今回は沸騰熱伝達 Boiling Heat Transfer について取り上げてみます。日常生活においてもすご~く一般的に遭遇します。寒い時期、お休みの日の朝は紅茶を飲みますけど まず電気ポットでお湯を沸かします。紅茶なのでお湯はボコボコっと沸騰させますよね。で、この沸騰ですが参考書籍には次のように書いてあります。
「沸騰伝熱では、伝熱面とこれに接する液体の温度が蒸気相を形成するのに十分な条件のもとで、蒸気泡あるいは蒸気塊の発生を伴って、伝熱面から液体へ熱が伝えられることである」
で、この沸騰伝熱ですが A : 流動形式と B : バルク液温に着目すると次の様式に分類されると有ります。
- A1 : プール沸騰 Pool Boiling 自然対流条件下の沸騰
- A2 : 強制対流沸騰 Forced Convection Boiling 強制対流条件下の沸騰
- B1 : 飽和沸騰 Saturation Boiling バルク液温が飽和温度
- B2 : サブクール沸騰 Subcooled Boiling バルク液温が飽和温度以下
実務では 沸騰伝熱ってのはほとんどやった事は無いですね。数少ない例として、脱モノマー装置用 多管式熱交換器の伝熱管内部では モノマーがボコボコ沸騰していたと思いますけども。関連する投稿としては「化工計算ツール No.44 ポリマー脱揮装置」が有ります。 んで、すご~く高粘度液における沸騰現象については 熱伝達係数推算式とかが無いので、層流域における強制対流熱伝達係数を使ってました。何故そう考えたかと言うと、強制対流伝熱に相変化の影響が加味されれば熱伝達係数は増加しますよね、多分。 なので、層流強制対流熱伝達を前提として 伝熱面積を決定しておけば 安全側の設計となるので、伝熱面積が足りないっ!! って事は無いだろうと 考えてましたね。まあ、実際 使い物にはならないって事は無かったですね。と言う事で、いくつか沸騰熱伝達係数を計算してみようかと。
沸騰伝熱とは? What is Boiling Heat Transfer ?
✓ 沸騰曲線 Boiling Curve
この沸騰伝熱ですが 多数の研究者によって実験データが採取されてますね。なんでかと言うとボイラーの設計とかに必要だからだと思います。例えば、火力発電所であればボイラーでスチームを発生させて、そのスチームで発電機のタービンを回して発電します。スチームは復水器で水に戻して、再度 ボイラーに供給されます。そのボイラーですが、水管の熱伝達係数がどれくらいなのか? が不明であれば ボイラーの伝熱面積を決定する事は出来ませんね。
沸騰伝熱も熱移動なので駆動力としての温度差が必要ですが、温度差を様々に変化させた実験を実施して その際の熱移動速度を実測すれば良いですね。そして、温度差に対して熱流束をプロットしてみれば 沸騰伝熱の全容が分かります。このプロットこそが 所謂 沸騰曲線 Boiling Curve であり、1934年 抜山 四郎先生によって発見されました。後年、抜山先生の実験を追試した結果が下図となります。プール沸騰における沸騰曲線となりますが、図の下の方には沸騰気泡の様相も併せて示しています。
で、この沸騰曲線を見る限り なるべく伝熱性能が良いところで装置を運転したいですよね。となると、極大値である点D かそのちょっと手前を運転ポイントとするのが普通ですね。つまりは、核沸騰領域における熱伝達係数を計算出来るような実験式があれば OK となります。
沸騰伝熱も熱移動なので駆動力としての温度差が必要ですが、温度差を様々に変化させた実験を実施して その際の熱移動速度を実測すれば良いですね。そして、温度差に対して熱流束をプロットしてみれば 沸騰伝熱の全容が分かります。このプロットこそが 所謂 沸騰曲線 Boiling Curve であり、1934年 抜山 四郎先生によって発見されました。後年、抜山先生の実験を追試した結果が下図となります。プール沸騰における沸騰曲線となりますが、図の下の方には沸騰気泡の様相も併せて示しています。
- 区間AB 対流伝熱
自然対流が起こっている状態で、温度差が大きくなると熱流束も増加します。で、ここでは沸騰はしていません。 - 区間BC 核沸騰 孤立気泡域
