今回は 乱流撹拌槽伝熱の促進について取り上げてみます。このブログでも層流域と乱流域における撹拌槽伝熱について取り上げています。インペラとしては層流域では アンカー Anchor やダブルヘリカルリボン Double Helical Ribbon が使われますし、乱流域では 傾斜パドルや Pitched Paddle 、ディスクタービン Disc Turbine が一般的でしょうか。伝熱面積としては槽壁だけの場合も有りますし、伝熱コイルを詰め込むのも有りですね。少し変わったところでは バッフル内に媒体を通液して冷やすとか温めるってのも有ったりします。
No.52 撹拌槽伝熱 層流
No.51 撹拌槽伝熱 乱流
ケミカルプラントでは冷やしたり温めるってのがすご~く頻繁に出てくるので重要なんですが、それなりの大変さと言うか面倒くささってのも有りますよね。ビシッと熱伝達係数が推算出来れば良いんですけども、多様なインペラ形状や運転条件に対応している推算式が完備されているって訳でも無いですし。
そして、今回取り上げる 伝熱促進ですが 熱伝達係数の値を大きくする手法として、液中に粗粒子 Large Particle を混入させ、その粒子ごと液を撹拌します。そうすると、高レイノルズ数領域においては 粗粒子による撹乱効果が顕著になって槽壁表面における熱伝達係数が増加すると参考文献には記載されています。粗粒子がゴツンゴツンと槽壁に衝突して、槽壁表面の境界層 特に 粘性底層を薄くする効果が有るんだろうな~と思います。 とまあそんな辺りを計算してみようかなと。
粗粒子混入の効果 Effect of Large Particle Addition
今回参考にした文献は以下の2つとなります。門叶 秀樹 先生は 山形大学で教鞭をとられていますが、研究室のホームページを拝見すると ご専門は 流体工学と伝熱工学との事です。「伝熱促進」、「撹拌操作」そして 「固液二相流」が研究テーマのようです。因みに、先生の苗字は「とかない」と読みますが、珍名ですよね~。
「乱流撹拌における槽壁熱伝達におよぼす粗粒子混入の影響」
丸井 征敏、門吐 秀樹
化学工学論文集 第47巻, 第4号, pp91-95, 2021
「大粒子添加による固液撹拌槽の槽壁熱伝達の促進」
藤堂 里美、門吐 秀樹
化学工学論文集 第49巻, 第5号, pp119-122, 2023
✓ 実験装置 Experimental Apparatus
参考文献に記載されている実験装置をご紹介しておきます。撹拌槽内に粗粒子を混入させるので、槽内径やインペラ径と比較してどれくらいの大きさの粒子を入れてるのかが分かった方が良いですし。
で、参考文献に基づいてエイッと絵を描いてみると下図のようになります。撹拌槽は内径と高さはどちらも 120[mm] で上下は平板となってます。なので、自由表面は無いですね。インペラは ラシュトンタービンとの事なので、所謂 ディスクタービンとなります。インペラ径は 60 [mm] なので 槽径の半分ですね。そして、バッフルは有りません。図に有るように 槽底から液 (この場合は水) を供給し、槽上部から排出します。そして、槽壁材質は 真鍮 Brass なので 銅と亜鉛の合金です。液の入口と出口、そして槽壁の複数個所に熱電対が設置されており 温度を測定しています。伝熱の実験なので当然と言えば当然ですけど。
- PA66 1,140 [kg/m3] 0.32 [W/m K] 1,670 [J/kg K]
- ABS 1,004 [kg/m3] 0.16 [W/m K] 1,007 [J/kg K]
- PMMA 1,200 [kg/m3] 0.21 [W/m K] 1,460 [J/kg K]
✓ 実験結果 Experiment Results
次に 実験結果について触れておきます。PA66 製の粗粒子を混入させて 撹拌し、熱伝達係数を求めた結果が下図となります。横軸は 撹拌レイノルズ数 Re で、縦軸は ヌッセルト数×プラントル数のマイナス1/3乗 Nu Pr ^-1/3 となります。
