化工計算ツール No.163 ロータリーキルン その2. 加熱性能 Rotary Kiln Part 2. Heating Performance

 さて、今回ですが何と前回に引き続き ロータリーキルン について取り上げてみます。化工計算ツールのシリーズで前編・後編と言う構成にするのは初めてかなと。まあ、前回は滞留時間について計算したんですけども、伝熱性能ってのもやはり気になりますよね。と言う事で、キルン内壁と粒子間の熱伝達係数がどれくらいなのか? について計算してみます。

ロータリーキルンのような円筒形状装置を粉粒体の熱交換器として使用するってのも有りますね。「熱交換器設計ハンドブック」には「第33章 回転式粉粒体熱交換器の設計法」が記載されています。ただし、普通のキルンとは違って内壁に掻上翼ってのが設置してあって、これで粉粒体をグイーっと持ち上げて、円筒の頂上辺りでドサ~っと落下させます。なんで、そうなっているのかと言うと 粉粒体を出来るだけバラバラにして、熱風とか冷風に接触させたい為なんですね。つまり、この熱交換器ってのは 粒子 - 気体間の対流熱伝達によって熱移動が進行する事になります。んで、この時の熱伝達係数は 単一粒子について適用可能な Ranz - Marshall の式が使えますね。それと、この熱交換器に湿潤粉粒体を装入すると 乾燥機となります。

なんですが、設計計算はすご~く難しいと言うか煩雑です・・・。特異な粒子の挙動に起因しているだと思いますけども。んで、ここで取り上げるのは 粒子 - 内壁間における熱伝達とします。実験的に熱伝達係数を決定した文献も有りますし、その結果に基づいた熱伝達係数 推算式ってのも有りますね。それに、熱交換にいつも気体が適用出来る訳では無いですし。交換熱量の全てを熱風で賄おうとする場合、熱風量が過大となり微粉が飛散してしまうって事も有り得ますよね。そんな場合はサイクロンで捕集するんでしょうけど。



ロータリーキルンにおける伝熱 Heat Transfer in Rotary Kilns

今回 主に参考にしたのは以下の文献ですが、 著者らの所属は 工業技術院 化学技術研究所となってます。この工業技術院ですが、今は 産業技術総合研究所となってますね。ネットで調べると 2001年から 産総研 になったとの事です。確かに、社会人になった時分には まだ 工業技術院ってのは有りましたね~。

「流通式 回転炉における炉壁から粒子層への伝熱」
    伊藤 直次, 中田 淳, 小畑 健三郎, 河村 光 隆,白田 利勝,吉留 浩
    化学工学論文集 第12巻 第6号 1986年


この文献は 流通式についてですが、これ以外にも 回分式キルンに関する文献、吸熱反応のモデル化と解析に関する文献なども有ります。


✓ 実験装置と条件  Experimental Apparatus and Conditions


参考文献では伝熱実験をやってますんで、その装置と実験条件について見ておきます。キルン長は 1m で内径は 53mm なので、それなりに細長いです。で、上流側から粉粒体を供給します。粉粒体は徐々にキルン内を移動し、最終的に下流端の開口部からこぼれ落ちてきます。そして、キルン外壁には 電気ヒーターが設置されており、これで粉粒体を加熱します。また、ヒーター温度、内壁温度、粉粒体温度を測定する為の熱電対があちこち設置されています。で、この装置の肝は スリップリング を使っている事でしょうか。

と言うのも、キルンは回転していますが、一方でヒーターへの給電線とか熱電対の起電力を取り出す為の補償導線は装置外のどっかに固定されています。で、このままキルンを回転させるとケーブルが絡まってグチャグチャになり、最終的にブチッと切断されます・・・。で、そうならないように スリップリングを使います。メーカーさんのサイトを見ると分かりやすく図が載ってますね。要は回転体側には金属製リングが設置してあってグルグル回転しています。そして、そこに接触するように金属製ブラシを設置します。こんな構造とする事によって、回転は出来るし 且つ 導通はしていると言う状態となります。因みに、ブラシを「水銀」とする 水銀スリップリングなるものもあるようです。金属製リングの一部が水銀に浸っている状態とする事で導通しています。この方法だとブラシと違って接触による影響はほぼ無いですよね。なんですが、水銀を使うのは 昨今はアレなんで、液体ガリウム合金とかを使うものも有るようです。参考文献の装置では カーボンブラシを使ってますが、炭素なんで導電性は有りますし摺動性も良いのかなと。



