今回は身のまわりの化学工学シリーズとして 「麺のゆで時間」について取り上げます。麺類ですが、うどん、ソーメン、蕎麦、パスタ、ラーメンなどが有りますがどれも美味しいですね。しかも、お手軽です。更にお手軽なのはカップ麺とかでしょうか。韓国に住んでいた際には、袋ラーメンは常時ストックしていましたね。まあ、大抵 すごく辛いんですけども。また、会社の社員食堂でも麺コーナーみたいなのが有りましたね。で、麺類でも鉄板と言うか 韓国のソウルフードとも言えるのが、チャジャンミョン 짜장면 でしょうか。中華麺の太麺に黒いチャジャンがどか~んとかけてありますね。具材としては豚肉と玉ねぎを小さめの賽の目切りにしたものでしょうか。味はだいぶ甘めですが、コクがあって美味いですね。
で、このブログでも「調理における熱伝導と拡散」シリーズで調理における伝熱・拡散問題を取り上げてますね。煮物調理とか熱板による焼き調理における食材(大根とかステーキ肉) 内部の温度変化について計算しました。食材の切り方で煮物調理の時間が変わりますね。また、麺と形状が同じものとしては 「ポリマーストランド冷却」を取り上げています。ポリマーストランド外径は 3[mm] なんで、太麺相当ですね。で、初期温度が200[℃] と高いので これをウォーターバスにくぐらせて冷却すると言うものでした。
そして、麺をゆでる場合ですが生麺とか乾麺をグラグラと煮立っているお湯にどか~んと投入して加熱する訳ですね。そうすると、麺の表面から中心に向かって熱が伝わります。現象的には、「非定常熱伝導」となり、麺の半径方向の熱伝導を考えれば良いので「1次元熱伝導」となります。となると、解析解もあるんで計算自体は楽ですね。と、そんな感じで麺のゆで調理を「非定常1次元熱伝導問題」として考え少し計算してみます。
※ Google の Gemini にチャジャンミョンの画像を作成して貰いました。あまり凝ったプロンプトにしなくてもこの程度の出来栄えなので大したものですね。ただし、こんなに箸で掴んでは口に入りきれませんね・・・。それと、韓国では箸と言えば金属製 (ステンレス製) なのが一般的ですね。まあ、プラ製とか木製とか、勿論 割り箸とかもありますけども。
非定常1次元熱伝導 Unsteady 1-D Heat Conduction
まあ、以前にも取り上げた計算式ですが 物体形状が無限円柱 Infinite Cylinder であれば 解析解がありますね。まあ、ベッセル関数が含まれていたりして面倒くさいですが EXCEL には実装されているので 昔よりは格段に計算しやすいです。そうじゃないと、書籍の巻末に載っているベッセル関数表からいちいち数値を読み取ったりしないといけませんね。
で、解析解ですが式①のとおりですね。この式に次数0と1の第1種ベッセル関数が含まれています。EXCEL に実装されているベッセル関数では 引数として μn の値と次数を指定します。ご覧のとおり、数式は総和 Σ なので n=1 から順々に計算していって全部足せば良いですね。ですが、n=20 とかは大変なので n=6 くらいで良いかと。参考書籍である「伝熱工学資料 第4版」には n=6 までのμn の値が記載されています。で、少々面倒くさいのは μn の値が ビオー数 Biot Number で変化するって事でしょうか。μn の ビオー数依存性についても下図に示しています。
ビオー数ってのは 固体内部と固体表面の熱コンダクタンスの比率ですね。どっちの熱移動が律速段階となるかを示しています。ビオー数が無限大と言うのは 「熱伝達係数がすごく大きい」と言う状態なので、熱移動は固体表面の熱伝達支配となります。一方、ビオー数がゼロってのは「熱伝導率がすごく大きい」と言う事になるんで、熱移動は固体内の熱伝導支配となります。μn の変化具合を見ると ビオー数 1 くらいを境にして値が変わるんですね。まあ、ビオー数が 1 と言うのは、熱伝達と熱伝導が拮抗している状態ですね。グラフを見ると、まあ ビオー数が 100 よりも大きいと その後の増加はそれほど大きくは無いので、無限大の値を使っても良いかと思いますね。厳密では無いですけども。