この結果を見るといくつか分かる事が有ります。まあ、参考文献に記載されている事なんですけども。以下のとおりです。
- 低レイノルズ数領域
バッフル無し推算式の結果より熱伝達は悪くなりますが、粗粒子径が大きいと同程度の熱伝達が確保されています。確かにそうなってますけども、その理由は下図に描いてあります。粗粒子径が小さいと 投入する粒子個数が多くなります。そうすると 撹拌回転数が小さくて浮遊していない状態では槽底に粒子が堆積するんですね。となると、その堆積粒子に接している側壁部分は伝熱に関与しなくなるので その分 熱伝達係数が小さくなる、と説明されています。一方、デカい粗粒子だと個数が4個とかなので こうなると 無いのと同じですよね。結果、熱伝達は影響を受けないとなります。なるほどですね~。 - 中間レイノルズ数領域
レイノルズ数の増加に伴い熱伝達は促進され、熱伝達係数値は増加していきます。バッフル有り推算式の結果に徐々に近づいていきます。 - 高レイノルズ数領域
バッフル有り推算式の結果と同程度の熱伝達係数となりますが、更にレイノルズ数が大きくなると なんとバッフル有りの場合よりも熱伝達は良くなるんですね。これが粗粒子による伝熱促進効果となります。う~ん、面白いです。
✓ 熱伝達 相関式 Heat Transfer Correlation Equations
で、参考文献には 実験結果から得られた 熱伝達相関式が記載されています。式①と②は ディスクタービンにおける槽壁表面の熱伝達相関式ですが、①はバッフル無しで②はバッフル有りとなります。そして、バッフル有りの 熱伝達係数は無しの 1.4倍です。粗粒子が全く無い場合については これらの式で熱伝達係数が求められます。
そして、粗粒子を混入させた場合ですが 低レイノルズ数領域と高レイノルズ数領域とでは相関式は異なります。まず、低レイノルズ数領域では 式③を使いますが、H と H' が含まれています。H は 槽高さ (= 液深さ) であり、H' は粗粒子充填高さとなります。粗粒子が浮遊していない場合、粗粒子は槽底に堆積しますが その高さですね。で、この H' は式④で計算しますけども、Φv は粗粒子体積比率です。Φv については自分で決められます、0.05 とか 0.1 とか。更に、空隙率 ε が含まれており、これは粗粒子の充填状態に影響を受けると有りますが、式⑤を使えば求める事が出来るようです。なんですが、前述の実験結果を見ると 粗粒子径が 25.4 [mm] とすごく大きいと、粗粒子堆積による伝熱抑制は発生しないんですね。なので、普通に式①を使えば良いですね。だったら、例えば粗粒子径が 22 [mm] とかだったらどうなのか? と思ったりします。この辺りは参考文献にも記載が無かったんですが、粗粒子数を計算してみて槽底全体が粗粒子で覆われるような状態になれば 影響が出てくるのかな~と思います。
また、高レイノルズ数領域については 式⑥が使えます。こちらの式については、粗粒子径 9.5 ~ 25.4 [mm] までに対応しているとの事でした。そして、式⑦・⑧・⑨ は伝熱ではおなじみの無次元数となります。これらの無次元数には 各種物性が含まれますが、粘度・熱伝導率・比熱については 液体単体の物性値を使います。今回の場合は 水 ですね。つまり、粗粒子混入の影響は考慮しないと言う事になります。なんですが、密度については粗粒子の体積比率を考慮した平均密度を用いると有ります。それが式⑩となります。
計算例 Examples
✓ レイノルズ数 vs ヌッセルト数 Reynolds Number vs Nusselt Number