で、実験に使用した粉粒体は 「珪砂」 との事ですが、ネットで調べると二酸化ケイ素を主成分とした砂なんだそうです。用途はいろいろと有りますが、消火用砂にも使われるそうです。禁水の物質については珪砂を掛けて窒息消火するんですね。その物性とキルンの運転条件は以下のとおりです。

  • 珪砂 
    平均粒子径   1 mm
    見掛け密度   1360 kg/m3
    比熱      850 J/kg K
    有効熱伝導率  0.349 W/m K
    充填角     2.16 rad (= 123.76 ° )
  • キルン
    傾斜角     3 °
    内壁温度    120 ℃
    回転数     例えば 2.09 rpm


✓ 粉体層における伝熱機構  Heat Transfer Mechanism in Rotary Kiln

参考文献には キルン内 粉体層における伝熱機構が記載されています。回分式と流通式の場合ですが、これは絵を見たほうが早いかなと。下図上段は回分式の場合の粉体層断面内の粒子の動きを模式的に描いています。前回 触れたように、キルン底部の粉体層においては2種類の粒子の経路が有ります。1つは回転方向経路 Rotating Path で キルン内壁によって粉体層が持ち上げられるような動きとなります。そして、粉体層の端っこまで到達した粒子ですが 今度は粉体層の表面をザザーッと流れ落ちます。前回は滝状流下経路 Cascading Path としていましたが、「ナダレ経路」ってのが しっくり来ますよね。なので、以降は ナダレ経路と呼称します。で、この回転方向経路とナダレ経路ですが 図からも何となく分かるように、前者において壁面から粒子へと熱移動が起こり、そして後者においては熱くなった粒子が転動しながら混合し、粉体層にバラ撒かれる様な感じでしょうか。

そして、これが流通式となった場合ですが それは下図下段となります。粉体層断面における粒子の動きに、軸方向の動きが加わる事にになります。図を見て分かるように ナダレ経路において動きが少し斜めになっています。まあ、キルンが傾斜しているのでその影響なんですね。んで、図には粉体層内に微小部分を描いてあるんですけども、微小部分 1 が回転方向経路に沿ってエイッと微小部分 2 に移動します。そして、その間に高温の壁面によって熱せられます。次に粒子はナダレ経路に沿ってザザーッと混じり合いながら移動して 微小部分 3 に到達します。この時、 Δ L だけ下流側に移動するんですね。 そして、この経路をどんどん繰り返していく事によってキルン下流に移動していきますし、同時に粒子の温度も上昇していく事になります。まあ、ホントはショートパス的な動きとかも有るんでしょうけども、基本的なところはこんな感じなのかなと。こんな感じでキルン内粉体層の動きと熱移動がモデル化されたって事になるのかなと。




✓ 熱伝達係数計算式  Heat Transfer Coefficient Calculation Equations


まあ、そんなこんなでモデル化をした訳ですが、更に上記の実験装置を用いて得られたデータから ロータリーキルンにおける 壁面 - 粒子間 熱伝達係数 経験式が以下のように得られています。式①を見るとペクレ数 Pe のみによって決定される事が分かります。そして、ペクレ数は式③から計算されますが、ここには接触時間 tc が含まれています。これは、前述の回転方向経路において粉体層と壁面が接触している時間なので、回転数 N と狭角 θ を用いて式④から計算されます。ただ、これはあくまでも理論的な値なので、例えば粉体層がズズッと滑るような場合だと異なってくるのかなと思います。



そして、参考文献にはキルン内の粉体層温度分布を計算する式も記載されています。熱伝達係数値が得られていて、粉体層と壁の接触面積や粉体層の熱容量が分かっていれば、粉体の移動に伴ってどのように温度が上がっていくのかが計算出来ますよね。同じ様な計算は、例えば 長い配管内を高温の液体が流れていて、かつ温度の低い外気に向かって放熱している場合などが有ります。配管入口温度・外気温度や熱伝達係数、配管径を与えれば サクッと温度分布が計算出来ますね。このブログでも「No.4 物体の冷却」で取り上げています。

式⑤を見ると、距離 L における粉体層温度 TSO(L) と壁面温度 Tw(L) が分かっていて、粉体層が距離 ΔL を進む間にどれくらい温度が上がるのかを計算しています。この 距離 ΔL は前述の図において 粉体層が回転方向経路に沿ってグイッと移動し、その後 ナダレ経路でザザーッと動く際の 軸方向 移動距離なんですね。なので、得られる粉体層温度ってのはナダレ経路 終端における温度となります。で、そのΔL ですが 式⑦で計算されます。接触時間 tc とナダレ経路時間 tn の和を平均滞留時間 τ で割り算し、それにキルン全長を掛け算しています。



