化工計算ツール No.139 物性 熱伝導率  Physical Property Thermal Conductivity

 今回は 久しぶりに物性がらみの投稿として、熱伝導率 Thermal Conductivity を取り上げてみます。このブログでも物性のひとつである比熱 Specific Heat について取り上げていますね。ケミカルエンジニアリング分野では、プロセスの熱収支を計算する上で比熱は絶対に必要な物性です。一方、同じ熱物性である 熱伝導率は熱交換器などのプロセス機器を設計や仕様決定において必要となる感じでしょうか。熱交換器と言えば、熱伝達係数を推算しますけども 推算式にはプラントル数とかヌッセルト数などの無次元数を含みます。そして、プラントル数の定義は  Pr = (比熱 Cp)×(粘度 μ) / (熱伝導率 k)  であり、熱伝導率を含みます。また、ヌッセルト数の定義は Nu = (熱伝達係数 h) × (代表寸法 L) / (熱伝導率 k) であり、やはり熱伝導率を含みます。

実務でも熱伝導率の値は頻繁に使ってましたね。その際に重要なのは 温度依存性が明らかになっていると言う事でした。溶液重合のポリマープラントで言えば、0 [℃] くらいから 300 [℃] までの熱物性が必要となりますね。原料タンクは常温ですし、溶液重合の反応器は 100 ~ 150 [℃] で運転されます。脱モノマー装置では更に高い 150 ~ 200 [℃] で運転されます。そして、これまた重要なのは熱媒体油でしょうか。プラントをコールド状態からスタートアップするのであれば 真冬の熱媒温度  0 [℃] ぐらいから 熱媒ボイラー出口温度 300 [℃] までの広い範囲の温度依存性が必要となります。まあ、大抵の場合 メーカーから熱物性値が温度依存性 込みで提供されますよね。最近であれば ネットでダウンロード出来たりするんでしょうか。

その昔、勤務していた企業では熱媒体油を取り扱っていたんですね。で、熱物性値などが記載されている小冊子を顧客サービス的な感じで配布してたんですね。たまに、外部の装置メーカーに試験の立ち会いとかで行くと、「今度の試験の時で良いんでその冊子を頂けませんか? 」的な依頼が有ったりしましたね。と、そんな事を思い出しました。それくらい熱物性の入手ってのは大変だったな~って事ですね。とまあ、そんな感じでいろいろな物質の熱伝導率を比較してみようかなと。



熱伝導率とは? What is Thermal Conductivity?


✓ フーリエの法則  Fourier's Law of Heat Conduction

このブログでも熱伝導については それこそ何回となく取り上げていますけど、固体内の熱伝導現象は下図のようになります。熱流方向の温度勾配 dT/dx [K/m] とすると、この熱流に垂直な単位面積を単位時間に通過する熱流束 q [W/m2] は図中の式によって表わされます。ここで 比例定数 k [W/m K] は物質に固有な値で 熱伝導率と呼ばれます。

※ この熱伝導率ですが 伝熱関連の書籍には 一般的に λ (ラムダ) が使われる例がほとんどのように思います。なんですが、化学工学関連の書籍だと k (ケイ) が使われている例が多いように思いますね~。λ はギリシャ文字で入力するのが少し面倒なので k をずっと使っていますね。
 



✓ 様々な物質の熱伝導率  Thermal Conductivity of Various Materials


細かく見ていく前にいろいろな物質の熱伝導率を概観してみます。参考書籍に記載されている熱伝導率の温度依存性を基にして作成したのが下図となります。ものすごく差異が大きいのが分かります。ザックリと言うと、熱伝導率の大きさは 気体 < 液体 < 固体 となっているのが分かります。勿論、同じ固体でも 金属は 数百 [W/m K] と大きな値ですが、 ポリマーなどの有機物だと 0.1 ~ 0.5 [W/m K] とだいぶ小さくなります。そして、水や液体アンモニアなどの液体類は 0.1 ~ 1 [W/m K] くらいです。そして、気体類ですが更に小さくなりますね。ただ、分子量が極端に小さい水素とヘリウムだけはだいぶ大きめですね。
それと、温度依存性ですが 気体では温度上昇に伴って 熱伝導率も大きくなります。液体では上がるものも下がるものも有ります。固体である金属は極低温域では大きくなるようですが、その後はほぼ一定になるようです。

参考書籍には、物質の種類別に熱伝導率のどのような因子で決定されるのか、そして どのような温度依存性を有するのかについて記載されているので簡単にご紹介しておきます。