んじゃま、早速計算してみます。まずは、レイノルズ数を変えた場合 ヌッセルト数の挙動ですが下図のとおりです。計算条件ですが 前述の実験装置を用い、PA66 19.1[mm] の粗粒子を 体積比率 0.05 [ - ] で混入させて撹拌するものとします。青色の実線は粗粒子無し&バッフル無しの場合で、青色の破線は粗粒子無し&バッフル有りの場合となります。バッフル有りの方がヌッセルト数は高いですね。それと縦軸はヌッセルト数単体では無くて プラントル数の -1/3乗を掛け算した値です。
そして粗粒子有りにおける低レイノルズ数領域のヌッセルト数はオレンジ色の実線となります。確かにバッフル無しの場合よりも低くなっているので伝熱は抑制されているのが分かります。一方、粗粒子有りにおける高レイノルズ数領域のヌッセルト数は緑色の実線となります。結果を見ると確かにバッフル有りよりも大きな値となっています。つまり、伝熱促進が達成されている事になりますね。
✓ 回転数 vs 熱伝達係数 Rotation Speed vs HTC
高回転数域は高レイノルズ数領域なので 粗粒子混入による促進効果が期待出来るわけですが、確かに値は大きくなってます。回転数 1,000 [rpm] において バッフル無しでは 8,000 [W/m2 K] くらいでバッフル有りでは 11,000 [W/m2 K] となってますが、粗粒子が有ると 13,000 [W/m2 K] まで増加しています。バッフル無しと比較すると 1.6倍なので 結構 大きくなってますよね。
一方、低回転数域は低レイノルズ数領域なので 粗粒子混入による伝熱抑制が発生します。見ると確かに熱伝達係数は小さくなってます。回転数 50 [rpm] において バッフル有りは 1500 [W/m2 K] で、バッフル無しは 1000 [W/m2 K] となりますが、粗粒子が有ると 900 [W/m2 K] まで低下しています。バッフル無しと比較すると 1割低下って感じでしょうか。そこまで低下する訳では無いんですね、まあ条件にもよるんでしょうけども。
✓ 粗粒子径の影響 Effect of Large Particle Diameter
せっかくなので 粗粒子径の影響についても計算してみました。結果は下図のとおりですが、大きいほど熱伝達係数値は大きくなっています。つまりは、伝熱促進効果が増加すると言う事になりますね。25.4 [mm] の粗粒子だと バッフル無しの約 1.8倍まで増加しますけども、結構 大きくなるんですね~。
✓ 粗粒子 体積比率の影響 Effect of Particle Volume Ratio
✓ 量産スケール撹拌槽への適用 Application to Commercial Scale
槽径 120 [mm] を 1500 [mm] にスケールアップしていますので、槽径比では 12.5倍となり 体積比では 1953 倍となります。液ホールドアップは 2.65 [m3] なので、そこまで大きくは無いですけども。で、ここに粗粒子を混入させますが 粗粒子径もスケールアップする必要が有りますよね。なので、粗粒子径/槽径 比率がほぼ同じになるように粗粒子径を決定しました。そうすると 径は 320 [mm] となりました。まあ、こんなデカい球体を入手可能なのかはアレですけども。んでも、「まあ、やれないことも無いかな~」とは思いましたね。と言うのも、一般的に量産スケールの反応器とか撹拌槽にはマンホール Manhole なる内部アクセス用のデカいノズルを設置します。で、このノズル内径は 500 [mm] くらいですよね。まあ、もっと大きいのも有るんでしょうけど、経験したのは 大体これくらいでした。なので、ここマンホールからエイッと粗粒子を投入する事は可能なのかなと。それと、撹拌回転数ですが 量産スケール撹拌槽で 600 [rpm] では回せませんよね。なので、60 [rpm] としています。で、得られた熱伝達係数値ですが 5000 [W/m2 K] となりましたが、バッフル無しの 2800 [W/m2 K] と比較すると1.8倍くらいにはなってるんで効果は有るのかな~と思います。まあ、実際にやってみるには結構ハードルが高いと思いますけど。
