化工計算ツール No.136 シックナーの設計 Thickener Design

 今回はシックナー Thickener の設計について取り上げてみます。このブログでも粉モノについては度々取り上げていますが、液モノとはまた違った取り扱いが必要になったりして それはそれで面白いです。一方、面倒くさい点も多々ありますけど・・・。で、粉体工学用語辞典には以下のように記載されています。

希薄懸濁液を濃縮するための連続式沈殿濃縮装置。シックナーは懸濁物を重力下で沈降させることによりできるだけ濃縮し,引き続くろ過(濾過)や乾燥などの操作を容易にするための装置をいう。通常,円すい状の底部をもつ浅い円筒槽(直径数 m ~ 数十 m)で,中心部に原液を供給するための給泥口が,周辺部に清澄水を取り出すためのいつ流せき(溢流堰)がある。

シックナーでは必要なのは固形分の方なんですね。なので、濃縮装置となります。一方、固形分は不要でキレイな液が欲しいのであれば クラリファイヤー Clarifier となりますね。こちらは、清澄化装置となります。で、シックナーですが さすがに実務ではやった事はないですね。なんですが、ケミカルプラントには活性汚泥とかの排水処理設備があるので、そこにシックナーが設置されたりしているのかなと。そっち方面には関わった事が無いので良く分かりませんね~。と、言いつつシックナーの仕様について計算してみようかなと。



シックナーとは?  What is a Thickener?


✓ シックナーの構造  Thickener Structure


シックナーの構造ですが下図のとおりですね。平べったい円筒で底部は円錐状になっていますが、ここに懸濁液を装入します。また、底部にはレーキ Rake が有ってゆっくりと回転しています。これまた粉体工学用語辞典から引用ですが、シックナー内部の状況については以下のように記載されています。

原液が中心部を下降し清澄水─圧縮脱水層界面を円周方向に流れる間に,固体粒子は沈降し圧縮脱水層内で濃縮される。濃縮スラッジは,槽中心の回転軸に取り付けられたレーキ(かき取り羽根)で中心部に集められ排泥される。そのほか,レーキの役割には圧縮脱水層の沈殿構造を破壊することにより濃縮度を高める作用もある。



✓ 沈降濃縮  Sedimentation Concentration


要はデカい容器に連続的に スラリーを装入して上澄み液と濃縮液とに分離する訳なんですが、基本的には重力を利用する「沈降濃縮」となります。固体粒子が液体 (普通は水でしょうか) 中を重力で沈降するので このブログでも何回も取り上げている 「終末速度」 Terminal Velocity  が重要となります。つまりは、ある特定の直径を持つ固体粒子はその直径に応じた終末速度で沈降します。なんですが、上記の図にあるようにシックナーの底部に近づくとだいぶ固体粒子の濃度が大きくなってきます。そうなると、沈降速度は 単一粒子の終末速度よりは遅くなります。ここいらについては、「No.105 干渉沈降速度」 でも触れています。で、理論的に取り扱うってのは 難しいですよね。しかも、固体粒子が粒子径分布を持っているのであれば更に話は厄介となって、計算してチャチャッと沈降速度を求めるのは不可能ですね・・・。なんですが、沈降濃縮したい懸濁液自体は 既に有る訳なんで それをエイッとメスシリンダーに放り込んで観察すれば、沈降濃縮の過程を実験的に把握する事は出来ますよね。こうして得られるのが「回分沈降曲線」で、そのデータを使ってシックナーを設計出来るんですね。

✓ キンチの理論  Kynch Theory

で、回分沈降曲線の実験データから干渉沈降速度を得る方法がキンチの理論となります。下図が回分沈降曲線ですが 沈降開始からしばらくの間は 清澄層と沈降層との界面は一定速度で下方に移動します。で、この時 界面濃度は初期濃度に保たれていると見なせますし、沈降速度は 単一固体粒子の沈降速度と同じくらいだと考えられます。更に沈降が進むと 界面の移動速度は低下してきます。界面における固体粒子濃度が高くなり、干渉沈降状態になる為です。この時、界面の降下速度はその界面における 干渉沈降速度に等しいと考えられます。

知りたいのは界面濃度とその濃度における干渉沈降速度なんですが、以下のように考えます。初期の固体粒子濃度 C0 よりも高い任意の濃度を CL として、その濃度を有する層がどっかに有ると考えます。そして、この層は 沈降初期において シリンダーの底に有ると考えます。で、粒子がどんどん沈降してくるので  その層自体は上の方に移動して行く事になります。最終的にこの層は 界面に到達しますが、その時 界面濃度は 最初に決めた任意濃度 CL になっている事になります。ここで、式①を濃度 CLの層が上方に移動する速度とします。濃度 CLの層が界面に到達したと言う事は、シリンダー内に有った全ての粒子はこの層を通過した事になりますね。層はシリンダーの底から界面まで移動しますし、界面から上には粒子は全く存在しないので。層の移動速度に加えて粒子の干渉沈降速度を加え、その値に経過時間と層の濃度とシリンダー断面積を掛け算すれば 、それは粒子全量となります。で、この粒子全量はシリンダーに仕込んだ粒子全量に当然等しくなります。これが式②となりますが、少々 分かりにくいですね。式②を変形すると式③となり CL層の濃度が得られます。ただ、ここには干渉沈降速度 vCL が含まれています。で、この値については回分沈降曲線の接線の傾きとして得られます。最終的に式⑤が得られます。



