今回は最小理論段数と最小還流比について取り上げます。棚段塔による蒸留において、最も少ない段数と最も小さい還流比となります。まあ、どっちもあくまでも極端な状況を考えたものとなります。なんですが、実際の蒸留塔における理論段数は最小理論段数よりも必ず多くなりますし、また実際の還流比も最小還流比よりは必ず大きくなります。そして、蒸留塔の設計においては 最小理論段数の値と最小還流比の値を使って、理論段数を決定する事が出来ます。 この時、実際の還流比は別途決めておきます。で、理論段数が決定出来れば蒸留塔の高さが決定出来ますし、還流比が決定されているのであれば塔内の液量とか蒸気量が推定出来るので 塔断面積即ち 塔内径が決定出来る事になります。塔の高さと内径が決定できれば 重要な仕様が決定出来た事になりますね。参考書籍にはそれぞれ以下のように記載してあります。
- 最小理論段数 Min. Theoretical Stage
組成 XF の2成分系原料を連続蒸留して留出組成 XD と缶出組成 XW に分離するのに必要な最低限の理論段数を最小理論段数と言い Nmin で表わす。最小理論段数は留出液が全く無い D=0 の状態で還流比は無限大となり、全還流の時の理論段数と定義される。実際には Dが0であり、製品が得られないのでこのような条件で操作されることは無いが、運転の初めに蒸留塔を定常にさせるのに用いられる。 - 最小還流比 Min. Reflux Ratio
蒸留塔の各段で気液が接触するには下降する液が必要であり、必要最低限の還流比を最小還流比 Rmin と言い、この還流比では必要段数が無限大となる。
まあ、実務ではほとんどやった事は無いですね~。なんですが、蒸留塔の設計においては基本中の基本なんで、この辺りをちゃんと分かっておかないとアレですよね。塔の高さとか内径とか仕様にも関係してきますんで。と、そんな感じで最小理論段数と最小還流比について少し計算してみます。
最小理論段数と最小還流比 Nmin , Rmin
✓ 2成分系 連続蒸留 Binary system Continuous Distillation
まずは2成分系の連続蒸留についておさらいしてみます。下図のとおりですが、マッケーブ - シール法で取り上げたものと同じですね。棚段塔において供給段から原料が液や蒸気、若しくはその混合物として供給されます。供給段より上は濃縮部 Rectifying section となり下は回収部 Stripping section となりますね。軽い成分をより多く含む蒸気は最上段から蒸留塔を去ってコンデンサー Condenser で凝縮されます。で、これが蒸留操作の肝ですが 還流 Reflux が行なわれますね。全還流だと 凝縮液の全部を最上段に戻します。この時の還流比は無限大となります。一方、塔底では重い成分をより多く含む液が出ていきますが一部はリボイラーで加熱されて塔底に戻ります。リボイラーで炊き上げる事が蒸留塔における分離の原動力となります。
下図下段は 平衡線に濃縮部操作線、回収部操作線を併せて描いたものです。更に、濃縮部と回収部には階段作図も描いてあります。このように普通の階段作図だと、濃縮部から回収部への乗り移りがちゃんと出来るんですね。で、必要理論段数が分かると言う事になります。
✓ 最小理論段数・最小還流比 計算式 Nmin, Rmin Calculation Equations
- 最小理論段数 Nmin
最小理論段数ですが、濃縮部操作線は式①で表わされます。この式で 還流比 R が無限大になると 右辺第一項は 1 となり、第二項は ゼロとなります。そうすると、式②が得られますが これは対角線です。なので、図にあるように階段作図をすれば最小理論段数 Nmin が得られます。また、溶液が理想系として取り扱えるのであれば 相対揮発度 α を用いる 式③によって 最小理論段数が得られます。この式は、フェンスケの式 Fenske Equation と呼ばれます。ここで S は ステップ数で、リボイラー部も 1段として勘定します。なので、式③で得られた値から 1 を差し引いた値が 最小理論段数となります。 - 最小還流比 Rmin
最小還流比ですが、原料組成 zF から対角線に対して垂直な線を引いて 交点 f を決め、そこから 沸点液であれば 更に垂直線を引き 平衡線との交点 c を決めます。で、線分 dc の傾きが 式④の値となります。式⑤は Rmin について解いたものです。 ここで重要なのは 交点 c の座標ですが、沸点液・沸点蒸気・液/蒸気 混合物の場合で異なります。式⑥・⑦・⑧ がそれぞれに該当しますが、図と対応させて見ると分かりやすいですね。で、例えば 沸点液であれば xc = xF となりますが、この時の yc については 別途 式⑨を用いて計算する必要があります。式⑨は 相対揮発度を用いた 平衡線の式となります。で、理想溶液において適用可能です。
ギリランドの相関 Gilliland Correlation
本当はいろいろな実験データをプロットしてみたんですね。それらをうま~く相関するように式⑩が作成されたんですね。元々の実験データを片対数グラフにプロットすると 何か直線状になっているな~と気が付いて定数値を決定したんですね。実際にそれを発表されたのは 蒸留分野における大御所 平田 光穂先生となります。
実際のところ、還流比は最小還流比の1.5倍 程度とされています。最小還流比が 10 だとすると、実際の還流比は 15 となります。ここで、R - Rmin / R + 1 の値を計算してみると 0.3125 となります。なので、 0.05 < R - Rmin / R + 1 < 0.6 の範囲で相関式を作れば OK って事のようです。式⑩もこの範囲のデータに基づいて作成されたんですね。
計算例 Examples
✓ 計算条件 Conditions