  • 気体 Gas
    気体は互いに衝突しながら飛び回っている分子の集まりであり、厳密には分子間力の影響も有りますが、よほどの高圧・低温で無ければ 理想気体として取り扱えますね。で、細かい部分は省略しますけど、気体の熱伝導率は ①分子量、②平均速度、③平均自由行路、④比熱が関係すると参考書籍には有ります。そして、温度上昇に伴って平均速度と比熱が増加するので 結果として 熱伝導率が増加すると有ります。また、圧力についてはものすごく低い圧力で無い限りは、あまり影響は無いようです。実際には僅かに上昇するようですけど。

  • 液体 Liquid
    液体では分子がギチギチに詰まっているので、分子の振動が次々に隣の分子に伝わって事によって熱が伝わると考えられます。これまた、詳細は省略しますけど液体の熱伝導率は液中の音速 Speed of Sound によって整理出来るんだそうです。具体的には、(熱伝導率)/(密度×比熱) の値が音速に比例するとの事です。まあ、例外はいくつか有るようですけど。んで、液体はいろいろとありますけど水の熱伝導率は最高値なんですね。そして、水中の音速も最高値です。で、水の熱伝導率は温度上昇に伴って増加しますけど、ほとんどの有機液体では減少します。これは、音速の温度依存性によって説明出来るとの事ですね。

  • 非金属固体 Nonmetallic Solids
    非金属固体としては水晶などのような結晶体とガラスのような非晶体が有りますが、温度依存性は全く異なります、との事です。確かに図を見ると水晶 Quartz と食塩 NaCl は温度上昇に伴って熱伝導率は減少します。一方、石英ガラス Quartz Glass は増加していますね。

    - 結晶体 Crystal
    原子が整然とかつ強固に配列し、原子間はそれぞれ弾性バネで結合されたような形になっています。で、エネルギーは一組の原子間ごとに単独で伝えられるのでは無く、多自由度振動系を伝わる熱弾性波 Thermoelastic Wave として伝えられるんだそうです。で、波なので相互に干渉する事で散乱して減衰するそうです。そして、この熱弾性波の散乱は温度が高いほど大きくなるので 結果として熱伝導率は低下します。

    - 非晶体 Amorphous
    結晶体と違って格子構造が不規則なので熱弾性波は発生しないとの事です。結果として結晶体よりも熱伝導率は小さくなります。そして、熱伝導率は比熱に比例する事になるので温度上昇に伴って熱伝導率も増加します。う~ん、少し分かりにくいですが バネがすごく強くてギチギチになってるって感じでしょうか。有機固体もこの非晶体と同じ性質になり、熱伝導率は液体のそれと同程度となります。

  • 金属 Metal
    金属は電気と熱の良導体ですが、その理由は金属のなかに自由電子があるせいなんですね。で、この自由電子ですが結晶格子に衝突しつつ運動しており、この自由電子が輸送する熱が金属の熱伝導を実現している事になります。で、電子の移動速度は温度上昇によって増加します。ですが、格子振動も大きくなるので自由電子の運動は妨げられ 平均自由行路は大きく減少します。結果として、温度が高くなると熱伝導は低下するんだそうです。


熱伝導率の値  Thermal Conductivity Value

ここからは熱伝導率の値を見ていきます。温度依存性が重要とか言ってますけど、とりあえず 常温 300 [K] における値としています。まあ、物質による熱伝導率の大小が分かれば良いかなと。

✓ 純金属 Pure Metal

所謂 金属元素ですね。銅とか鉄とかアルミとかが該当します。下図を見て分かるように値がデカいですね。ただ、そうじゃないのも有るんですね。チタンとかは結構低いです。と言っても、ステンレス鋼よりは大きいですけども。で、下図における 熱伝導率 上位 5元素ですが、周期律表において近いところに有って、銅・銀・金はキレイに3つ並んでいます。まあ、3つとも遷移金属ですよね。そして、下位5元素ですが セレン、マンガン、ビスマス、チタン、ジルコニウムとなります。こちらに関してはバラけている感じです。まあ、物性論とかでは理論的に整理されているのかも知れませんけど、ここでは触れません。どれくらいの値なのかが重要ですし。そして、銅とかであれば装置材料として使用するかも知れませんけど、金とか銀はよっぽどの事が無い限り使いませんよね・・・。




✓ 合金 Alloys

ケミカルプラントにおける装置材料としては、こちらの合金のほうがよっぽど重要かなと。で、炭素鋼は 60 [W/m K] くらいで ステンレス鋼 SUS304 であれば 16 [W/m K] ってのを覚えておけば良いかなと。インコロイとかハステロイについては、ステンレス鋼よりも低いくらいで覚えておけば良いかなと。まあ、そうそう出くわす材料では無いと思いますんで。それで、いつも思うのはステンレス鋼の熱伝導率の小ささですね~。炭素鋼はそれなりに有るので、せめて半分くらいは有って欲しいです。なかなか無い例だとは思いますけど、反応器の仕様決定でボトルネックになるケースが有ったんですね。そんな時は苦肉の策として、クラッド鋼 Clad Steel を使います・・・。


