化工計算ツール No.144 電気集塵  Electrostatic Precipitation

 今回は電気集塵 Electrostatic Precipitation について取り上げます。このブログでも集塵 Dust Collection については何回か取り上げています。サイクロン、スクラバーやバグフィルターは集塵装置としては一般的ですね。1ミクロンを超えるような粒子はサイクロンが妥当な選択でしょうか。また、サブミクロンの微小粒子までしっかり捕集したいのであれば、バグフィルターが選択されるんでしょうか。また、ダーティーなガスを処理したいのであればベンチュリスクラバーや湿式洗浄塔になりますね。

No.21 サイクロンの設計
No.43 ベンチュリスクラバー
No.59 湿式洗浄塔
No.85 バグフィルターの集塵性能

なんですが、集塵関連の書籍を見ると「電気集塵機」ってのも載ってます。まあ、設計するのにはだいぶ敷居が高いと思いますけど、プラントでも見掛ける事が有りますね。サイズもいろいろと有りますけど、ものすご~く大きいのを見た事は有りますね。

さすがに電気集塵機の仕様検討とかはやった事は無いですね~。なんですが、技術検討的な事はした事が有ります。モノが大きいだけに内部の流れ状態がどのようになっているかを CFD, Computational Fluid Dynamics  で解析したんですね。それなりの大きさの電気集塵機でしたが、入口部には多孔板が設置してあってうまい具合に気流が分散されて電極間の流路に流れ込んで行くんですね。まあ、きちんと電気集塵機メーカーが設計したものなんで当たり前と言えば当たり前ですけど。と、そんな感じでいくつか計算してみようかなと。



電気集塵とは? What is electrostatic precipitation?


✓ 電気集塵の原理と構造   Principles and Structure of Electrostatic precipitations


電気集塵の原理は下図 上段のとおりです。要はガス中の粉塵粒子がマイナス(-) に荷電され、クーロン力によってプラス( + )に荷電されている集塵極へ移動して捕集されるんですね。参考文献には以下のように説明してあります。

  • 放電極へ高電圧を印加し集塵極との間に電位差が生じると共にコロナ放電が起こる
  • 放電極からイオンが放出され ガス中の粉塵粒子は放電極と同じ極に荷電される
  • 荷電粒子は電位差によって集塵極に移動し、集塵極に付着することで分離される
  • 荷電粒子は集塵極に捕集されると電荷を放出する
  • 捕集された粒子は槌打によって集塵極から払い落とされホッパに堆積する

で、実際の電気集塵機はどんな構造になっているかと言うと 下図 下段のとおりです。流入した含塵ガスは集塵極の間の流路を出口に向かって流れます。集塵極間の真ん中には放電極が設置されています。放電極の形状にはいろいろと有るようですけど、尖っている形状の方が放電しやすいんだそうです。一方、集塵極はデカい平板になっていて その表面に粉塵粒子が堆積するようになっています。で、電気集塵の特徴は以下のように整理されています。

  • 粒子径によらず集塵率が高い  99.9 [%] 以上
  • 圧力損失は 100 ~ 200 [Pa] と小さい
  • 高圧電源の所要電力は小さく、運転・保守に関する経費が安価
  • 建設費は他の集塵装置よりは高い

そんなこんなで、処理量が 1000 ~ 2000 [m3/min] を超えるような大容量集塵装置としては非常に適しているって事のようです。 で、電気集塵機における最適捕集風速は 1~3 [m/s] なのでデカくなるのも納得ですね。 




