化工計算ツール No.151 非ニュートン流体の撹拌 Agitation of non-Newtonian fluids

 今回は非ニュートン流体の撹拌について取り上げてみます。ネチョネチョした流体を混ぜたいって場面はケミカル分野においても結構 有りますね。実務ではスチレン系ポリマーの溶液重合反応器の仕様設計などをしてましたが、転化率と言うかポリマー濃度が低いと ニュートン流体として取り扱えますね。なので、撹拌所要動力についても ニュートン流体における動力推算式をそのまんま使えましたね。撹拌所要動力を推定し効率を考慮して電動機容量を決定しますが、それで特に問題は有りませんでしたね。

なんですが、未反応モノマーを分離する工程を通過するとポリマー濃度は 99.9 [%] とかになります。温度は 200[℃] 以上となりますが、この手のポリマー融液は典型的な非ニュートン流体となりますね。そうすると特有の問題が発生しますが、ダイ スウェル Die Swell  がそれですね。ネチョネチョのポリマーを内径 2[mm] くらいの孔を通過させてストランド Strand にし、温水などで冷却した後に切断します。で、ポリマー融液が孔を通過すると少しですけど、ストランドが膨らむと言うか太くなるんですね。実際にその様子を見た事も有りますけど、あまり良くは分かりませんでしたね。そんなにブワ~っと膨らむ感じでは無かったと記憶しています。まあ、ポリマーの種類とか通過速度とかにも影響されるのかなとは思います。 

また、ポリマーじゃなくてもケチャップとかマヨネーズなどの食品は非ニュートン流体ですね。なので、想像ですがケチャプやマヨネーズなどの製造メーカーでは撹拌操作ってのも有ると思うんですけど、その撹拌機の電動機容量ってのはどうやって決めるのかな~と思いますね。まあ、槽自体がそんなに大きくは無いと思うんで それなりの容量の電動機を設置しておけば良いのかなと。とまあ、そんな訳で非ニュートン流体の撹拌について計算してみようかなと。



非ニュートン流体の粘性挙動 Viscous behavior of non-Newtonian fluids


✓ 流動曲線  Fluid flow curve


非ニュートン流体についてですが、以前 「No.78 金網の圧力損失 - ポリマーフィルター- 」で取り上げてます。まさに前述のポリマー融液が金網を通過する際の圧力損失について計算してますね。前回も記載しましたが、様々な流体の流動曲線は下図のようになります。

  • ニュートン流体 Newton 
    剪断速度によらず粘度が一定となります。水とか油が該当します。

  • 擬塑性流体 Pseudoplastic
    剪断速度が増加すると粘度が低下します。マヨネーズとかケチャップが該当するとの事です。マヨネーズとかケチャップの容器をエイッと押すとニューっと出てきますけど、単に押し出されているのでは無くて粘度も下がっているんだと思います、多分。そんなに抵抗を感じませんしね。

  • ダイラタント流体 Dilatant
    剪断速度が増加すると粘度も増加します。水溶き片栗粉とか生クリームが該当するとの事です。余談ですが、水溶き片栗粉は料理にとろみを付ける為に使いますよね。所謂、「あんかけ」焼きそばとかの「あん」ですが、この「あん」は擬塑性流体なんだそうです。この違いは面白いですね。

  • ビンガム流体 Bingham
    一定の降伏応力を加えると流動するようになり、その後は剪断速度が増加しても粘度はほぼ一定となります。歯磨きペーストとかバターが該当するんだとか。歯磨きペーストとかではチューブのキャップを開けて下向きにしても出てこないですよね。なんですが、チューブをエイッと押すとニューっと出てきます。んじゃ、マヨネーズとかと同じじゃんと思いますが、下図を見ると挙動は似てますよね。




✓ 非ニュートン流体モデル  Non-Newtonian fluid model


前述のとおり、剪断速度によって粘度が変わる流体が有るんですけど、その挙動をうまく表現する事が出来ないと何も出来ませんね。参考書籍によると、指数流体モデルとビンガム流体モデルが代表的なものとなります。