※ 下図の表では、ビオー数 0.001 としていますが これは Bi = 0 の事です。また、ビオー数 10000 としていますが、これは Bi = ∞ の事です。何か値を与えないとグラフを描けないので。
計算例 Examples
✔ 麺の物性 Thermal Properties of Noodels
ネットで調べてみましたが 「パスタの熱伝導率はこれくらい、とか うどんの比熱はこれくらいです」と言うのは不明でした。まあ、実際のところ生麺なのか?乾麺なのか?と言った含水率でも違うでしょうし。なので、 熱伝導率と比熱については参考文献にあった炭水化物の値を使ってみました。密度は有機物なんでこれくらいかなと。
- 熱伝導率 0.245 [W/m K]
- 比熱 1,220 [J/kg K]
- 密度 600 [kg/m3]
それと、物性値では無いですが麺表面の熱伝達係数値は 200 [W/m2 K] としています。そこまで大きい訳では無いです。なので、ビオー数=無限大とは言えませんね。今回の計算では、ビオー数は 1 前後となったので前述の μn の値を 0.1 ~ 10 まで適当な近似式で近似し、任意の ビオー数における 各μn の値を決定しました。
✔ 無次元温度の経時変化 Dimensionless Temperature Change over Time
まずは、前述の式①を使って無次元温度の経時変化について計算してみます。無次元温度は 初期温度とバルク流体温度によって無次元化したもので、時間については式④で表されるフーリエ数となります。まあ、無次元時間ですね。そして、麺断面の位置毎に経時変化を描いていますが、 r/R =1.0 は麺表面となります。なので、初期の無次元温度は 1.0 ですが お湯に投入するとすぐに 0.0 になります。一方、r/R = 0.0 は麺中心となります。見て分かるように温度変化は最も遅いですね。
※ 無次元温度の定義にもよりますが、式①では 無次元温度 0.0 が バルク温度(100℃)となり、1.0 が初期温度 (室温)となります。 加熱するんで 値が0.0 から 1.0 に大きくなる方がしっくり来ますけども・・・。
✔ 麺の温度変化 Noodle Temperature Change over Time
細麺だとあっと言う間に中心部まで熱が伝わります。半径 2[mm] だと麺外径 4[mm] となりそこそこ太いですが、それでも1分ほどで熱くなってますね。とまあそんな感じなんですが、実際にパスタとか乾麺のうどんをゆでる時って結構 時間をかけますよね、10分とか。
と言う事で、ネットで麺のゆで時間について探してみました。で、麺半径に対してゆで時間をプロットすると下図のようになりました。まあ、麺のゆで時間は 長くても 10分くらいでしょうか。伊勢うどんは 1時間とか言いますが、あれはお伊勢参りのお客さんにすぐ提供できるように わざとずっとゆでているんだとか。結果的にゆで時間が長くなって、すごくやわらかくなるんで消化にも良いよって事らしいです。
と、それはさておき単純に麺の中心まで熱くするんであれば 短時間で済みますが、実際はその時間よりも圧倒的に長い時間 ゆでてるんですね。で、その理由ですが ものすごく分かりやすい説明があったので引用させて頂きます。「北東製粉株式会社」さんのホームページには以下のように説明されています。
※ 北東製粉株式会社 ホームページ うどんの雑学より抜粋
https://www.hokuto-kona.net/udon/zatsugaku/yudejikan.html
麺の中心部はすぐに熱くなるって事にも言及されていますね。今回の計算でも麺外径 4[mm] すなわち 麺半径 2[mm] だと 確かに 1分ほどで 99.9 [℃] になってますね。ゆで操作における律速段階は水分の浸透なんですね~。なので、熱伝導と水分拡散を同時に解けば良いのかなと思います。んでも、うどんにおける水分の拡散係数とかどれくらいなんでしょうか・・・・。
まとめ Wrap-Up
