化工計算ツール No.101 固液分散操作 Solid - Liquid Dispersion Operation

 今回は、撹拌操作の一つである固液分散操作 Solid - Liquid Dispersion Operation について取り上げます。参考書籍によれば、「スラリーの調整、固体触媒反応、晶析・沈殿、吸着・イオン換、溶解などの化学工業プロセスにおいて頻繁に行われる操作であり、その主な目的は液体中での固体粒子の分散、ならびに固体粒子・液体間の物質移動促進させることにある」と有りますね。このブログでも時々と言うか結構 撹拌については取り上げていますが、同じ異相系撹拌としては以下が有りますね。


水と油のような互いに溶け合わない液を撹拌して、例えば油を液滴として分散させるのが液液分散操作で、一方 液体中に気体を吹き込んで気泡を分散させるのが気液分散操作ですね。どっちも液体とか気体を均一に分散させるのがより好ましいのは言うまでも無いです。と言う事で、この固液分散操作においても固体粒子を液体中に均一に分散させるのが重要となります。まあ、固体粒子ってのは大体は液体よりは密度が大きいので、何もしないと撹拌槽底部に堆積してますよね。その状態でインペラによる撹拌を開始すると、回転数が小さいうちはほとんど浮遊しませんね。回転数を上げていくと徐々に浮遊する粒子の割合が増えていって、最終的には粒子全部が浮遊して槽底には粒子が無くなります。ここから更に回転数を上げていくと、固体粒子は均一に槽内全体に分散する事になります。この時の回転数はどれくらいなのか?が重要で、まあその辺りを計算してみようかなと。

実務ではほとんど取り扱った事は無いですが、原料粉体を液中にスラリーとして分散懸濁させると言う撹拌槽は見たことが有りますね。何もしないとすぐ沈降してしまうので、移送配管中のスラリーを常に循環させていたかな~と記憶しています。まあ、具体的に技術検討をした訳では無いですけど。因みに、スラリー移送に使用していたのはスネークポンプだったかなと。ポンプケーシング内で螺旋状のローターが回転するタイプです。ネジポンプとも言いますね。


固液分散操作  Solid - Liquid Dispersion Operation


✔ 浮遊状態  Solid Dispersion Status

撹拌速度の増加に伴って固体粒子の浮遊状態は下図のように変化すると参考書籍には有りますね。参考までに、気液分散操作における変化と比較しています。

密度の大きい固体粒子を槽に投入しただけでは 底部に沈降しますね。で、この状態から撹拌すると徐々に粒子が中央に集まってきます。更に撹拌を強くすると一部が浮遊する様になります。そして、更に撹拌を強くすると全粒子が浮遊する状態となり、この時の回転数が完全浮遊撹拌速度 Complete Suspension Agitation Speed となります。少なくともこの回転数以上でインペラを回転させる必要が有ります。で、この回転数はどれくらいなのか?を知る必要が有りますね。

気液分散との違いは、固体粒子の偏りがあるって事でしょうか。固液分散については、下図にあるように ある断面における粒子分布についても記載してあります。最初は均一に分布と言うか堆積していますが、撹拌する事で偏りが生じるんですね。均一浮遊化後に槽を横から見ると、粒子はまんべんなく分布している様に見えますが、槽を上から見ると偏ってるんですね。なかなか面白いです。



✔ 完全浮遊撹拌速度 計算式  Complete Suspension Agitation Speed Calculation Equation 


固液撹拌における完全浮遊撹拌速度 (通常 NJs と表記される) の計算式については、Zwietering による相関式が有名ですね。と言うか、ほぼこの式を使いますね。バッフル付き撹拌槽で様々なインペラを用いて浮遊実験を実施して、その結果を相関式としてまとめたものですね。無次元式では無くて、諸条件を入力して計算すれば 回転数 [1/s] が直接得られます。




で、式①には 定数値 S を含みますが、参考書籍にはグラフしか載ってないので データを読み取って、EXCELで累乗近似して作成したのが下図のグラフです。すごく面倒です・・・。式①には物性とか粒子の重量比率とかを入力しますがそれらが全部同じだとすると、インペラタイプの違いによって 定数値 S が異なり、結果として 完全浮遊撹拌速度 NJs の値が異なる事となりますね。