✓ 粒子の電気抵抗率の影響  Influence of Particle Electrical Resistivity


と、前述のとおり粒子が荷電される事によって捕集される訳なんですが、となると粒子の電気抵抗率が強く影響する事になります。この辺りについては参考文献に記載されていますが、下図のとおりですね。この図を見ると電気集塵するのに最適な見かけ電気抵抗率が存在するのが分かります。抵抗率が小さいと再飛散 Re-entrainment が発生します。抵抗率が小さいと言う事は電気が流れやすいので集塵極に到達するとすぐに電気的に中和され、集塵極と同じ極性に荷電されます。すると、粒子は気流中に飛び出してしまいますが、放電極に近づくと再び荷電されて 集塵極に捕集されます。つまり、捕集と放出を何回も繰り返しますが、これは集塵性能の低下を意味します。んじゃ、低効率が大きい方が良いかと言えばそうでは無いんですね。抵抗率が高いと言う事は電気を通しにくいと言う事なので、集塵極に堆積した粒子から電荷が放出されにくいんですね。なので、堆積した粒子層にイオンが蓄積します。その結果、粒子層内での電位が急激に降下し 放電極と集塵極との間の電位差が低下します。やはり、この場合も集塵性能が低下します。この現象が更に顕著になると火花が頻発したり Arc discharge 、逆電離 Back discharge などが発生し集塵性能が著しく低下するとの事です。



✓ 粒子径の影響  Influence of Particle Diameter


粒子の電気的特性も影響しますが、粒子の大きさそのものも集塵性能に影響します。参考文献には次のように記載されています。それによると、1 [μm] 以上の比較的デカい粒子ではイオンが粒子に衝突する事によって荷電されるとの事です Collision Charge 。なので、電界が強いほど荷電量が大きくなります。一方、1 [μm] 以下の比較的小さい粒子では ブラウン運動の影響が大きくなり、イオンの熱運動に起因する拡散荷電 Diffusion Charge の影響が大きくなるんだとか。そうなると粒子径には影響されますが、電界の大きさには影響されなくなるんですね。となるとどうなるかと言うと、電気集塵の部分集塵効率において 0.1 ~ 1 [μm] に極小値を持つ事になります。まあ、極小値を持つと言っても集塵効率の値自体は相当に高いです。で、微小粒子においては更に集塵効率が高いと言う事になるので、微小粒子の除去にすごく有効な方法となるんですね。拡散荷電の効果大と言う事でしょうか。と、その辺りが下図となります。縦軸 左側は透過率で右側が部分集塵効率となります。で、この部分集塵効率ですが 上が0.9 で下が 0.9999 となっているので下に行くほどより集塵される事になります。見てみると 粒子径 0.6 [μm] にピークが有りますが、部分集塵効率は 0.99 を切ってますね。で、より大きな粒子ではガッツりと除去出来てます。一方、小さい粒子でも 0.99 くらいは維持されていますね。 




✓ 処理ガス条件の影響   Influence of Gas Conditions


んで、集塵性能には処理ガスの条件である温度・湿度も影響するとの事です。条件によって見かけの電気抵抗率が変化します。ところで、粒子における電気の流れ方ですが、粒子内部を流れる体積伝導 Volume Conduction と表面を流れる表面伝導 Surface Conduction とが有ります。そして、温度や湿度によっては粒子表面の水分量が増えたり減ったりするので、表面伝導の寄与分も変化します。結果として粒子の見かけ電気抵抗率が変化するんですね。なので、ガス条件によって集塵性能も影響を受けてしまう事になります、と参考文献には記載されていますね。


集塵性能 計算式 Dust Collection Performance Calculation Equations 


参考文献には、電気集塵における粒子の移動速度計算式や それに基づいて得られる粒子の集塵率についての計算式などが記載されています。式①はクーロン力、式②は粒子に作用する抵抗力であり、定常状態においては両者は等しくなりますので式③が得られます。これが電気集塵空間における粒子の移動速度となります。Cm はカニンガムの補正係数であり、粒子がガスから受ける抵抗力を補正する為の係数となります。何故こんなの補正係数が必要になるかと言うと、粒子がすご~く小さくなるとガスの平均自由行程に近づきます。すると、粒子に対してガスを連続体として取り扱う事は出来なくなるんですね。つまり、粘性と言うか粘度の大きさが変化します。その辺りを補正してるんですね。で、当然ですが粒子の移動速度は大きい方が好都合ですね。その分、集塵装置をコンパクトにする事が可能になります。