指数流体モデルは式②で表わされますが、n の値はダイラタント流体では 1以上となり、擬塑性流体では 1 以下となります。そして、n = 1 はニュートン流体となります。そうすると、τ = m × γ となり、m は粘度となります。それと、式①は 見かけ粘度を表わしています。ニュートン流体であれば 物性値としての粘度 イコール 見かけ粘度であり、剪断速度に関係無く一定値となります。ですが、ビンガム流体や擬塑性流体では見かけ粘度は減少します。一方、ダイラタント流体では見かけ粘度は増加します。

式③はちょいと異なりますが τy なる項を含んでおり、これは降伏応力となります。で、この降伏応力よりも大きな力を加えないと流動しません。また、降伏応力を持つ流体であっても式②でうまく表現出来ない場合もあるそうで、その際には式④の Casson model や式⑤のHerschel-Bulkley model が用いられるとの事です。




で、非ニュートン流体では剪断がかかると液粘度が変化する訳なんですが、粘度が減少する流体を Shear - Thinning 流体と呼び、粘度が増加する流体を Shear - Thickening 流体と呼びます。そして、Shear - Thinning 流体を撹拌する際、インペラの回転数を増加させると見かけ粘度は低下します。すると、インペラ近傍の流体だけが激しく撹拌される事になります。一方、Shear - Thickening 流体では見かけ粘度が増加するのでインペラと一緒に供回りする領域が拡大する事になります。いずれにしても、ニュートン流体の場合とは様相が異なる事になりますね。

せっかくなので、参考書籍に記載されている数値を使って流動曲線 (剪断速度 vs 剪断応力) を描いてみました。んでもって、剪断応力を剪断速度で割り算すると 見かけ粘度が得られます。剪断速度に対して見かけ粘度をプロットしましたが、普通方眼だとピンと来ないですね。なんですが、両対数グラフにプロットしてみると似たような挙動となっている事が分かります。どっちも、剪断速度が増加すると粘度は減少しています。




撹拌所要動力 Required Power for  Agitation


✓ Metzner - Otto 定数  Metzner - Otto Constant


前述のとおり、非ニュートン流体では剪断速度によって粘度値が変わりますし、その挙動を適当なモデルで表わす事も可能です。であれば、何かのインペラを使って対象となる液をかき混ぜた場合、その液に加わっている剪断速度の値がどれくらなのか? が分かれば 指数流体モデルなどを使って見かけ粘度が計算出来ます。粘度値が分かれば 撹拌レイノルズ数が計算出来ますし、層流域においては 撹拌レイノルズ数と動力数との積 Re×Np は一定なので 動力数が得られます。動力数が分かれば 動力値も得られますね。そして、Re×Np についてはニュートン流体について得られている推算式が適用可能ですね。

で、撹拌されている液の剪断速度の値を算出するのに必要なのが Metzner - Otto 定数と呼ばれるもので、1957年に A. B. Metzner と R. E. Otto が AIChE Journal に発表した ”Agitation of non-Newtonian fluids” に記載されています。撹拌関連の書籍で非ニュートン流体について言及しているのであれば、絶対に記載されていますね。式⑦ に含まれるのが M-O 定数ですが、撹拌されている液の平均剪断速度は回転数とM-O定数との積と考えます。この考えが肝なんだと思いますが、層流域なんで成立するんだろうな~と思います。



で、このM-O定数ですがインペラによってこれくらいってのが実験的に得られています。参考書籍によれば以下のとおりです。ザックリと言うと 狭クリアランス タイプのインペラは大きい M-O定数となってますね。ブレードと壁面の間のクリアランス部で大きい剪断速度が発生する為ですね。

  • ダブルヘリカルリボン  DHR     K = 30
  • アンカー        Anchor   K = 22 ~ 25
  • パドル                                    Paddle       K =  10.5 ~ 11
  • 6枚ディスクタービン    6-blade Disc Turbine   K = 11 ~ 12
  • プロペラ           Marine Propeller  K = 10

また、M-O定数は推算する事も可能ですね。これまた いつもお世話になっている 名工大の平岡 節郎先生のグループが 1994年に発表した論文に推算式が記載されています。式⑪を見てみると、ブレード数が多いほど M-O定数は増加します。また、ダブルヘリカルリボンインペラでは リボンブレードのピッチが小さくなるほど、つまりリボンの巻数が多くなるほど M-O定数は増加します。ザックリと言うと、同じ空間にインペラをどんどん詰め込んでいけばいくほど M-O定数は大きくなるんですね。まあ、剪断ってのは壁面の表面に発生する訳なんで、その壁面面積が多くなれば剪断もより強くかかるようになるのかなと。