計算例   Examples


✓ 壁面 - 粉体層間 熱伝達係数  Wall - Powder Bed Heat Transfer Coefficient


熱伝達係数を計算してみると下図 上段グラフのようになります。数百 W/m2 K くらいなんですね~。粉モノなのでもっと低いのかなと思っていましたけど、それなりに有るんだなと。参考文献では キルン回転数を 2.09 rpm と 4.78 rpm にした結果が記載してあって、それぞれ熱伝達係数値は 154 W/m2K と 201 W/m2 K なので、計算値はまあ合ってるのかなと。

で、キルン回転数を増加させると 熱伝達係数も増加しています。まあ、そんなものなのかな~と思いますけども、前述の式③ を見ると 接触時間 tc 以外は物性値とかなので 一定となっています。と言う事は 接触時間が熱伝達係数に影響しているのかと考えて、接触時間に対して熱伝達係数をプロットしたのが下図下段グラフとなります。 このグラフを見ると、接触時間が短いほうが熱伝達係数値が大きくなっています。なんですが、普通に考えると 熱い壁面により長く接触している方が より早く温度が上がるんで、結果として熱伝達係数値も大きくなるのかなと思いますけども。で、接触時間が短いって事は 前述の粉体層の移動がより頻繁に起こっている事になるのかなと思います。つまり、粉体層の動きは 回転方向経路とナダレ経路を合算したものですけど、回転数が大きいほどこの回数が多くなるのかなと。



✓ 粉体層 温度分布   Powder Bed Temp. Distribution


で、次に粉体層 軸方向の温度分布を計算してみました。下図 上段は 参考文献に記載されている条件で計算した結果となります。参考文献には実験点もプロットして有ります。キルンの出口開口部から熱電対を挿入して実測した結果だと思います。下図の結果とまあ合ってるんで、計算自体はおかしくは無いのかなと。壁面温度は 120 ℃ なんですが、低回転数と高回転数のどちらも 150 mm ほど進むと ほぼ壁面温度に到達している事が分かります。

んで、粉体の初期温度が違うのは分かりにくいので どっちも 30 ℃ にして計算した結果が下図 下段グラフとなります。そうすると、低回転数の方が粉体層温度の上昇が早いという結果になりました。低回転数の方が熱伝達係数は小さいのに・・・。何故なのか考えてみましたけども、温度分布計算式を見ると 熱伝達係数も含まれていますが、接触時間も含まれています。で、低回転数と高回転数では 熱伝達係数は 1.3 倍にはなるんですけども、接触時間は 0.45倍になるんですね。なので、結果として壁面から粉体層へと伝わる熱量が減少してしまう為なのかなと思います。なかなか簡単では無いですね~。




まとめ  Wrap-Up


今回は ロータリーキルンの2回目として伝熱性能について取り上げてみました。キルン仕様とか粉体物性、運転条件を与えれば 一応は 熱伝達係数は計算出来ますし、その値から 粉体層の温度分布まで計算出来ます。これはこれで便利だな~と思いますね。なんですが、いろいろと計算していて思いましたけども、安息角と言った粉粒体物性が含まれていないんですね。前回の滞留時間計算式では 安息角は含まれていましたけど。その代わりに キルン内 粉体層における 狭角 Included Angle が含まれているのかなと。参考文献中では 充填角 とも呼称されてましたけども。安息角などの諸々の粉体物性とかキルン仕様とか 回転数などが様々に影響し合った最終的な結果としての、充填角なのかなとは思います。この辺りは今ひとつ良く分かりません・・・。

んでも、ロータリーキルンですが 容積効率が低いので 装置サイズが大きくなるという弱点は有るのかも知れませんけど、円筒を少し斜めにするだけなのでお手軽ですし、加えて プラグフロー性も十分に有しているので なかなか使えるのでは無いかな~と思います。まあ、キルンメーカー各社さんは、「そんなの当たり前でしょ!」 って思ってると思いますけども。ただ、やはり粉モノは難しいので 実粉をメーカーさんに持ち込んで何回も実験する事になるんだろうな~と思います。


参考書籍・文献   References


  1. 「回転炉内における炉壁から粒子層への伝熱」
       化学工学論文集 第9巻 第6号 1983年
  2. 「流通式回転炉における炉壁から粒子層への伝熱」
       化学工学論文集 第12巻 第6号 1986年











コメント

  1. Thank you so much your valuable information and sharing here. It's so helpful to understand this system and application as well. Thanks again your effort.

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  2. Thank you for your comment!
    I am truly happy that you regularly read my blog.
    I plan to cover various topics and run actual calculations in the future, so please stay tuned!

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