この図では 温度差 6 ℃ で沸騰が開始していますが、伝熱面から プクプクと気泡が発生するようになります。詳しく見ると 蒸気泡が発生し成長して 離脱します。ここで温度差が大きくなるとそのサイクルが早くなるんですね。で、蒸気泡が連なって蒸気泡柱のように見えます。更に温度差を大きくすると 蒸気泡柱の数がどんどん増えていきます。ただし、柱の数が少ないと蒸気泡は個別に上昇するので孤立気泡域なんですね。 - 区間CD 核沸騰 気泡合体域
高熱負荷状態であり気泡の発生・干渉・音を伴う激しい沸騰となります。そして、点D が沸騰熱伝達の極大値となります。 - 区間DE 遷移沸騰
この区間では 温度差が大きくなっても熱流束は低下します。発生した蒸気泡は合体して不規則な形状の蒸気塊が形成されます。 - 区間EF 膜沸騰
蒸気塊が伝熱面全体を覆うようになると蒸気膜が形成され、今度は一転して静かな状態になります。この状態では蒸気膜内の熱伝導と熱放射によって熱が移動します。点E は極小値をとりますが、その後は熱流束が再び増加するようになります。
で、この沸騰曲線を見る限り なるべく伝熱性能が良いところで装置を運転したいですよね。となると、極大値である点D かそのちょっと手前を運転ポイントとするのが普通ですね。つまりは、核沸騰領域における熱伝達係数を計算出来るような実験式があれば OK となります。
✓ 核沸騰 熱伝達係数 計算式 Nucleate Boiling Heat Transfer Equations
前述のとおり核沸騰領域の計算式が有れば非常に有用ですが、実際にいくつか代表的な計算式が有りますね。Kutateladze の式、Rohsenow の式 そして 西川-藤田の式とかでしょうか。またこれら以外にも簡便な計算式も有りますね。で、これらの計算式は プール沸騰における実験データを整理したものになるようです。んじゃ、強制対流沸騰には使えないのか? となるとそうでは無くて、核沸騰領域であれば プール沸騰と強制対流沸騰との差異は比較的に小さいと参考書籍には記載されています。更には、それ以外の条件 例えば 伝熱面の寸法、形状、姿勢などの影響もそれほどには大きくは無いとされています。何故そうなのかと言えば、核沸騰現象が伝熱面のごく近傍の現象に強く支配される為であると説明されています。なので、バルク流体が止まっていようが流れていようが、小さかろうが大きかろうが、水平であろうが垂直であろうが あまり関係無いって事になりますね。勿論、場合によると思いますけども。
で、上記の 3つの計算式は以下のとおりです。パッと見て、対流伝熱の計算式とは少し違いますね。例えば、レイノルズ数 Re が含まれていません。さすがに、液物性とかプラントル数 Pr は含まれていますけど。それと、式①・②・③を見ると 右辺には 熱流束 q が含まれています。普通は 熱流束 q = 熱伝達係数 h × 温度差 Δt なので、 求めた h に 適当な Δt を掛け算すれば q が得られます。なのに、h を求めるのに q が必要であるとなると一筋縄では行きません。なので、試行錯誤法で解く必要が有ります。q を仮定して h を計算し、その得られた h から q を計算します。Δt は別途 決めておきます。実際には EXCEL のソルバー機能を使って計算出来ます。とまあ、少しだけ面倒くさいんですが 何故 そうなるかと言えば、熱流束によって 沸騰現象が影響を受けると言う事なんだと思います。
で、上記の 3つの計算式は以下のとおりです。パッと見て、対流伝熱の計算式とは少し違いますね。例えば、レイノルズ数 Re が含まれていません。さすがに、液物性とかプラントル数 Pr は含まれていますけど。それと、式①・②・③を見ると 右辺には 熱流束 q が含まれています。普通は 熱流束 q = 熱伝達係数 h × 温度差 Δt なので、 求めた h に 適当な Δt を掛け算すれば q が得られます。なのに、h を求めるのに q が必要であるとなると一筋縄では行きません。なので、試行錯誤法で解く必要が有ります。q を仮定して h を計算し、その得られた h から q を計算します。Δt は別途 決めておきます。実際には EXCEL のソルバー機能を使って計算出来ます。とまあ、少しだけ面倒くさいんですが 何故 そうなるかと言えば、熱流束によって 沸騰現象が影響を受けると言う事なんだと思います。
