化工計算ツール No.143 液体輸送ポンプの軸動力  Shaft Power of Liquid Transport Pump

 今回は液体輸送ポンプの軸動力について取り上げます。ケミカルプラントでは、原料や溶媒などの液体を所定流量でこっちからそっちへと移送すると言う事は非常に頻繁に行なわれています。まあ、液体なのでポンプと配管を組み合わせて使用するのが一般的ですね。それなりに規模のあるプラントであれば、タンクヤードからプロセスヤードまで結構距離が有ったりしますけど、パイプラック上にズラ~っと並んだ配管を使って移送しますね。また、プロセスヤード内でもこっちのベッセルからそっちのベッセルにプロセス流体を移送するってのも良く有る事かなと。

実務でもそれこそ何回となく検討した内容ですね。高粘度のポリマー溶液を移送する場合も有りましたし、低粘度のプロセス流体を移送するってのも有りました。検討において必要となるのは移送される液体の流量や物性、吸引側・吐出側の温度・圧力条件、そして 配管仕様(径・実長・実揚程) でしょうか。流量は物質収支から引っ張ってこれますし、液物性は調べれば分かります。配管仕様についても、径については慣用流速を適用すれば決まりますね。ですが、配管の実長と実揚程についてはレイアウト Layout と言うかプロットプラン Plot Plan が必要となりますね。なので、新設する液体移送系の場合は自分でエイッと決めてやる必要が有ります。既設の液体移送系であれば アイソメ図 Isometrics を当たりますけど、古い設備で十分な情報が無い場合は、現場に調べに行ったりしてましたね~。

と言う事で、液体移送系における 輸送ポンプの軸動力について計算してみます。因みに高粘度ポリマー溶液の移送についてはこのブログでも「化工計算ツール No.45 ポリマー移送」で取り上げてますね。



液体輸送ポンプの軸動力  Shaft Power of Liquid Transport Pump


✓ 液体移送系  Liquid Transport System

今回 計算してみるのは参考書籍に記載されていた下図の液体移送系とします。液体は アセトン Acetone で温度は 25 [℃] とします。また、移送流量は 0.2 [m3/min] なので 12 [m3/hr] となります。で、そのアセトンを地下貯蔵タンクからプラント内の受槽までポンプで移送します。配管実長は 吸引側で 10[m]、吐出側で 100 [m] となります。また、高さは 貯蔵タンク液面から ポンプ吸引側までは 3[m]、液面から 受槽入口までは 25 [m] となります。バルブや継手類については図に描いてあるとおりです。

揮発しやすい液体を結構な距離 移送する感じでしょうか。それと、貯蔵タンクは地下に設置されているのでポンプ吸引側よりも下に有ります。なので、グイーっと吸い上げる必要が有ります。これが地上に設置されている貯蔵タンクであれば、何もしなくても流れ込んで来ますけども。

それとこれは余談ですが、ベッセルのどっちも通気管が有りますが無弁通気管となっています。まあ、これで事足りるんですが 確実に VOC は大気へと放出されますね・・・。なので、ブリーザーバルブを設置し 加えて ベントガスは局所排気配管で捕集して 処理するのかなと、現在では。



✓ 軸動力 計算式  Shaft Power Calculation Equations


導出の過程は省きますけど、ベルヌイの定理に実在流体の摩擦損失を加味したのが軸動力計算式となります。具体的には 式① と①' ですが、得られるのはポンプの機械的エネルギー [J/kg] となります。要はポンプによって流体に加えられたエネルギーなんですが、摩擦損失に起因する ΣF が加えられているのが ベルヌイの定理と違うところとなります。で、この Σ F は式②となりますが、見てみると ファニングの式と損失係数 Ka が組み合わさっているのが分かります。管内径とか管長は別途 決まりますし、損失係数 Ka の値は継手や弁の種類に応じて選択します。そして、摩擦係数 f ですが 管の粗度を考慮した計算式が有りますので、そちらを使用すれば良いですね。勿論、管内平均流速と密度、粘度を使って レイノルズ数を算出しておく必要が有ります。