✓ 固体  Solid

純金属、合金以外の固体となります。熱伝導率の値を見て分かるように金属・合金類と比較してだいぶ小さいですね。ガラス類とか岩石などは比較的に大きいですが、樹脂などの有機物は大体 0.2 [W/m K] くらいでしょうか。なので、ザックリとこの値を覚えておけば良いですね。


✓ 液体  Liquids

次は液体ですが、こちらも水を除いて だいぶ小さいですね。ケミカルプラントであれば、原料や溶剤として有機液体を頻繁に使うわけですが、まあ 実際には常温よりも高い温度で使うのがほとんどなので やはり温度依存性が必要になるって事ですね。




✓ 食品  Food


このブログでは食品を温めたり焼いたりする過程をアレコレ言ってますんで、食品の熱伝導率についても触れておきます。まあ、食品ってのは 水分を含むんで 水の熱伝導率の影響を強く受けるのは容易に想像されます。で、食品の成分ってのは 脂肪・脂質、炭水化物、タンパク質ですが まあ有機物なので やはり小さくて 0.2 [W/m K] くらいでしょうか。そして、水は 0.6 [W/m K] なので、食品の熱伝導率ってのは 両者の中間の値になるのかなと。まあ、下図を見てみると大体そんな感じになってますよね。




✓ 気体  Gas


次は気体ですが、まあ更に熱伝導率は小さくなりますね スカスカなので。どれも似たような値ですが、ヘリウムと水素の値が突出して大きくなっています。これは、分子量が極端に小さい為だそうですね。




✓ 熱伝導率と熱拡散率  Thermal Conductivity and Thermal Diffusivity


最後に熱伝導率に対して熱拡散率をプロットした結果で締めてみたいと思います。この熱拡散率は温度伝導率とも言いますが、定義は 熱拡散率 a = 熱伝導率 k / (密度 ρ × 比熱 C) となります。例えば 、物質の比熱の値がすご~く大きいと なかなか温度が上がりにくいですよね。となると、定義式からその場合の熱拡散率は小さくなります。逆に 比熱が小さいと 熱拡散率の値は大きくなるので、温度が上がりやすい事になります。なので、端的に言うと 熱伝導率は定常状態における熱の伝わりやすさを表わしており、一方 熱拡散率は 非定常操作における温度の上がりやすさを表わしている事になります。まあ、下図を見て分かるように 両者は大体比例しています。そして、物質の種類によって いくつかのグループに分かれているのが分かりますね。物質名を描いているのでだいぶゴチャついて分かりにくいですけど・・・。



まとめ  Wrap - Up

今回は輸送物性の一つである熱伝導率について取り上げて いくつかグラフにしてみました。まあ、物質によって結構な差異が有るには有るんですが 例えば 有機物では そこまで大きな差異は無いのが分かります。なので、よほど特殊な物質でなければ値を エイッと仮定して 熱計算しても それほどには問題にはなりませんね。勿論、ちゃんとした仕様計算であれば 温度依存性などを考慮した近似式を書籍とか物性データベースから持ってくる必要が有りますけど。

それと、純金属の銀・銅・金ではものすごく熱伝導率が大きいのは分かりましたけど、更に大きなものが有りますね。それは、言わずと知れた 「ダイヤモンド」 Diamond です。炭素の結晶ではあるんですが、熱伝導率の値は実に 2000 [W/m K] との事です。銀のさらに4倍も大きんですね。で、ふと思い出したのが 偽ダイヤとの見分け方です。偽ダイヤとしては二酸化ジルコニウムを原料にしたキュービックジルコニアが使われるそうですが、熱伝導率は 2 [W/m K] くらいで圧倒的に小さいですね。そこで、両者にハ~ッと息を吹きかけると、偽ダイヤはすぐに曇って なかなか曇りがとれませんが、本物のダイヤでは曇ってもすぐに曇りが無くなるんだとか。これはネットでは一般的な知見なようで沢山出てきますね。まあ、これだけ熱伝導率が違えば 少し指で触っただけでも 違いが分かると思いますけども。1000倍くらい差異があるので・・・。


参考書籍・文献  References

  1. 「大学講義 伝熱工学」 武山 斌郎、大谷茂盛、相原 利雄 著 丸善 1983年刊
  2. 「伝熱概論」 甲藤 好郎著 養賢堂 1964年刊
  3. 「伝熱工学資料 改訂第4版」 日本機械学会編 丸善 1986年刊



 





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