んでも、「そうめん」で超極細麺ってのが有るんですね。最も細いのだと何と 0.3 [mm] でゆで時間は 30秒です。さすがにここまで細いと水分の浸透も早いんだろうな~と思います。奈良県の製麺会社さんの公式ホームページから注文できますが、ギフト用だとそれなりにお高いですね。んでも、麺つゆが良く絡みそうなので 美味しそうですね。手延そうめんとかだと、麺線を何回も引き伸ばしたり撚ったりしてどんどん細くしていくんですね。で、その途中で麺同士がくっつかないように椿油などの植物油を塗ったりするんだそうです。
また、韓国に住んでいた際には飲み会の締めには「冷麺」が一般的ですね。汁なしと汁ありが有りますが、いつも汁ありの冷麺 물냉면 を食べてました。直訳すると「水冷麺」ですね。原料は他の麺と同じくデンプンですが、 目皿と言うか多孔板を使った押出し製麺なんですね。で、目皿からグニュ~っと押し出された麺を適当な長さでエイッと切って、ドボンと熱湯に落としてゆでますね。韓国の冷麺は弾力は有りますが、だいぶ細麺でした。一方、盛岡冷麺とかだとすごく太いですね。初めて食べたときは「これはゴムなのか!?」とビックリしましたね。もちろん、それもそれで美味いんですけども。
最後にトリビアルな話題を一つ。世界ラーメン協会 World Instant Noodle Association が有りまして、その協会の公式ホームページではインスタントラーメンの世界需要が公表されているんですね。国・地域別だと中国がダントツでの第1位で年間 438億食です。日本は第5位で 59億食となってます。なんですが、人口が多いと消費量も多くなりますよね。なので、人口1人当たりの消費量にしてみると、ベトナム 81食、韓国 79食で 拮抗していますね。何年か前にみた時は まだ韓国が1位だったと記憶していたんですけど。ベトナムも経済発展に伴ってガンガン カップ麺を食って頑張ってるんでしょうか。また、韓国のラーメンやカップ麺好きは自他ともに認めるところでしょうか。マート (日本で言うスーパー、あちらではマートと呼ぶのが一般的) でもカップ麺・袋麺 コーナーは非常に充実してますね。そして、ほぼ全てが辛いです。まあ、それはそれで美味いんですけど。好んで買っていたのが、ノグリ 너구리 でした。すごく辛いですがマイルド味もありますね (それでも十分に辛い)。 なのに、社員食堂でも街なかの食堂でも「うどん」 우동 は全然 辛くないんですね。因みに「うどん」はあちらでも「うどん」と発音しますし、それでどこでも通じます。そして「チャンポン」짬뽕 も有りますし、やはり「チャンポン」と言えば通じます。なんですが、チャンポンは汁が真っ赤ですご~く辛いです。何故?
※ 世界ラーメン協会 ホームページ 掲載のデータに基づいて作成しました。
参考文献・書籍 References
- 「伝熱工学資料 改訂4版」 丸善 1986年刊
- 「麺のゆで方とテクスチャーについて」
家政学雑誌 第34巻 第4号 1983年 - 「加熱調理と熱物性」
日本調理科学会誌 第46巻 第4号 2013年 - 「麺の科学」
山田 昌治 講談社 BLUEBACKS 2019年刊 - "Water Sorption Kinetics of Wheat Noodle with Different Diameters"
Food Science and Technology Research, 20 (2), 2014
web site
- 北東製粉株式会社 ホームページ
うどんの雑学 うどんの茹で時間と太さの関係
https://www.hokuto-kona.net/udon/zatsugaku/yudejikan.html - 株式会社 三輪山本 ホームページ
https://www.miwayama.co.jp/ - 世界ラーメン協会 ホームページ
https://instantnoodles.org/ - ノグリ ブランド ホームページ
https://brand.nongshim.com/neoguri/main/index
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