今回は身のまわりの化学工学シリーズとして、「ずっと冷たく ずっと熱く」について取り上げてみます。と言ってもピンと来ないかもしれませんけど、マグカップやタンブラーなどの飲み物用食器に入れた飲み物の温度をず~っと適温に保つと言う操作と言うか現象の事です。まあ、大好きなチューハイであれば キンキンに冷やした状態で飲みたいですし、ホットコーヒーであればそれなりに熱い温度の方が美味いですよね。なんですが、例えば 冷蔵庫から麦茶のピッチャーを取り出しコップに注ぎます。普通のガラスコップであれば5分も経てばヌルくなるような感じでしょうか。夏場だと結露までしてビショビショになりますし・・・。
で、この現象ですが 周囲空気とコップ内の麦茶との温度差に起因する熱移動です。このブログでもだいぶ前に「物体の冷却」として取り上げてます。
「化工計算ツール No.4 物体の冷却 媒体温度一定」
「化工計算ツール No.5 物体の冷却 媒体出口温度が変わる場合」
テーブルの上に置かれたコップであれば 周囲空気温度は一定でしょうから、媒体温度一定の場合となります。そして、麦茶温度の経時変化については比較的単純な式で計算出来ますね。なんですが、この時必要となるのが まずは温度条件である麦茶初期温度と周囲空気温度です。そして、伝熱面積が必要となります。まあ、これらについては温度計を使って実測出来ますし、面積も各部寸法を測定すれば計算出来ます。そして、重要なのが総括伝熱係数となりますが、これは単純に得られるものでは無いですね、残念ながら。勿論、ある程度は推定する事も可能では有りますけど。
そして、ここ10年くらいで真空断熱マグカップとかタンブラーが普及してきてますが、ずっと冷たくとかずっと熱くってのも ある程度は達成出来ているのかなと。勿論、ず~っと何日も温度が変わらないってのは有りえませんけど。まあ、そこら辺を少し計算してみようかなと。
非定常 加熱・冷却操作 Unsteady Heating and Cooling
✓ 温度経時変化 計算式 Temp. Change Equation
周囲温度一定条件における液温度の経時変化を計算する式は以下のとおりです。微小時間における熱収支から導き出せますね。で、前提条件として液には温度分布は無いものとします。所謂、集中定数系の計算式となります。
式①には温度条件(周囲温度、初期液温度)、液重量、液比熱、伝熱面積が含まれています。そして、これらは予め決まっていたり、若しくは自分で決める事が出来ます。つまり、これらは全部既知となります。で、簡単に求められないのが 総括伝熱係数 U となります。
✓ 総括伝熱係数 Overall Heat Transfer Coefficient
で、総括伝熱係数についてですが 飲み物用食器 Drinkware の構造や材質に影響されますよね、普通に考えて。そこら辺りをまとめると下図のような感じでしょうか。コップなどの容器に液体が入っています。そして、例えば 周囲空気よりも温度が低いとします。そうすると、周囲空気から容器中の液体へと熱移動が起こります。この時、空気側バルクから液体側バルクまで温度分布が形成されています。んで、空気側には熱伝達係数 ha が、液体側には熱伝達係数 hL が定義されます。更に、固体壁面にも k/lth なる熱コンダクタンスが定義されます。これらの熱コンダクタンスの逆数は熱抵抗となりますが、各熱抵抗を全部加算します。そして、得られた全熱抵抗の逆数が総括伝熱係数 U となります。まあ、伝熱の基本と言ったところでしょうか。
で、容器内の液をずっと冷たい状態で維持するには 熱移動速度 Q を出来るだけ小さくする必要が有ります。熱抵抗は空気側・固体壁・液側の3つですが 前述の真空断熱マグカップとかであれば 固体壁の熱抵抗をすご~く大きくする事によって 熱移動速度を小さくしようとしているんですね。その辺りを下図に描いてますけど 固体壁が二重になっていて 固体壁に挟まれる格好で中空層が有ります。で、ただ単に中空層としたのであれば 空気層となりますが、空気であっても熱伝導によって熱は移動します、それなりに小さくは有りますけど。んじゃ、空気を除去してやれば 少なくとも熱伝導による熱移動はキャンセル出来るのではと言うのが 真空断熱なのかなと。それでも、放射伝熱ってのは有るんですけども。
✓ 真空層の熱抵抗 Thermal Resistance of Vacuum Layer
参考文献には減圧された中空層、所謂 真空層における熱移動についての計算式が記載されているので、そちらを参考にしてみます。まあ、普通に考えると 中空層ってのは薄いので対流ってのは起きそうに無いですよね。この時の対流ってのは強制対流では無くて、自然対流となります。温度差によって密度差が生じ、それによって発生した浮力によって流体が流動します。
で、ある厚さを有する中空層の両端に温度差を与えた場合、自然対流が発生するか否かを判断する指標が有ります。グラスホフ数とプラントル数との積が 1000 以下であれば、自然体流は発生せず、熱伝導のみが起こると判断されます。計算式は以下のとおりです。まあ、自然対流の計算とかでは Gr Pr の値が 普通に10の10乗とかになりますね。なので、1000 以下だと浮力による流動に対して気体の粘性による抵抗の方が卓越しているんで、結果 流動出来ないって事になるんだと思います。