余談ですが、この手のマンホールから反応器内部に入った事も何回と無く有りますけど、当時は胴回りもそれほど太くは無かったのですんなりと入れましたね。当然ですが、恰幅の良い人は入れませんね・・・。
※ 余談ですが、書いていてふと思いましたけど ボーリングの玉ってこれくらいなのかなと思いました。ネットで調べると 直径は 22 [cm] くらいで重さは 最大 7.26 [kg] なんだそうです。ちょい小さいですね。そして、PA66 製の 径 320[mm] の粗粒子重量は 19.6 [kg] となります。まあ、1個の体積が 17.2 [L] くらいは有るので。と、これまたふと思いましたけど 比較的丈夫なナイロンシートを球形に成形して、それに水を満タンにしてやれば お手軽に作製できるのかなと。ブロー成形とかで製作出来そうですけど。それと、粗粒子が硬くある必要は無いのかなと。ボヨンボヨンでも良いように思いますね。そして 要らなくなったら取り出して 水を抜いて潰しておけば良いですし、使用中に破れて破損しても中身の水が出てくるだけなんで安心かなと。つか、そうだったら ビーチボールで良いのかなと。調べてみると ビーチバレーボールの外径は 27[cm] なんでこれに水を詰めて放り込めば 良いですね。
まとめ Wrap-Up
- コンタミネーション Contamination
参考文献中でも触れていますけども、回転するインペラ先端速度 Tip Speed はそれなりに大きいと思います。で、一般的に インペラ材質ってのは金属ですよね、ステンレスとか。一方、粗粒子材質は PA66 とか ABS とかの合成樹脂なので 柔らかいですよね。そうなると、インペラ先端に粗粒子が接触した際に表面が削れてしまって、微粉が発生する事が懸念されます。製品液中にこんな合成樹脂の微粉がコンタミネーションするのは 許容出来ませんよね、普通。下流にフィルターを設置するって手も有りますけど、基本はコンタミフリーにすべきなのかなと。まあ、インペラ外側にケージのような内装物を設置して、液は通過するけども粗粒子は通過しないようにするってのも有りますけども。それと、液が水であれば良いですけど、有機溶媒であれば 合成樹脂製の粗粒子であれば溶解する可能性も有るかなと。 - 撹拌動力 Agitation Power
参考文献では撹拌動力については測定していませんでした。普通に考えると 撹拌動力は増加するのかな~と思いますけど。固液系の撹拌動力推算式ってのも有りますし、粗粒子の体積比率がそれほど大きくなければ 平均密度を使ってエイッと推算する事も出来るのかなと思いますけど。そして、前述のようにインペラと粗粒子が接触・衝突した際の変動荷重がハードウェアに与えるダメージってのがやはり気になりますね。ベアリングとかシール部がダメージを受けるのであれば、実施するのは難しいかなと思います。対策としては、液中にフットベアリング Foot Bearing を設置して撹拌軸 横方向へのブレを小さくするとかでしょうか。
そして、液中に粗粒子を混入させた場合の 混合性能も気になりますね。伝熱促進は槽壁近傍の話なんですが、混合は系内全体にわたる循環作用と局所的なせん断作用が複雑に絡み合って進行するんだと思いますけど、そこに粗粒子がどのように関与するのか・・・。AI に聞いてみたらだいぶ否定的な内容でしたけども。投入した動力が固体粒子の運動に消費されるので云々って事でしたけども。
参考文献・書籍 References
- 「乱流撹拌における槽壁熱伝達におよぼす粗粒子混入の影響」
丸井 征敏、門吐 秀樹
化学工学論文集 第47巻, 第4号, pp91-95, 2021 - 「大粒子添加による固液撹拌槽の槽壁熱伝達の促進」
藤堂 里美、門吐 秀樹
化学工学論文集 第49巻, 第5号, pp119-122, 2023








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