式③はポンプ軸動力計算式ですが、式①と②から得られた機械的エネルギー We に体積流量 Q と密度 ρ を掛け算したのが分子となっていますが、これは所謂 水馬力 Water Horse Power と呼ばれるものです。水動力 Hydraulic Power とも呼ばれるのかなと。で、この水馬力をポンプ効率で割り算して得られるのが軸動力 Shaft Power となります。軸馬力とも呼ばれますね。Brake Horse Power とも言うのかなと。んでもって、式④は 全揚程 H を求める式となります。次元は長さで 普通は [m] で表記されます。PFDとか P&ID には機器仕様も簡単に記載されていたりしますけど、ポンプについては 機器番号・機器名称・型式・流量×揚程・電動機容量・材質とかでしょうか。10.5 [m3/hr] × 25 [m] とか書いてありますね。 

式⑤・⑥・⑦は ポンプキャビテーションに関する NPSH に関する計算式となります。式⑤は 有効 NPSH で液体移送系のポンプ吸引側において実際に達成出来る NPSH の値となり、条件を代入すれば計算されます。一方、式⑥は 必要 NPSH であり キャビテーションを起こさずに安定して液体移送する為に必要な NPSH の値となります。参考書籍には「メーカーから提示される」と有りますが、比速度とかを使うとザックリと計算できるようです。で、有効 NPSH は 必要 NPSH よりも 1[m] 以上大きい事が安定運転の条件となります。




計算例  Examples


✓ 流量 vs 動力  Flow Rate vs Power  

早速計算してみますが、冒頭でプロセスフローや諸条件は提示してあります。
25℃ のアセトンを地下貯蔵タンクからプラント内の 25 [m] 上部の受槽に流量 0.2 [m3/min] で移送します。で、計算してみると下図のとおりとなります。とその前に、実際の計算についてですが、具体的には式①' の右辺 第1項、2項 及び 4項に諸量を代入します。第3項はゼロとなるので考慮しなくても良いですね。 

  • 実揚程は 25 [m]なので z2 - z1 = 25 とする
  • 地下タンクにおける流速はゼロ u1 = 0 となる
  • 地下タンクと受槽はどちらも大気開放なので圧力差はゼロ
  • ΣF はポンプ吸引側損失と吐出側損失の合計とする  

計算自体は反復計算などを必要としないので楽ちんです。で、下図 上段グラフは 移送流量に対して水馬力、軸馬力、電動機容量をプロットしたものです。当然ですが移送流量が増えるといずれも増加しますね。計算条件である 移送流量 0.2 [m3/min] においては 電動機容量は 2.01 [kW] となります。まあ、流量もそこまで大きくは無いのでこんなものでしょうか。それと、ポンプ効率は 50 [%]、電動機効率は 80 [%] としています。本来はポンプ仕様書などから適切な値を入手する必要が有りますね。

で、移送流量に対して全揚程をプロットしてみたのが下段グラフとなります。緑色の実線 (抵抗曲線) を見ると動力のように右上がりの曲線になるんですけど、違うのは y切片が 25 [m] になっている点ですが これは 実揚程の値ですね。で、移送流量 0.2 [m/min] における全揚程のほとんどは 実揚程に起因するものだと言うのが分かります。 

また、所定の移送流量を実現する為には この要件に対応したポンプを設置する必要が有ります。そこら辺を描いたのが 下段グラフの 赤い実線で、ポンプの Q - H 曲線となります。Q は流量で H は揚程となります。この Q-H曲線は右下がりの曲線となりますが、この曲線と抵抗曲線の交点が運転点となります。なので、所定流量 = 運転点となるような ポンプを選定する必要が有りますね。まあ、実際には ポンプメーカーのカタログや開示資料を調査して適切な型式のポンプを選びます。最近はネットで調査出来るので そこまで手間では有りませんけど。