計算例 Examples
✓ 水 Water
大気圧下の水を沸騰させる場合の核沸騰 熱伝達係数を計算してみます。バルク水温は 100 [℃] となります。一方、伝熱面表面温度は 110 [℃] とか 100 [℃] よりも高くします。この時、温度差は 10 [℃] となります。
で、計算してみると 熱流束も熱伝達係数もすご~く大きいです。熱伝達係数値が 1万を超えるような計算結果には ほとんどお目にかかった事は無いですね。勿論、総括伝熱係数になれば もっと小さい値にはなりますけど。やはり、相変化と言うか潜熱の効果は絶大ですね。これは凝縮の場合もそうなります。
で、各計算式の値を比較するとまあ差異はありますけど、傾向はほぼ同じですね。一応、温度差 10 [℃] における熱伝達係数値を比較すると以下のようになります。それと、計算式を一つ追加しています。 Stephan - Abdelsalam の式ですがこちらはすごく単純な式となります。だからと言う訳では無いですが、他の計算式と比較すると少し差異が大きいですね。それ以外の 3つの式はどれも同程度の値なので どれを使っても特に問題は無いかなと思います。まあ、一般的なのは Kutateladze の式なんでしょうか。
で、計算してみると 熱流束も熱伝達係数もすご~く大きいです。熱伝達係数値が 1万を超えるような計算結果には ほとんどお目にかかった事は無いですね。勿論、総括伝熱係数になれば もっと小さい値にはなりますけど。やはり、相変化と言うか潜熱の効果は絶大ですね。これは凝縮の場合もそうなります。
で、各計算式の値を比較するとまあ差異はありますけど、傾向はほぼ同じですね。一応、温度差 10 [℃] における熱伝達係数値を比較すると以下のようになります。それと、計算式を一つ追加しています。 Stephan - Abdelsalam の式ですがこちらはすごく単純な式となります。だからと言う訳では無いですが、他の計算式と比較すると少し差異が大きいですね。それ以外の 3つの式はどれも同程度の値なので どれを使っても特に問題は無いかなと思います。まあ、一般的なのは Kutateladze の式なんでしょうか。
✓ トルエン Toluene
水だけだと面白く無いので 有機液体についても計算してみます。と言う事で、トルエンの核沸騰 熱伝達係数を計算してみると下図の結果となりました。両対数グラフにプロットしてみると直線になるんで、傾向としては水の場合と同じです。
ただし、熱伝達係数値は水の場合と比較して大きく違いますね。まあ潜熱や熱伝導率など物性が大きく違いますし。また、各計算式の結果ですが Stephan - Abdelsalam 式は大幅にズレてしまっています。トルエンの定数値が無かったのでベンゼンの値を使いましたけど。まあ、普通に Kutateladze の式で計算すれば 良いんだと思います。
まとめ Wrap - Up
今回は沸騰伝熱について取り上げて、核沸騰熱伝達係数の値を計算してみました。相変化を伴う熱伝達なので やはり熱伝達係数値は大きいですね。計算式もいくつか有りますが、まあ伝熱の教科書に載っているような一般的なものを使えば大きな問題は無いかと思いますね。で、沸騰伝熱ですが冒頭で触れたように 沸騰曲線がその現象を端的に表わしているのかな~と思います。今回は特に触れていませんが、現象論的にはすごく複雑で全容が完全に解明された感じでは無いのかなと思います、個人的な見解ですけど。ただ、経験式とか実験式はあるのでそれらを用いれば、機器の設計は出来るんだろうとは思います。
