今回は傾斜板沈降槽 Inclined Plate Settling Tank について取り上げてみます。重力を利用した湿式分級の一種ですが、これまた粉体工学辞典から引用させて貰うと以下のとおりです。
「液体の清澄を目的とした沈降分離装置の一種。沈降槽内に沈降面積の増大を目的に平行傾斜板群を設置する。これにより沈降装置の底面積を減らすことができ,分離度合いも向上する ~(中略)~ 沈降槽は,長方形槽では一群の平行傾斜平板を,また円形槽であれば傘型分離板を多数重ねて構成される。平板の代わりに様々な断面形状をもつ管群を用いる場合もある。平行傾斜平板は,平板間隔約 0.05 m,水平から約 45 ~ 55˚ の傾きで設置される ~」
ネットで実際の施行例を調べてみるといろんなメーカーさんが取り扱ってますね。どか~んとデカい沈降槽にこれまた大量の平行傾斜板を多段に設置してたりしますね。枠は金属製でステンレスとかですが、傾斜板自体は PVC製ってのが多いようです。また、竪型円筒槽に陣笠のような傾斜板を設置してあるってのも有りましたが 実に興味深いです。下図はラメラタイプの沈降槽となりますが、ラメラ Lamellar ってのは層状という事なので まあ見たまんまですね。沈降槽の横にスラリー供給ノズル、上部には清澄液排出ノズル、下部にはスラッジ排出ノズルが配置されています。沈降槽の内部には傾斜板が設置されていますが、左右に分離しています。スラリーが良い感じに流入する様に配置されているのかなと。で、傾斜板の上面固体粒子が堆積して、重力によって下方に移動していきます。一方、清澄液は傾斜板の下面と言うか裏面をす~っと昇っていって液面に到達します。まあ、うまく考えられていますね。
このブログでも沈降槽についてはいくつか取り上げてますね。さすがに実務ではやった事は無いですけど。とまあそんな感じで、傾斜板沈降槽について計算したり絵を描いてみようかなと。
No.62 湿式分級 Hydraulic Classification
No.136 シックナーの設計 Thickener Design
傾斜板沈降槽とは? What is an inclined plate settling tank?
✓ ボイコット効果 Boycott Effect
そもそも傾斜板を設置すると何がどう良いのかですが、その辺りについて最初に言及したのは英国の Arthur Edwin Boycott (1877 - 1938) で 1920年とされています。この提唱者に因んで ボイコット効果 Boycott Effect と言われますが、赤血球沈降 (赤沈) 現象においてこの現象を発見したとの事です。ネットで調べてみると赤血球沈降速度検査ってのが有って、 ウェスターグレン赤沈管に血液を入れて垂直に立てて1時間待ちます。すると、赤血球が沈降して血沈管上部には血漿層が観察されますが、 この層の長さが重要なんですね。で、この血漿層の長さですが成人男性だと正常値は 2~10mm で、成人女性であれば 3~15mm との事です。そして、炎症などの異常があると赤血球同士が凝集するんで赤血球沈降速度が大きくなり、結果としてこの血漿層が長くなるんで、何か病気に罹っていると判断されるようです。で、この時 血沈管が傾いていると赤血球沈降速度が大きくなります。そうするとキチンとした診断が出来ませんね。その事をボイコット氏が発見したんですね。「何か管を傾けると赤血球の沈降が早いな~」って感じでしょうか。その他の条件を同じにして傾斜角度のみを変えて実験して血漿層長さを測定すればより詳細なデータが得られますよね。
因みにヒトの赤血球の大きさですが直径 7~8 [μm] で厚みが 2 [μm] くらいの円盤形状との事です。前述の赤沈管の内径は 2.55 [mm] なので、赤血球 300個分ぐらいとなります。
✓ 傾斜板の原理 The principle of inclined plates
勿論、赤血球の沈降速度も重要なんですが 排水処理などの分野においても粒子沈降速度は重要です。で、前述のボイコット効果を適用すれば効率が良くなるのでは無いか? とも考えられます。手っ取り早いのは血沈管と同じ様に沈降槽自体を傾ければ良いですが、どか~んと大きな槽であればなかなか難しいかと。で、どうするかですが 下図のように液中に傾斜板を設置するんですね。前述の血沈管を見ると分かりますが、垂直管と傾斜管とで何が違うかと言うと「下向きの面」の有無なんですね。この下向きの面 即ち 傾斜板を懸濁液中に設置した場合の沈降について考えたのが下図となります。
下図 左側は沈降槽のみが有って傾斜板は無いですね。で、粒子の沈降によって清澄層と粒子層との界面がスーッと一定速度で低下している理想的な状態を想定します。この沈降槽の断面積を A [m2] とし沈降速度 Vs [m/s] とすれば、時間 t [sec] で得られる 清澄層体積 q0 [m3] は式①で与えられます。そして、この沈降槽に傾斜板 1枚を設置するとします。傾斜板の面積は S0 [m2] で傾斜角度 θ [deg] が与えられると 式②により清澄層体積 qt [m3] が得られます。
当然ですが、傾斜板を設置する事によって清澄層体積が増加してますよね。なので、式①と②から清澄層体積がどれくらい増加するか? を求める式③が得られます。で、式③は傾斜板が1枚だけですが n 枚の場合だと 式④によって増加割合が計算されます。