✓ 配管径の影響  Influence of Piping Size


次に配管径を変えてポンプ動力を計算してみます。流量は 0.2 [m3/min] で一定としていて、配管径は 5種類としています。下図 上段グラフは 各ケースにおける水馬力、軸馬力、電動機容量の計算値です。配管サイズについても描いていますけど、まあ結構違いますよね。なので、太い配管にすると動力は低下しますんで、電動機の消費する電気代は小さくて済みますね。んじゃ、それで良いんじゃないかとなりますが 話は簡単では無いですね。と言うのも、太い配管にすると言う事は それだけ大量に配管材料を使用するって事になります。と、その辺りを計算してみたのが下段グラフとなります。吐出側配管の実長は 100 [m] ですが、その重量を計算した結果です。当然ですが、太い配管の方が使用する配管重量も大きくなってます。つまり材料費や製作費がより多く必要になります。結局、経済的にちょうど良い配管サイズが存在する事になるんですね。




なんですが、毎回 こんな計算するのも面倒くさいです・・・。 指標の一つとして使えるのが慣用流速 (標準流速) となります。このブログでも取り上げています。ポンプ吐出側であれば 1 ~ 3 [m/s] が慣用流速となります。各ケースでの吐出側平均流速は以下のとおりですが、Case 3. が最も妥当な配管サイズって事になりますね。
 



それと、吸引側ですが Case 1. だとキャビテーション発生が懸念されます・・・。配管径が小さいので平均流速が大きくなり 結果として圧力損失が大きくなりますね。





まとめ  Wrap-Up


今回は液体輸送ポンプの軸動力を取り上げて、実際にポンプ動力を計算してみました。まあ、反復計算が必要になる訳でも無いですし数値を代入すれば動力値が得られるので、その点は楽ちんですね。それよりもレイアウトとかプロットプランに関する情報を集める方が大変だったな~と思いますね。何百ページもある配管アイソメ図から自分の知りたい部分(スプール図) を探し出して、エルボが何個とかバルブが何個とかを拾ってましたね。で、機器間の位置関係についてはプロットプラント図とかレイアウト図から別途 探してきますね。んで、分かりやすいように自分で新たにアイソメ図を描いてましたね。ここら辺については何も考えずにひたすら作業をこなす感じでした・・・。

以前も触れましたけど、勤務していた韓国企業では 各人のパソコンからアクセス出来るデータベース的なものが有って、CAD図面とか PDF がきちんと保管されていたので、まずはそこを当たってみてって感じでした。そこで空振りであれば、各工場の資料室みたいな場所を訪ねていってドキュメントを当たってみるとか。それでも無ければ 最後の手段で現場に行って実測する感じでしょうか。なので、現場のスタッフ特におじさん達とは良好な関係を構築しておく事が重要ですね。例えば、飲み会に参加する機会が有ればガッツリと飲んで他愛もない話で盛り上がれば OK ですよね。

いずれにしても、液体移送系においてポンプ動力を計算するってのはスキルとしては基本中の基本ですし、ポンプ仕様を決定する事はエンジニアリング業務の中で重要です。例えば、ポンプ仕様には電動機容量が含まれますが、この値は 電動機リストにも記載されて プラント全体の電力量に影響しますよね。まあ、やっててすごく面白いっ!! って事では有りませんでしたけど、まとまった仕事がきちんと終わった後のソジュはまた格別でしたね~。


参考書籍・文献  References


  1. 「配管技術ノート」 工業調査会 2004年刊
  2. 「絵とき ポンプ基礎のきそ」 日刊工業新聞社 2014年刊
  3. 「わかる! ポンプの選び方・使い方」 オーム社 2000年刊
  4. 「配管技術 100のポイント」 日刊工業新聞社 2016年刊









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