化工計算ツール No.106 2次元 定常熱伝導 2D Steady-state Heat Conduction

 今回は 2次元 定常熱伝導 2-Dimensional  Steady-state Heat Conduction について取り上げますが、簡単な形状であれば解析解もあるのでそれに条件を代入すれば解(温度分布)が得られますが、少し複雑な形状になるとお手上げですね。と、そんな時は数値解法 Numerical Solution を使いますが、その辺りを計算してみようかなと。

この数値解法ですが参考文献によれば、以下のようなものが有りますね。差分法はテーラー級数により差分化する方法で、有限要素法は変分原理を拡張した重み付き残差法を使用します。差分法はまあ何とか理解出来ますが、重み付き残差法とか言われてもあまりピンと来ませんね。

  • 差分法           Difference method
  • 有限要素法         Finite Element method
  • コントロールボリューム法  Control Volume method

一方、コントロールボリューム法は解析対象の空間を微小区間に分割し、その微小区間における熱の出入りを定式化して直接離散化します。なので、すごく直感的で分かりやすいですね。で、更に良いのが コンピュータによる繰り返し計算とは これまた相性が良いですね。基本、同じような計算を延々と繰り返すので。そして、更に良いのが EXCEL を使えば サクッと計算出来るんですね。まあ、形状がすごくギザギザとか曲線だとかであれば多少面倒ですが、普通は矩形ですよね。で、EXCEL においてセルの集合体は矩形ですし、各セルに数式を入力して値(温度) を計算させる事が出来ますよね。難しいコーディングとかは一切必要無いので、だいぶ敷居が低いですね。

実務でも何回かは熱伝導解析をやった事は有りますね。例えば パイロットプラント反応器でしたが、ジャケット加熱している反応器 Head部分の接液部温度分布がどんな感じになっているかを計算しましたね。冷えると当然固まりますし、かと言って温め過ぎると熱劣化しますし。つまり、接液部表面を所定温度で均一に維持したいんですね。まあ、その時は形状が3次元だったので、商用CFD ソフトウェアを使ってエイッと計算しましたね。固体内熱伝導解析でしかも定常解なのですぐに収束しますね。なので、すごくラクでした。まあ、EXCEL だと3次元は出来なくはないですが、少し面倒ですね。


2次元 定常熱伝導の数値解法  Numerical Solution of 2D Steady-state Heat Conduction 


2次元の物体を下図に示すように x方向とy方向に分割します。2次元なので、紙面垂直方向の距離は単位長さ (まあ普通は1ですね)とします。図を見るとすぐに分かりますね。 着目しているコントロールボリューム Control Volume, CV の代表温度を TP とし、それに隣接する CV から流入・流出する熱量収支を取ると、結果的に式②~⑦までの離散化式が得られます。まあ、これらの式にCVの大きさΔx・Δy や熱伝導率 k を代入して逐次的に計算すれば良いですね。

で、Δx = Δy つまり CV が正方形で、かつ 熱伝導率 k はどの CV においても一定だとすると式②~⑦から 式⑧が得られます。そして、最終的に式⑨となりますが、これは着目している CV (P) の温度は左右上下に隣接している CV (N,E,S,W) の各温度を全部足して それを 4 で割り算したものに等しいよ、と言う事になります。まあ、4つの CV の平均とも言えますね。これを全部の CV でどんどん計算すれば いずれ各 CV の温度は一定になりますんで、そこで計算終了となりますね。




と、参考文献には式②~⑦がズラーッと書いてあるんですが、これは自分でもサクッと導出する事が可能ですね。下図のとおりです。CVに流入する熱量は熱伝導によるものなので、コンダクタンスである (k/δ) と推進力である温度差及び熱移動面積の掛け算となります。で、定常状態なので流入熱量と流出流量は等しくなります。最終的には式⑨と同じ式が得られますね。全部足して 4で割るですね。




計算例 1.  Examples 1.


で、早速計算してみますが、昔は手計算してたんですね。化学工学便覧でも1978年に出版された改訂4版ではその手法が記載されています。なんですが、今は 21世紀なので EXCELでサクッと計算してみます。前述のとおり、「隣接するCVの温度を全部足して4で割る」を数式としてEXCEL のセルに入力すれば良いですね。


✔ 計算条件  Calculation Conditions

参考文献に記載されている例ですが、0.1[m]×0.1[m] の正方形平板を下図のように分割し、上辺には断熱条件を与えその他の3つの辺には温度条件を与えるものとします。これを EXCEL のセルに割り当てて計算する訳ですが、少し注意が必要ですね。この図をパッと見ると図中の小さい正方形にセルを割り当てたくなりますね。ですが、そうでは無くて図中の線と線が交わっている各節点()にセルを割り当てる必要があります。そして、平板の各辺には境界条件が与えられていますが、具体的には各辺に並んでいる節点に境界条件が付与されているんですね。となりますんで、図では平板を10分割していますが、節点は11個となります。そして、両端の2つの節点は除外されるので、実際に計算するのは中間の9つの節点となりますね。それと、四隅の節点は温度を持たない節点となります。