早速 計算してみますが、参考書籍に良さげな計算例があるので その内容に沿って計算してみます。ベンゼンとトルエンの混合液を蒸留塔で分離しますが、製品液の純度を変えてみて 理論段数に対する影響がどの程度かを計算してみます。
- ベンゼン - トルエン系 理想溶液
- 原料組成 ベンゼン 40 [mol%] 、トルエン 60 [mol%]
- 原料供給量 100 [kmol/hr]
- 供給条件 沸点液 q = 1
- 相対揮発度 2.45
- 留出液組成 ベンゼン 95.0 、99.5、99.8 [mol%]
- 缶出液組成 トルエン 95.0、99.5、99.8 [mol%]
✓ 理論段数 Theoretical Stage
上記の計算条件で実還流比を変えて理論段数を計算してみると下図のようになります。還流比を上げていくと還流の効果が効いてきて必要な理論段数は減少します。なんですが、だからといって還流比をどんどん大きくしても意味が無い事はこの結果を見れば分かりますね。また、留出液中のベンゼン濃度を変えていますが より製品純度を上げようとするとより多くの段数が必要になる事が分かります。
また、下図 下段グラフは留出液中のベンゼン純度を変えた場合の計算結果ですが、より純度の高い製品を生産しようとすると 必要な理論段数が急激に増加する事が分かります。勿論、100%のベンゼンを生産する事は不可能で無限大の段数が必要になります・・・。
✓ 蒸留塔の高さと内径 Height , Diameter of Distillation Tower
- 高さ Tower Height
棚段塔の理論段数については前述の計算によって得られています。なんですが、これはあくまでも各段において平衡状態に到達していると仮定されたものです。で、実際にはそうはなってはいないので 実段数はもっと多くなります。その辺りを考慮するのが塔効率 Tower Efficiency で塔効率 = 理論段数 / 実段数となります。段の構造や液性状、操作条件によって影響を受けますが 0.6 ~ 0.8 となるようです。そして、塔高さを決定するのに必要なのが 段間隔 Stage Spacing となります。段と段との間隔ですが、こちらも蒸気速度や気液の性状に影響を受けますね。例えば、フォーミング Foaming しやすい液であれば段間隔を大きくとる感じでしょうか。で、一般的な段間隔は 0.3 ~ 0.6 [m] となるようです。 - 内径 Tower Diameter
内径によって塔断面積が決まりますが、この断面積を通過する蒸気速度には限界が有ります。蒸気速度が大きいと圧力損失が大きくなりますし、大き過ぎると飛沫同伴 Entrainment が起きて分離効率が低下します。更に蒸気速度が大きくなるとフラッディングが発生して蒸留が出来なくなりますね・・・。
概略的ですが、以下の式を使って内径を計算できるようです。式⑪は塔内蒸気速度の計算式となります。で、これを 内径 D について解くと式⑫となります。また、式⑬は許容蒸気速度 uA を計算する式で 定数値は 0.02 ~ 0.06 となるとの事です。式⑬で uA を求め、式⑫に その uA と蒸気流量 Q とを代入すると内径 D が得られます。
蒸留塔 塔頂におけるベンゼン濃度は 99.5 [mol%] とし、そこそこ高い純度で製品を得るものとします。で、還流比を変えた場合の蒸気流量 Q については塔内の気液収支から計算されます。そして、上記の式を使って塔内径 D が得られます。また、塔高は 塔効率 0.6 とし 段間隔は 0.5 [m] としてみます。
計算結果は下図のとおりです。還流比を大きくすると塔内の蒸気流量は比例して増加します。で、塔内径も増加しますが増加割合は小さくなってますね、円形なので。また、塔高についてですが、還流比を大きくすると理論段数が減るので、結果的に塔高は低下してほぼ一定値になりますね。
せっかくなんで、塔の絵を描いてみました。還流比は 2、3、4、5 及び 10 としています。還流比 2だと だいぶ背が高いですが、3 にすると大幅に低くなりますね。L/D は 10 くらいでしょうか。で、更に還流比を大きくしても塔高には大きな変化は無いですね、単に太くなるだけで。 で、太くなるとその分 内容積とか表面積が増えるので材料費とか製作費とかにも影響が有りますね。それと、還流比を大きくするって事は塔頂コンデンサーにおける冷却負荷も増えますし、リボイラーの加熱負荷も増加します。て事は、ユーティリティーコストが増える事になります。塔の初期投資費用も高くなるし、加えて スチームとか冷却水とかの運転費用も高くなるので 良いことは有りませんね・・・。
まとめ Wrap-Up
とか言いながら実務では あまり取り扱った事は無いんですね、ポリマープロセスの設計や技術検討がメインだったので。とは言え、多少はやってましたし 技術ライセンス関連の業務では データシートを作成したりしてました。まあ、設計計算の肝の部分はエンジ会社さんに依頼してやって貰ってましたけど (C社さんですね)。まあ、そんな感じで蒸留について勉強したりはしてたんですね。日本企業に在籍していた時分は、設計担当の部署に居ましたが ポリマー関連のグループに所属してました。お隣は化成品担当のグループでしたが、蒸留計算とかやってましたね。平成元年の頃なんで、プロセスシミュレーターとかは無くて 自社で作ったフォートラン FORTRAN のプログラムとかを走らせていたと記憶しています。時代ですね~。
※ この画像も Google Gemini で作成して貰いました。それほど複雑なプロンプトでは無いですが 出来栄えは十分ですね。
参考書籍・文献 References
- 「分離技術シリーズ20 やさしい蒸留」
鈴木 功 著 分離技術会 2010年刊 - 「分離技術シリーズ7 復刻新版 多成分系の蒸留」
平田 光穂・相良 紘 著 分離技術会 2006年刊









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