✓ シックナー 断面積  Thickener  Area


参考書籍にはシックナー断面積 A を求める為の計算式が記載されています。シックナーは円形なので 断面積が分かれば、直径 D が求まります。で、シックナー全体の物質収支、濃度 CL の層における物質収支を考えれば以下のようになります。まず、シックナー全体の物質収支から式⑨が得られます。また、濃度 CL の層において 固体粒子の分離が進行しているものとして物質収支をとり、式⑨とイコールとします。これで 清澄液流量 QC が得られた訳ですが、これをシックナー断面積で割り算すれば 液の上昇速度  QC/A となります。で、この液上昇速度と干渉沈降速度とを比較して 干渉沈降速度の方が十分に大きければ シックナーは安定的に運転される事になります。




計算例  Examples


✓ 計算条件   conditions

  • 初期スラリー濃度   10 [kg/m3]
  • スラリー供給流量   36 [m3/hr]
  • 出口濃度       60 [kg/m3]
  • 回分沈降実験データは下表のとおり




✓ 結果  Results


まずは、回分沈降実験のデータをグラフ化します。次に、いくつかの zi を設定して その値に対応する CL の値を式⑤を使って求めます。また、zi の値を切片とする直線を引きますが、この直線は回分沈降曲線の接線となる必要が有ります。で、その接線の傾きが 干渉沈降速度 vCL となります。

下図がその結果となります。で、手っ取り早いのが回分沈降曲線にエイッと接線を引いてみて、x 切片と y 切片 の値を求めれば傾きが得られます。なんですが、さすがにアナログですね。なので、少しだけ工夫しました。まず、回分沈降曲線の一部を二次関数で近似しました。また、接線を表わす一次関数ですが y 切片は zi として既知です。なので、傾きの値だけが未知となるんで エイッと計算出来ますね。実際には、 ax2 + bx + c = mx + n とおきますね。左辺が回分沈降曲線の二次関数で、右辺が一次関数です。で、二次関数に一次関数が接する場合、接点は1点だけですね。つまり、上記の  ax2 + bx + c = mx + n  において 解は 重解となります。なので、判別式 において その値が ゼロとなります。となるような 傾き m を求めれば良いですね。で、すこし面倒くさいのが 回分沈降曲線 全体を 二次関数で近似する事は出来ないって事です。なので、回分沈降曲線の一部を二次関数で近似して得られたのが下図の結果となります。まあ、もっと良い方法も有るんだと思いますけども。



接線の傾きが得られれば、その値を使って 式⑫からシックナー断面積 A が得られます。実際には zi の値をいくつか変えてみて接線の傾きを求め、そして式⑫で断面積を求めます。実際の計算結果は下図のようになります。見て分かるように、最大値をもつ上に凸の曲線となります。結果的に、シックナー断面積をこの最大値とすれば所定の条件で 安定して運転が可能と言う事になるのかなと。今回の例ですと、シックナー断面積 57 [m2] となり、直径は 8.5 [m] となりますね。  




シックナー外形を図にしてみるとこんな感じです。シックナーの深さですが、これは適当に描いています。深さはシックナーの体積に関係しますが、調べてみても 明確な設計方法ってのは見つけられませんでした。いくつか言及されている参考書籍は有りましたけど。




まとめ  Wrap - Up


今回は 沈降濃縮操作において使用される シックナーの設計と言うか 断面積について計算してみました。興味深い点も有りますが、粉体特有の取り扱い方法も有るんで 簡単では無いですね。まあ、回分沈降曲線を採取する事が出来れば ある程度は仕様を詰める事も出来るんだとは思いますけど。それと、今回 全く触れてないのがレーキですね。排泥を促進する為に、レーキがゆっくりと回転しています。濃厚層を掻き取ってシックナー底部に送り出す様な機能が有るんだと思いますけど。このレーキは デカいインペラな訳ですが この撹拌動力ってのは一体どれくらいになるのかなと・・・。一応、計算している参考書籍とかも有りましたけど。んでも、レーキで掻き回しているのは濃厚なスラリーとかなんで 見掛け粘度も一体どれくらいなのか。まあ、粉モノはやはり難しいですよね。





※ 今回も Google Gemini にシックナーを含む画像を作成して貰いました。何の問題も無いですね。

参考書籍・文献   References


  1. 「基礎化学工学 増補版」 培風館 2021年刊
  2. 「第3版 化学工学」 槇書店 2006年刊
  3. 「粉体工学叢書 第4巻 液相中の粒子分散・凝集と分離操作」
       日刊工業新聞社 2010年刊












 






 

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