化工計算ツール No.84 重合反応器の除熱限界 Heat Removal Limit of Polymerization Reactor

 今回は撹拌している重合反応器の除熱限界について取り上げます。まあ、このブログでも以前に取り上げた連続 溶液重合反応器において潜熱除去方式を採用すれば、ほぼほぼ除熱限界は有りません。ですが、いつもいつも潜熱蒸発方式を採用する訳にも行きません。例えば、重縮合反応をバッチ反応器で実施するのであれば、転化率の増加に伴ってどんどんモノマーが無くなっていくので、蒸発させるものが無くなってきますね。となると、顕熱除去方式を採用しましょうか、となりますが 特に高粘度の場合にはこの除熱限界が存在します。なので、いずれ どっかに限界が有りますんで、やみくもにインペラ回転数を上げるとかは出来ません・・・。また、どか~んと容量の大きい反応器にするって事も難しいですね。

このブログでも何回も取り上げているように、顕熱除去方式を採用する場合には 必ずスケールの影響を受けます。即ち、反応器内容積は槽直径の三乗に比例して増加しますが、一方伝熱面積は槽直径の二乗でしか増加出来ません。なので、単位内容積当たりの伝熱面積 A/V [m2/m3] 値は、スケールの増加によって急激に減少します。 結果として、発生する反応熱を除去しきれなくなり、反応器 内温を所定温度に維持できなくなります。まあ、その辺りは予め計算して検証しておきますよね、普通は。と、そこいらを計算してみようかなと。




重合反応器の除熱限界 Heat Removal Limit of Polymerization Reactor


✔ 顕熱除去方式 重合反応器  Sensible Heat Removal Polymerization Reactor


対象となるのは下図のとおりですが 撹拌機付きの重合反応器が有って、ジャケットに冷却媒体を通液して冷却します。んで、槽壁を通じて内液から媒体へと熱量が移動しますが、普通は その熱量がそのまま除熱能力となります。ですが、高粘度液となると投入した撹拌動力は粘性散逸によって熱量となります(撹拌熱)。つまり、加熱される格好となり結果として除熱能力は減少する事になります。これが低粘度液の撹拌であれば、そこまで撹拌動力は大きくはないので 当然 撹拌熱も大きくは無いですね。

で、実際の除熱限界ですが、除熱能力 Qc [W/m3] が 除熱負荷 (反応熱) Qr [W/m3] と同等になる条件ですね。なので、式②で除熱量を式③で撹拌熱量を求め、式①で 除熱能力を計算する事になります。と、その為には 使用しているインペラにおける 熱伝達係数 h と 動力数 Np を別途求めておく必要がありますね。



✔ 熱伝達係数と動力数  Heat Transfer Coefficient , Power Number

 液は高粘度なので 当然ですが流れは層流ですね。撹拌レイノルズ数が 100 以下の領域でしょうか。このブログでは 「化工計算ツール No.52 撹拌槽伝熱」 でその辺りを取り上げているので、同じ計算式を使います。で、インペラですが 高粘度液では常道である ダブルヘリカルリボン Double Helical Ribbon とします。



また、動力数 計算式を以下に示しますが、こちらは名工大グループのものを使用します。この式は、ブログの「反応器 撹拌6」 で取り上げています。



計算例  Examples


✔ 計算条件 Conditions

共通の仕様は以下のとおりです。それ以外の条件である反応器 全内容積や液粘度は変化させてみます。

  • 反応器仕様    竪型、下鏡板 2:1 半楕円体、直胴部 L/D = 1.5
  • インペラ仕様   ダブルヘリカルリボン d/D = 0.95、w/d = 0.1、s/d = 1.0
  • 液面高      液ホールドアップ 70[%] における液面高

✔ 反応器 内容積一定、液粘度 変化  Reactor Volume const. , Viscosity change


反応器 全内容積を 0.1[m3] の場合、内径は 411 [mm] となります。この反応器をダブルヘリカルリボンインペラで撹拌すると、除熱能力 Qc は下図のように変化します。上に凸の曲線になるんですね。まあ、回転数 ゼロであれば 撹拌熱も発生しませんが、除熱量もゼロですね。で、撹拌回転数を上げていくと除熱量は増加しますけど、同時に撹拌熱も増加します。どんどん回転数を上げていくと ある回転数で 除熱量 = 撹拌熱となり、除熱能力はゼロとなってしまいます。これが 除熱限界なんですね。まあ、除熱能力 ゼロ だと何の役にも立たないので、所望の除熱負荷に対しての除熱限界が重要なんですね。

下図で 例えば 除熱負荷 400 [W/m3] であれば、さすがに撹拌しないと除熱出来ません。なので、少しでも良いのでインペラを回しますが、回しすぎると急激に除熱能力が低下して除熱出来なくなります・・・。で、除熱負荷 < 除熱能力 である回転数範囲は液粘度が高いほど狭い事が分かります。まあ、回せば良いってもんでも無いんですね。

 



✔ 液粘度 一定、反応器 内容積変化   Viscosity const. , Reactor Volume change


次に反応器スケールの影響を見てみます。粘度は 10 [Pa s] で一定として、反応器 内容積を変えて 撹拌回転数 上限値を計算したのが下図ですね。スケールが大きくなるほど、回転数 上限値は低下します。デカい反応器になればなるほど、インペラをぶん回す事は難しくなるんですね。 まあ、当然と言えば当然ですが 除熱限界の観点から説明出来るんですね。そして、この回転数上限値は 除熱量 = 撹拌熱 、つまり除熱能力 ゼロとなる時の回転数なので、所定の除熱負荷に対しては 更に低い回転数で回す事になります。そして、液粘度が更に高くなると 回転数上限値はもっと低下します。



まとめ  Wrap-Up

重合反応器の除熱限界と聞くと 単に除熱量の多い少ないが問題で、それは単位内容積当たりの伝熱面積の多い少ないに起因するものと考えますが、それだけでは無いんですね。特に高粘度液を撹拌する場合には、撹拌熱の発生が除熱能力に相当の影響を与えるって事なんですね。重縮合系のバッチ重合反応器とかであれば 重合後半になると超高粘度になるんで、撹拌熱も半端ない大きさになります。なので、除熱どころかそもそも撹拌するのが出来ないよって事になりますね。まあ、重合後半において除熱負荷がだいぶ減少しているのであれば、何とか出来るのかも知れませんけど。除熱しようと思ってガンガン撹拌したら、かえって発熱してましたよ、って事になりかねませんね。しかも比較的スケールの大きな反応器であれば、その影響は大きくなりますね。であれば、小さめの反応器を複数設置して運転するってのも手ですね。な~んて事を、事前にきちんと検討しておくのが重要なんですね。

まあ、実務では撹拌熱がそこまでクリティカルな状況ってのは有りませんでした。しかも、潜熱除去方式であれば 撹拌熱込み込みでドカーんと除熱してしまうんで、何の問題も無かったですね。その意味でも、潜熱除去方式は良いな~と思いますね。


参考書籍・文献  References

  1. 「最新 ミキシング技術の基礎と応用」 三恵社 2008年刊
  2. 「二重らせん帯翼付撹拌槽におけるスチレン塊状重合反応過程の数値解析」
    化学工学論文集 第23巻 第6号 1997年刊



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