✓ 傾斜板モデル Inclined Plate Models
なんですが、c. は現実的では無いですね。と言うのも、水平板であれば板の上に堆積した粒子層が排出されませんね。なので、何か粒子層排出機構を設置する必要が有りますが、正直面倒くさいですね。であれば、粒子層が重力で自然に排出されるように角度を付けるのが現実的ですよね。なので、実際の傾斜板沈降槽では 45 ~ 60 [deg] などに設定するようです。 この辺りは供給されるスラリーの性状によるのかなと。
✓ 沈降槽における傾斜板効果 Inclined Plate Effect in Settling Tank
傾斜板角度と設置枚数の影響は以下のとおりです。計算条件ですが、沈降槽は 一辺が 5[m] の立方体とし、そこに 一辺 3[m] の正方形の傾斜板を設置するものとします。
下図上段グラフは 傾斜板を1枚だけ設置した場合の傾斜板効果ですが、角度 90 [deg] とすると垂直な板となるので何の効果も有りません。なので沈降促進効果の値は 1.00 となります。で、傾斜板を傾けていくと値は大きくなります。水平だと 1.36 まで改善されますが、前述のとおりこれは現実的では無いですね。なので、60 [deg] とすると 促進効果は 1.18 となり、まあ 2割ほど改善されるって事になります。
で、下段グラフですが 傾斜板の枚数を変えて計算しています。因みに、角度は 60 [deg] に固定していますが、枚数の効果は圧倒的ですね。30枚とすると促進効果の値は 6.4 となりますんで、6倍も効率的となります。これを傾斜板無しの沈降槽で実現しようとすると 6倍の断面積が必要になります。
傾斜板沈降槽の解析 Analysis of Inclined Plate Settling Tank
前述のとおり、傾斜板を有する沈降槽はすご~く効率が良いよ!って事なんですが それだけではあまり面白く無いので、もう少し詳しく見てみます。参考文献は 苫小牧高専の平野 博人 先生らによって発表された一連の文献です。
✓ くさび形清澄層モデル Wedge - Shaped Clear Liquid Model
そして、式⑤は沈降槽全体の流量収支であり、式⑥は固体流束収支となります。ここいら辺を整理すると式⑦となりますが、斜高 Z における固体流束収支式となります。参考文献によれば傾斜沈降槽とする事によって 右辺第二項の分だけ処理量が増加すると有ります。
✓ 回分沈降速度 実験結果 Batch Sedimentation Velocity: Experimental Results
そして、下図下段グラフですが粒子濃度を様々に変化させ、粒子濃度に対して定速沈降区間の沈降速度をプロットしたものとなります。 濃度が高くなると沈降速度は低下してますね、干渉沈降となるので。で、このグラフには同じ沈降高さ 30[cm] における垂直沈降速度と傾斜沈降速度の結果が併記してあります。見てみると濃度 にもよりますけども、沈降速度は2倍くらい差がありますね。こんな感じで傾斜板による促進効果ってのは実験的にもきちんと検証出来るって事になります。
✓ 回分沈降曲線と固体流束曲線 Batch Settling Curve and Solid Flux Curve
要は、回分沈降曲線と回分固体流束曲線との間には下図に示す関係が有ると言う事です。下図上段の回分沈降曲線には3つの三角形が有りますが、これに基づく三角形が固体流束曲線にも有ると言う事になります。なので、回分沈降曲線が得られれば 回分固体流束曲線が得られると言う事なのかなと。で、下図の三角形は回分垂直沈降曲線についてのものですが、同じ様に考えると回分傾斜沈降曲線についても適用可能であると考えられます。
✓ 連続シックナー内の濃度分布 Concentration Distribution in Continuous Thickener
まとめ Wrap-Up
んじゃ、全部 このタイプにすれば良いんじゃないかな~と思うんですが、いつも使える訳では無いのかな~と。傾斜板上に堆積した粒子層が重力でズリ落ちていく必要があるんで、粘るような付着性の強い粒子層については適用は難しいのかなと思います。円筒型シックナーだと底部にレーキがあって強制的に掻き取って排泥する様になってますしね。と思ったら、ラメラタイプの底部にレーキが設置してあるタイプも有ったりするんで、他にもいろいろと理由が有るのかなと。
にしても、何か単純な機構では有るんですが解析と言うか設計手法ってのは難しいな~と思います。まあ、専門メーカーではノウハウとかが蓄積されてるんだと思うんで、サクッと出来るんだろうなとは思いますけど。
参考書籍・文献 References
- 「垂直および傾斜固体流束曲線を用いた連続傾斜シックナーの槽内濃度分布の理論的解析」
化学工学論文集 第37巻 第6号 2011年 - 「垂直および傾斜固体流束曲線を用いた傾斜シックナーの処理量増加についての解析」
化学工学論文集 第35巻 第1号 2009年 - 「垂直および傾斜固体流束曲線による傾斜シックナー操作の解析に関する実験的検討」
化学工学論文集 第5巻 第2号 1979年










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