 先生の報文では 内径 50[mm] の円管に水を流し、半径方向に 径 1.5[mm]のピトー管を走査して速度分布を実測しています。これが空気とかの気体であれば熱線風速計とかも使えますね。また、比較的に最近の報文では、ガラス製の円形流路に水を流し レーザードップラー流速計で速度分布を測定しています。う~ん、どっちも大変そうですね。
で、様々な実験データを整理してみると下図のようになります。これをトレースするのは大変なので参考書籍に記載されている図をキャプチャして使用させて頂きました。横軸は無次元距離で円管内の実距離 y を摩擦速度 u* と動粘度 ν で無次元化したものです。また、縦軸は 時間平均速度 u を やはり摩擦速度で無次元化しています。そして、グラフ中の沢山の点々は研究者の実験データなんですね。グラフ自体は片対数となっています。沢山のデータ点の集まりを見てると何かまとまりが有るな~ってのは分かりますね。そして、更に良く見ると無次元距離によっていくつかの領域に分けられそうですよね。で、それがまさに前述の乱流構造に対応している訳なんで、それぞれの領域について速度分布式を適用出来れば 円管内全体の速度分布を表せるって事になりますね。
このグラフこそが 普遍速度分布 Universal Velocity Profile と呼ばれるもので、 細い円管でも太い円管でも、流体が水でも空気でも、実測データはこのグラフの然るべき場所にプロットされるって事ですね。更には平板についてもこの速度分布は適用可能なんですね。そんな事から 「普遍」って言うのかなと思います。もし、実験データをエイッとプロットして全然違う場所にプロットされたのであれば、それは実験がよろしく無かったって事になりますね・・・。
✔ 速度分布式 Velocity Profile Equations
式④~⑥ は3層模型における速度分布式です。式⑤は2つありますけど、参考書籍で異なる定数値だったんで 一応 併記しています。式⑦・⑧は2層模型の速度分布式です。そして、式⑨は指数則と呼ばれる速度分布式で、指数値 n はレイノルズ数で変化します。レイノルズ数が 10万程度までであれば n=7 となり、これは 1/7乗則として有名ですね。
計算例 Examples
✔ 普遍速度分布 Universal Velocity Profile
✔ 実際の円管内 速度分布 Actual Velocity Profile in Pipe
計算に使用したのは 3層模型、Spalding 式、指数則 と 水科 先生の提示された速度分布式です。水科先生の式は式が1個だけですし、反復計算も必要無いので使いやすくはありますね。で、結果ですが 管中心付近ではどの式でも似たりよったりです。
まとめ Wrap-Up
で、この円管内乱流がどうなってるのか?ってのは 強制対流熱伝達に強く影響を与えてるんですね。今回は触れてませんけど 乱流域の強制対流熱伝達においては、粘性底層とかの厚みが影響するんですね。また、遷移層や乱流域においては 動粘度とか熱伝導率に加えて、うず動粘度とかうず温度伝導率が現れてくるんですね。分子運動に基づく運動量移動や熱移動に加えて、流体塊の交換によっても それらが移動するんですね。流体塊ってのは要は渦 eddy なんですが、ここまで行くともう理解出来ませんね・・・。んでも、重要なのは確かですし学問的にも興味深いので いろいろと研究されてますね。乱流構造の3層模型を乱流熱伝達に応用してみたりとか。研究室の輪講とかで勉強しましたが、非常に精緻ですね。まあ、乱流域における熱伝達係数値がどれくらいなのか?を計算したいだけであれば、推算式が沢山あるので適切なものを使えば良いですね。
実務では 流れが乱流になる場合もありましたね。まあ、ポリマー流れであればすごくネチョネチョしているんで層流域ですが、原料モノマーの移送系とか脱モノマー装置からのベーパー流れは乱流となりますね。また、技術検討で 数値流体解析 CFD とかもやってましたが、層流域であればあまり注意せずにやってましたね。ですけど、乱流域ではそれなりに気を使ってました。前述のとおり、内径 50[mm] の円管に水を流した場合、粘性底層の厚みは 0.5 [mm] くらいでしょうか。そこに 5 [mm] のメッシュを設定すると 解像度が低すぎて現象をシミュレート出来ないって事になりますね。これは特に伝熱の場合はそうなりますね。なので、CFD ではなるべく伝熱は扱わないようにしてました・・・。物体近傍からバルクに向けてメッシュサイズを徐々に変えていくと言う手法も有りますけど、どうしてもメッシュ数が大きくなりますね。そうすると計算時間が増えるんですね。乱流域で運転する撹拌槽の数値解析も何回となくやりましたが、壁面とか伝熱コイル表面の熱伝達係数については CFD で直接に求めるのでは無く、撹拌動力値だけを CFD で求めておいて その結果から 熱伝達係数を推定するって手法にしてましたね。あくまでも全体のフローパータンをざっくりと知るってのが CFD の目的でした。今はマシンパワーも格段に向上してますし、CFDソフトウェアとかも改良されていると思うんで乱流域の熱伝達についてもそれなりの結果が得られるのかな~と思いますけど。
参考書籍・文献 References
- 「流体力学 II」 西山 哲男著 日刊工業新聞社 1971年刊
- 「伝熱概論」 甲藤 好郎著 養賢堂 1964年刊
- 「大学講義 伝熱工学」 武山・大谷・相原著 丸善 1983年刊
- 「円管内乱流の速度分布と温度分布」
水科 篤郎ら 化学工学 第31巻 第8号 1967年 - 「粗滑両円管及び平板の乱流境界層の指数則」
井田 富夫 ターボ機械 第28巻 第6号 2000年
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