✔ 計算結果  Results

EXCEL で実際に計算してみると以下のような結果となります。真ん中あたりに赤い実線で囲んだ節点温度がありますが、左右上下の温度の平均をとると真ん中の温度になってるのが分かります。また、下図下段はy方向の位置を固定してx方向の温度分布をプロットしたものですが、断熱壁に近い 0.09[m] だと 100[℃]から20[℃] までほぼ直線的な温度分布となっているのが分かります。一方、下辺に近い 0.01[m]だと下辺温度 20[℃]の影響を受けてだいぶ曲がった温度分布となっているのが分かりますね。

また、この計算で注意するのは EXCEL の循環参照となる事ですね。この計算例ですと、上辺が断熱壁となっていますが、結果を見てわかるように断熱壁の節点温度は隣接する y方向位置 0.09[m]の節点温度と同じですね。計算式としては、断熱壁 節点温度 = 0.09[m] 節点温度としているんですね。温度差が無いので熱伝導は発生せず、従って断熱条件となります。ですが、EXCEL でこのように設定すると 「循環参照になってますよ!」と警告が出ます。ですが計算上は全く問題無いのでEXCEL のオプション機能で、「反復計算を行う」にチェックを入れる必要があります。この程度の節点数だとあっと言う間に計算終了しますね。 



計算例 2.  Examples  2.

せっかくなんで、矩形平板 4辺温度が全て異なる場合について計算してみると下図のようになりますね。まあ、現実には有り得ない条件だと思いますが、計算自体はサクッと出来ますね。こんだけ温度が異なると温度分布 曲面も単純な形にはなりませんね。熱の流れを矢印とかで自動的に描ければ良いんですが、面倒くさいので EXCEL の等高線グラフに矢印を手書きしています・・・。

とまあこんな感じで簡単に計算出来るんで、例えば平板の内部に断熱壁が有るとか、温度条件を付与する事も可能ですね。この例では矩形と言っても正方形ですが、例えば 凸型とか凹型とか、L字型とかでも計算可能ですね。


まとめ  Wrap-Up

今回は2次元 定常熱伝導について EXCEL を使って計算してみました。今どき、EXCEL は一般的なアプリケーションで、大抵のヒトが使えるのでこんな伝熱計算も簡単に対応出来るんですね。ただ、まあ3次元となると少しばかり大変なので、熱伝導解析専門のソフトウェアを使ったほうが良いのかなと思います。

また、今回は境界条件として断熱条件と温度条件で計算してみましたが、それ以外としては熱流束一定条件とか熱伝達係数条件が有りますね。熱流束一定条件としては、例えば 電気ヒーターでの加熱などが該当しますね。また、熱伝達係数条件としては、例えばフィンから放熱している場合などが該当しますね。この時は、熱伝達係数値とバルク流体温度を与える必要があります。んで、温度条件が一般的なんだと思いますが、例えばスチーム加熱している場合などは 温度条件一定が達成出来ますね。この場合、壁面表面温度はスチーム圧力に対応した飽和温度に維持されますね。何と言っても凝縮熱伝達なんで、熱伝達係数値はすごく大きいので。

とまあ、そんな感じで実務でも熱伝導解析をする事は何回か有ったんですね。簡単なものであれば、今回のように EXCEL で計算できますね。で、熱伝導解析ですが どっちかと言うと定常状態よりは非定常過程を解析する方が多かったように思いますね。こんな条件で加熱・冷却したらこの部分の温度は1分後では何度になるのかな?って感じですね。このブログでも 非定常熱伝導解析として、「ポリマーストランド冷却」について取り上げています。非定常過程ですが、円筒座標系の1次元熱伝導解析なんで EXCEL で簡単に計算出来ますね。それと、身のまわりの化学工学シリーズでも 「調理における熱伝導と拡散」 について取り上げましたが、こちらも同じですね。




※ 少し複雑な形状における計算結果です。まあ、それっぽい感じですよね。で、一応 高温側境界 流入熱量と低温境界側 流出熱量の収支をとって、差し引きゼロである事を確認しています。境界前後の温度差=熱量と考えて良いですね。節点間距離と熱伝導率は同じなので。


参考書籍・文献  References

  1. 「化学工学便覧 改訂6版」 丸善 1999年刊
  2. 「大学講義 伝熱工学」 丸善 1983年刊
  3. 「化学工学便覧 改訂4版」 丸善 1978年刊














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