今回は CSTRの熱安定性 Thermal Stability of CSTR について取り上げます。CSTR ってのは連続槽型反応器 Continuous Stirred Tank Reactor の事ですね。Stirred は「かき混ぜる」って事なので、ちゃんと言えば「連続撹拌槽型反応器」となるのかなと。で、理想的なすごく良い撹拌が実施されていると想定すると、槽内は「完全混合状態」Complete Mixing Status にあります。なので、「完全混合槽型反応器」とも言えますね。ただ、連続操作ってのが重要なのでそこを強調して「連続槽型反応器」としているのかなと。
以前、このブログで 「No.84 重合反応器の除熱限界」を取り上げました。この内容も熱安定性に影響しますね。なんですが、あくまでも除熱速度の限界はどれくらいなのか?と言う観点で考えてみたんですね。で、着目しているのが撹拌熱です。エンジニアリングポリマーなどの高粘度液を撹拌する反応器では要注意ですね。
そして、今回の内容はと言えば、撹拌熱については考慮せずに(厳密には有りますけど)、反応熱量と除熱量とのバランスを考えてみよう!となります。まあ、重合反応器などであれば重合熱 Polymerization Heat をうまく除去しないと そもそも安定した運転が出来ませんね。場合によっては暴走反応 Run Away Reaction が始まる危険性もあります。と、実務においてもここいらについては何回となくやりましたね。で、このブログでも重合反応器について取り上げてますが、CSTRの熱安定性が重要となるのは「顕熱除去方式」Sensible Heat Removal type の反応器なんですね。「潜熱除去方式」Latent Heat Removal type だとボコボコと沸騰させて問答無用で除熱出来ますし。とまあそんな感じで熱安定性について計算してみます。
CSTRの熱安定性 Thermal Stability of CSTR
✔ 反応速度式 Reaction Rate Equation
熱安定性云々を考える前に、反応器において進行する反応速度についての情報が必要となります。今回想定する反応速度は以下の1次反応ですね(式①)。また、速度定数はアレニウスタイプの温度依存性式で表わされるものとします (式②)。参考書籍は少し古いものなので 気体定数の単位は [cal/mol K] となっています。
そして、この反応速度式を使って回分反応器 Batch Reactor における転化率と必要な反応時間を計算してみると下図 グラフのようになります。温度は 60[℃]としています。見て分かるように反応後半になると原料濃度が減少し、結果として反応速度が低下するので必要な反応時間は増加しますね。で、反応後半になるほど反応時間の増加具合は大きくなってますね。
✔ 連続操作における熱安定性 Thermal Stability in Continuous Operation
定常状態にある CSTR における物質収支(式⑦) と熱収支(式⑧) は以下のとおりです。で、両式から式⑨が得られます。で、この式を見ると右辺が反応熱量で左辺が除熱量となります。また、除熱量は 供給液の顕熱による冷却量と反応器壁面からの冷却量の合計となります。で、反応温度を一定とする為には反応熱量と除熱量が等しい必要がありますね。もし、このバランスが崩れていれば温度は上昇したり下降したりします。
で、反応熱量と除熱量の温度依存性をプロットしたのが下図 下段となります。総括伝熱係数U と伝熱面積 A 及び 冷却媒体温度 tc が一定であれば、反応温度 t を変化させれば 除熱量 qc は直線状に変化します。一方、反応熱については 例えば重合反応では 下図にあるように S字形の曲線になったりします。で、この直線と曲線との交点においては 反応熱量=除熱量 なので、その温度を維持して運転出来ますね。下図にはその交点が3つ有ります。
なんですが、熱安定性と言う観点からみると少し意味合いが違いますね。特に 点M が問題です。どんなふうに問題かと言うと、点M において運転している状態で何かの拍子で反応温度 t が高い方にシフトしたとします。そうすると、下図において qr > qc の領域に移動してしまいます。となると、反応熱量の方が多いので反応温度 t が更に上昇してしまいますね。つまり、点M からどんどん温度がズレていくって事になります。一方、何かの拍子に反応温度が低い方にシフトすると qr < qc となり除熱量の方が多くなるので、今度はどんどん温度は下がってしまう事になります。う~ん、これは問題ですね。また、点O と 点S についてですが反応温度がシフトしてもそれを打ち消すように熱量バランスが効いてきて、自然に元の反応温度に戻ろうとするので 安定な操作点と言う事になります。
勿論、点M では運転は出来ない!って事では無くて、適正な制御方式を適用すれば良いですね。反応温度 t の変化に追随して 冷却媒体温度 tc を変化させるとかですね。反応温度が上がったら媒体温度を下げますし、反応温度が下がったら媒体温度を上げて対応します。
計算例 Examples
- 反応温度 60 [℃]
- 転化率 80 [%]
- 反応物 分子量 125 [g/mol]
- 反応熱 24,000 [cal/g]
- 密度 900 [g/L]
- 比熱 0.9 [cal/g ℃]
- 生産量 180 [kg/hr] とする為の必要反応容積
- 反応液供給温度 20 [℃] とした場合の必要除熱量
- 反応槽 伝熱面積は 2.93×V^(2/3) [m2] で与えられるとして必要総括伝熱係数
- この操作点の熱安定性
✔ 必要反応容積 Required Reaction Volume
平均滞留時間と原料供給量が得られているので、両者を掛け算すれば反応容積となりますね。満液式反応器であれば、この反応容積が反応器容積となります。若しくは液面を有する非満液式反応器であれば、反応容積は液相部容積となります。
✔ 必要除熱量 Required Heat Removal
✔ 必要 総括伝熱係数 Required Overall Heat Transfer Coefficient
✔ 操作点の熱安定性 Thermal Stability of Operation Point
で、計算してみると下図のようになりますね。60[℃] では反応熱量と除熱量が均衡していて、ここが操作点となります。そして、温度が 例えば 62 [℃] に上がった場合 グラフを見て分かるように 除熱量の方が多くなります。なので、徐々に反応温度は下がり 操作点である 60 [℃] に落ち着きます。一方、温度が 58 [℃] に下がった場合、今度は反応熱量の方が多いので温度は上がり やはり操作点である 60 [℃]に落ち着きます。と言う事から、この 60 [℃] と言う温度は 熱的に安定な操作点であると判断されますね。
まとめ Wrap-Up
今回の例では 反応器が小さいので何とかなってますが、これが 数十[m3] となるような量産スケールの反応器では 伝熱面積の制約が顕著になるので、相当に厄介です。ジャケットだけでは伝熱面積が全く確保出来ないので、内部にコイルとかを詰め込みますが そうすると 槽内循環流量が影響を受けたり、デッドスペースが出来たりとか 気を使いますね・・・。ドラフトチューブ付きスクリューインペラが設置されている 満液式反応器なんかが該当しますね。
このブログでも 「反応器 熱収支 つづき」において 顕熱除去方式 反応器における冷却能力については取り上げてますね。まあ、その時は除熱量を達成する為に必要な伝熱面積がどれくらい必要かを計算してますね。で、顕熱除去方式には限界がありますよ的な結論でした。今回はもう少し詳細に 操作点の熱安定性について検討したという事ですね。反応プロセスの設計においては、操作点が熱安定性を有するようにしたいですね。とは言え いつもいつもそう出来る訳でも無いので、そこは制御でカバーしましょうという事になりますね。
参考書籍・文献 References
- 「重合反応工学演習」 培風館 1974年刊
- 「反応工学 改訂版」 培風館 1993年刊
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