計算例  Examples


✓ ダブルヘリカルリボンインペラ、指数流体モデル DHR Impeller, Power Law model


参考書籍に記載されている計算例をお手本にして計算してみます。インペラは直径 1[m] のダブルヘリカルリボンで、非ニュートン流体の挙動は指数流体モデルによって表わされるものとしますが、定数値は前述のものと同じとします。併せて、ニュートン流体として粘度値を一定とした場合の所要動力についても計算しています。結果を見ると、回転数を上げると見かけ粘度は低下しますし、その結果として所要動力値も低くなっている事が分かります。投入される動力が小さいと言う事はパッと見では良さそうですが、液が流動するのに必要なエネルギーを十分に投入出来ないのであれば 混合性能とかは悪化しそうです。無意味にエネルギーを投入する必要は無いと思いますが、かと言って必要なエネルギーが投入されないのであれば期待する性能には到達しないのでそれはそれで問題ですよね。




✓ ラシュトンタービン、Herschel-Bulkley モデル  Rushton Turbine, Herschel-Bulkley model 

次に降伏応力をもつような非ニュートン流体についても計算してみます。インペラの近傍では流動しますが、インペラから離れていくとある境界からは流動しなくなります。流動している領域については Cavern と言いますが調べみると意味は「洞窟」ですね。槽内の液全体を流動させる為にはどれくらいの回転数が必要になるのかを計算しています。まあ、ニュートン流体であれば そんなに回転数を上げなくてもジワーッと全体的に流動しますよね。

インペラはラシュトンタービン Rushton Turbine で 直径は 0.6[m] とします。非ニュートン性は Herschel-Bulkley model で表わされるものとします。んで、これが重要ですが 槽内の液全体が流動する時の撹拌レイノルズ数は 200 であるとします。計算方法ですが、試行錯誤法となります。まずは回転数を仮定し M-O定数から見かけ粘度を求めます。その粘度から撹拌レイノルズ数を求めますが、その値が 200 となるような回転数を探索する事になります。EXCELのソルバー機能を使えばサクッと計算出来ますね。で、下図は Herschel-Bulkley model における降伏応力値を変えた場合の必要回転数となります。降伏応力値が大きくなるとその分回転数を上げないといけないと言う事が分かります。





まとめ  Wrap-Up

今回は非ニュートン流体の撹拌を取り上げましたが、指数流体モデルが適用される液を撹拌した場合の撹拌所要動力について計算してみました。今回の場合、投入される動力は低下しました。また、降伏応力をもつ流体を表わす Herschel-Bulkley model を用いて槽内液全体が流動するのに必要な回転数を計算してみました。いずれにしても、非ニュートン流体を撹拌するのは一手間も二手間も掛かりそうですね、残念ながら。実務ではポリマープロセスを取り扱ってましたけども、ゴリゴリの非ニュートン流体ってのは有りませんでしたね。なので、すご~くラッキーだったなと思います。まあ、溶液重合反応器においても厳密に言えば非ニュートン流体としての取り扱いが必要だったんだと思いますが、まあ結果オーライって事でしょうか。

で、今回は撹拌所要動力とか必要回転数について計算してみましたけど、非ニュートン流体を撹拌した場合の混合性能ってのは実際どうなのかは気になりますね。まあ、思ったようには動力を投入できないとか、流動しない Cavern 領域が出来るのであれば 混合性能は低下していると考えられますね。その辺りについても少し調べてみましたが推算式のようなものは見つけられませんでした。実験するのもなかなか難しいんだろうな~とは思いますし。企業などで非ニュートン流体を撹拌して均一化するような場合だと、パイロットプラントとかで実際の原料と処方で何回も実験してみて、得られた製品の物性を分析してみて問題が有るとか無いとかで判断しているのかなと思いますね。んでもって、スケールアップとかも大変そうですね。 


参考書籍・文献   References


  1. 「化学工学の進歩 42 最新 ミキシング技術の基礎と応用」 三恵社 2008年刊
  2. 「2次元数値解析に基づく層流域の撹拌所要動力相関式の誘導」
      亀井、平岡ら
      化学工学論文集 第20巻 第5号 1994








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