そして、真空層の熱伝導率は以下の式で計算されると有ります。真空となると出てくるのがクヌーセン数ですね、やはり。式⑦で計算されますが、気体分子の平均自由行程を式⑧で求めておく必要が有ります。で、クヌーセン数が大きいと所謂 分子流として取り扱う必要が有り、その時の熱伝導率は 式⑨で計算されるとの事です。一方、クヌーセン数が小さいと 普通に連続体として取り扱えるので、空気の熱伝導率を使えば良いですね。また、この式⑨に含まれる定数値 β0 については 0.5 ~ 0.6 って事らしいです。
で、最後に真空層の見かけ熱伝導率を求めます。真空層においては熱伝導と熱放射が並列して起こっているのでその点を考慮して以下のように定まります。式⑫が真空層の熱抵抗で、式⑬は真空層厚みを熱抵抗で割り算して 見かけの熱伝導率としています。
計算例 Examples
✓ 空気層の自然対流 Natural Convection in Air Layer
前述のとおり、真空層においてはそもそも流体がほとんど存在しないので自然対流は発生しないんですが せっかくなので層厚みを変えてグラスホフ数×プラントル数 Gr Pr を計算してみます。下図のとおりですが、空気層 1[mm] とかでは自然体流は発生しませんね。層両端の温度差を 30 [℃] と 100 [℃] で計算してみましたが、それほどには差異は有りませんね。なので、1[mm] 程度の空気層であれば 自然対流について考慮する必要はまず無いですね。この計算は空気層として計算していますけども、空気ってのは以外に粘っこいんだな~とは思いますね。で、空気層厚みが 10 [mm] となると自然対流が発生するようになりますね。
✓ 真空層の熱伝導率 Thermal Conductivity of Vacuum Layer
で、下図 上段グラフは圧力と平均自由行程 及び クヌーセン数との関係を計算してみた結果です。クヌーセン数が 10 以上では 分子流 Molecular Flow なので、層厚み 1[mm] で 0.013 [Pa] まで減圧すると 確実に分子流領域となります。そして、下段グラフは真空層の熱伝導率の計算結果となります。なんですが、ピンと来なかったので別の式でも計算しています。そうすると2桁ほど小さくなりました。計算式はグラフ中に記載していますが、クヌーセン数を含む経験式のような格好になってますね。まあ、どちらの式を使うにしても ものすご~く小さいですよね。なので、真空層においては 熱伝導の寄与ってのは ほぼゼロとして取り扱えると思います。まあ、これが真空にする事の利点なんですよね。
✓ 真空層の放射熱伝達係数 Radiation Heat Transfer Coefficient in Vacuum Layer
✓ 総括伝熱係数の比較 Comparison of U-value
やっとこさですが、総括伝熱係数を計算してみます。材質と厚みは下図のとおりです。ガラス、ステンレス、木製、紙 そして 真空断熱となっています。真空断熱の壁面材質はステンレスとします。そして、真空断熱層の厚みは 1[mm] で見かけ熱伝導率は 0.004 [W/m K] とします。この値ですが、前述の放射熱伝達係数 4 [W/m2 K] に真空断熱層厚み 0.001 [m] を掛け算すると得られます。
で、計算結果ですが やはり真空断熱の効果は絶大ですね。熱抵抗の値がものすご~く大きいですし、その結果として 総括伝熱係数は大幅に小さくなっています。 ざっと 1/5 って感じでしょうか。
✓ 温度 経時変化 Liquid Temp. Change
で、計算してみると はっきりと違いが有りますね。真空断熱以外の容器では 2時間経過後に 20 [℃] 以上となってますが、真空断熱の場合は 7 [℃] くらいとなっています。まあ、これが真空断熱の実力って感じなんでしょうか。ネット記事とかを見ると確かにヌルくなり難いってのは分かりますけど、こうやって実際に計算してみると 確かに全然違いますよね。
まとめ Wrap-Up
で、ガラスだと割れますよね・・・。そこを打破したのがステンレス製高真空ボトルで、それを開発したのは 日本酸素 (旧 大陽日酸) です。まあ、アイディア自体は有ったんでしょうけど 実際に製作するのは難しいんだろうなとは思います。内瓶と外瓶を別々に作っておいて 要所要所を接合して最後に真空封止する必要が有ります。考えただけで面倒くさいです。なんですが、需要は有ったんですし、実際にバカ売れしていますよね。いまこのブログを書いている時にも傍らには薄めのウィスキーの水割りが入ったサーモス®のマグカップが有ります。全然ヌルくなりませんし結露もしません。この手の製品を使い始めてかれこれ 10年以上にはなりますね。韓国在住時代も愛用していましたね~。テクノロジー万歳です マジで。
参考書籍・文献 References
- 「光透過性を有する薄型真空断熱材の開発に関する研究」
太陽エネルギー 第44巻 第2号 2018年 - 「ステンレス魔法瓶の開発」
真空 第32巻 第12号 1989年












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