このグラフには フラットパドル 、プロペラ 及び ディスクタービンのデータを載せてありますけど、T/D (槽径/インペラ径) 値が 3 くらいまでだと インペラの違いはあまり無いんですね。まあ、T/C (槽径/インペラ設置高) を同じくらいにしてあるんですけども。ですが、槽径が同じでインペラ径が小さくなると T/D は大きくなりますんで NJs は大きくなりますね。そして、T/D が大きい領域では プロペラの NJs は明らかに 小さくなりますね。つまり、小さめのインペラで完全浮遊をさせたいのであれば、プロペラを選択する方が良い事になりますね。




せっかくなんで、槽径とインペラ径 比率 T/D = 3 に固定して、インペラ設置高の影響をグラフにしてみると下図のとおりです。まあ、データ点数が少ないんでアレですけど、インペラを槽底に近づけるほど S は小さくなるので、NJs も小さくなりますね。つまり、より低い回転数で完全浮遊化できる事になります。んでも、あまりインペラを低くするのも考えものですよね。と言うのも、撹拌を止めると固体粒子は沈降します。となると、インペラが粉体に埋まってしまう感じになりますよね。そんな状態でエイッと撹拌を開始すると、余計にトルクが掛かって、いろいろと不具合の原因になるのかな~と思います。まあ、インバータ制御にしておいて、低回転数からジワーッと回転数を上げていけば良いのかも知れませんけど。


 

計算例  Examples


✔ 固体粒子径の影響   Influence of Particle Diameter

早速計算してみます。まずは、粒子径の影響について計算した結果が下図となります。計算条件は以下のとおりです。

  • 固体粒子重量比率   15 [wt%]
  • 固体粒子密度     2440 [kg/m3]
  • 流体密度       1326 [kg/m3]
  • 流体粘度       0.43 [mPa s]

  • 撹拌槽内径      3000 [mm]
  • インペラ径      1000 [mm]
  • インペラ設置高    フラットパドル 750、プロペラ 750、ディスクタービン 600 [mm]

撹拌槽径に対してインペラ径の比率は同じで インペラ設置高が少し違いますが、完全浮遊撹拌速度 NJs はそれほどには違いませんね。例えば、粒子径 800 [μm] において 回転数は 73~81 [rpm] の範囲内となっています。なので、この程度のインペラ仕様であれば 回転数自体はそれほど差異は無いんですね。




✔ 固体粒子濃度の影響   Influence of Solid Particle Mass Ratio


固体粒子濃度の影響について計算した結果が下図となります。粒子が多くなっていくと完全浮遊撹拌速度も大きくなりますね。んでも、粒子濃度が5倍になっても回転数はそれほどには大きくはなりませんね。





まとめ   Wrap - Up

今回は撹拌における固液分散について取り上げました。計算したのは回転数だけですが、そこから撹拌動力の計算が必要となりますね。その時には、固体粒子濃度を加味した密度を使用する必要が有りますし、スラリー状であれば 液粘度についての考慮も必要になるのかなと思いますね。なんて事を言ってますが、実務ではほとんど経験していないですね。スラリー状ってのがそもそもあまり無いですしね。冒頭でも述べたように、原料粉体をこれまた原料液体に懸濁させたスラリーってのは見たことが有りますけど。まあ、これもポリマー原料では有ったんですけども。

固液分散系については今だに Zwietering の相関式が使われているんだと思いますけど、まあ完成度が高いと言う事なのか、あまり進展が無いと言う事なのか。今風に言えば、CFD でシミュレーションしてみるとかが有ると思いますけども万能では無いですね。やはり、異相系ってのは今でも難しいと思いますし。となると誰でも気軽に出来るって感じでは無いのかなと。今回 少しですけど文献にも当たってみましたけど、固液系ってのは実験するのも難しいですよね。槽内任意箇所での粒子濃度をどうやって計測するのか?ってのは正直難問ですよね。参考文献には、光学的手法とか電気的手法とかサンプリング手法とかが載ってますが、手間もかかりますし精度を確保するのも大変だな~と思います。

で、固液分散ですが Dispersion なのか、それとも Suspension なのか・・・。タイトルでは Dispersion としてますが、参考文献では Suspension が多いです。


参考書籍・文献  References


  1. 「化学工学の進歩34 ミキシング技術」 槇書店 2000年刊
  2. 「化学工学の進歩42 最新ミキシング技術の基礎と応用」 三恵社 2008年刊
  3. 「液体混合技術」 日刊工業新聞社 1989年刊
  4. 「撹拌槽の中の固液の流れ 槽底からの固体粒子の浮遊と撹拌羽根への粒子衝突」
    混相流 第28巻 第4号 2014年

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