沸騰曲線を発見された 抜山 四郎先生ですが、1896年生まれで1920年 東京帝国大学を卒業後 東北帝国大学 講師に着任され、1926年からは教授として教鞭を取られたとの事です。原著論文である 「金屬面と沸騰水との間の傳逹熱の極大値竝に極小値決定の實驗」は 1934年 機械学会誌に発表されました。その後、1968年には The Max Jakob Memorial Award を日本人としては初めて受賞されています。因みにこの Max Jakob 賞ですが 毎年選出されていて、選考委員会は アメリカ機械学会 ASME と アメリカ化学工学会 AIChE からのメンバーで構成されるとの事です。なので、ガチガチでゴリゴリな伝熱関連の賞ですね。原著論文をそのまま読んでも良いですけど、それを 抜山先生の弟子である 武山 斌郎先生が解説された記事が 化学工学会誌にあってそちらの方が分かりやすいですし、もっと面白いですね。
冒頭でも触れたように 沸騰伝熱が関与するような熱交換器の設計はした事は無いですね~。凝縮器とかコンデンサーとかは結構頻繁に技術検討やら計算やらをしていましたけど。まあ、蒸留塔のリボイラーとかであれば 再沸器と言うくらいなので沸騰していると思いますが、唯一検討した事のあるリボイラーも流下液膜式だったんですね。まあ、伝熱管の下の方では沸騰していたのかも知れませんけど。サーモサイフォン式は見たりした事はありますけど、技術検討した事は無いですね。 また、多成分系の沸騰についても参考書籍には載ってたりしますけど、どの程度 使えるのかは正直不明です。ここまで来るとエンジニアリング会社さんに依頼して HTRI, Heat Transfer Research, Inc. の熱交換器設計ソフトウェアで計算して貰うのが得策かなとは思います。
沸騰曲線を発見された 抜山 四郎先生ですが、1896年生まれで1920年 東京帝国大学を卒業後 東北帝国大学 講師に着任され、1926年からは教授として教鞭を取られたとの事です。原著論文である 「金屬面と沸騰水との間の傳逹熱の極大値竝に極小値決定の實驗」は 1934年 機械学会誌に発表されました。その後、1968年には The Max Jakob Memorial Award を日本人としては初めて受賞されています。因みにこの Max Jakob 賞ですが 毎年選出されていて、選考委員会は アメリカ機械学会 ASME と アメリカ化学工学会 AIChE からのメンバーで構成されるとの事です。なので、ガチガチでゴリゴリな伝熱関連の賞ですね。原著論文をそのまま読んでも良いですけど、それを 抜山先生の弟子である 武山 斌郎先生が解説された記事が 化学工学会誌にあってそちらの方が分かりやすいですし、もっと面白いですね。
冒頭でも触れたように 沸騰伝熱が関与するような熱交換器の設計はした事は無いですね~。凝縮器とかコンデンサーとかは結構頻繁に技術検討やら計算やらをしていましたけど。まあ、蒸留塔のリボイラーとかであれば 再沸器と言うくらいなので沸騰していると思いますが、唯一検討した事のあるリボイラーも流下液膜式だったんですね。まあ、伝熱管の下の方では沸騰していたのかも知れませんけど。サーモサイフォン式は見たりした事はありますけど、技術検討した事は無いですね。 また、多成分系の沸騰についても参考書籍には載ってたりしますけど、どの程度 使えるのかは正直不明です。ここまで来るとエンジニアリング会社さんに依頼して HTRI, Heat Transfer Research, Inc. の熱交換器設計ソフトウェアで計算して貰うのが得策かなとは思います。
参考書籍・文献 References
- 「大学講義 伝熱工学」 武山 斌郎、大谷茂盛、相原 利雄 著 丸善 1983年刊
- 「伝熱概論」 甲藤 好郎著 養賢堂 1964年刊
- 「沸騰熱伝達の基本構造」 西尾 茂文著 インプレス 2018年刊
- 「伝熱工学資料 改訂第4版」 日本機械学会編 丸善 1986年刊
- 「金属面と沸騰水との間の伝達熱の極大値並びに極小値決定の実験」
抜山 四郎 日本機械学会誌 第37巻 第206号 1934年 - 「化学工学の原典シリーズ」 武山 斌郎 化学工学会誌 第45号 第3号 1981年






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