カニンガムの補正係数は式④で計算されますし、ガスの平均自由行程は式⑤で計算出来ます。そして、式⑥ですが 集塵極が平板の場合の集塵率 η の計算式となります。並行平板間を含塵ガスが流下する間に粒子はクーロン力による移動速度によって集塵極へと移動します。で、移動した粒子は集塵極に到達すると捕集され ガスから除去される事となります。



 

計算例  Examples


✓ 粒子荷電数、カニンガムの補正係数 Particle charge number , Cunningham's Correction Factor


まずは粒子が帯びる事が出来る荷電数とかカニンガムの補正係数が粒子径によってどのように影響を受けるのかを明らかにしておきます。まあ、値自体は 参考書籍に記載されているのでグラフにしてみると下図のとおりとなります。上段グラフは 粒子径と荷電数 n との関係ですが、こんな感じです。中段グラフですが、移動速度 we の計算式中には n/dp が含まれています。で、粒子径が 1 [μm] であれば両対数グラフ上で直線となりますが、それ以下であれば ほぼ一定値となる事が分かります。そして、カニンガムの補正係数を見てみると 粒子径 1 [μm] 以下では その値は大きくなります。結局、粒子径が小さい領域で大きな移動速度が実現出来るって事になります。これこそが、電気集塵の最大の利点となりますね。



✓ 粒子 移動速度  Particle Moving Speed


次に電気集塵機内における粒子の移動速度がどれくらいなのか? について計算してみます。比較の為に、遠心分離と重力沈降による粒子移動速度についても計算しています。参考書籍中の計算条件はグラフ中の数値のとおりです。結果を見ると、電気集塵は微小粒子径において圧倒的に移動速度が大きいですね。つまり、集塵性能が格段に優れているとなります。それと、電気集塵の移動速度は前述の式③で計算しました。その際に必要となる 荷電数 n とカニンガムの補正係数についても前述のグラフにおける値を使用しています。カニンガムの補正係数は式④と⑤で計算出来ますが、荷電数 n は計算式が有りませんね・・・。調べてみると推算式的なものは有るようですけど。まあ、両対数グラフにすると直線状なので任意の粒子径における荷電数を決める事は出来ますけども。



✓ 集塵率   Dust Collection Factor


で、最後に電気集塵における集塵率を計算してみます。せっかくなので前述の粒子移動速度の結果を使ってみます。それ以外に必要な条件ですが、集塵極の有効長さ、ガス流速、集塵極間距離となりますが、下記のとおりとしました。滞留時間は 5秒となりますね。

  • 集塵極 有効長さ 500 [cm]
  • ガス流速    100 [cm/s]
  • 集塵極間距離  20 [cm]

で、計算してみるとデカい粒子は全部捕集されますね。0.1 [μm]の微小粒子も 9割ほどは捕集されます。なんですが、1 [μm] 付近の集塵率はよろしく無いですね。まあ、これは前述の移動速度の結果からも予測されますね。移動速度が遅いと集塵極に到達する前に集塵機から排出されるんですね。



んじゃ、粒子径 1 [μm] の粒子については捕集出来ないのか? となりますが、それは無いですね。集塵極間隔を狭めるとか集塵極を長くすると言った対策が考えられます。若しくは、電圧を上げるとか。下図は集塵極の有効長さを変化させた場合の集塵率を計算した結果です。当然ですが短いとすぐに集塵機外に排出されるので集塵率はすごく小さいです。なんですが、集塵極を長くしていくと集塵率は上昇していきます。1000 [cm] だと 集塵率は 0.9 [ - ] となります。それ以降は少しは改善はされますが、その度合は小さくなりますね。んでも、1000 [cm]だと 10 メートルなのでだいぶ長いのかなと思います・・・。




せっかくなので 集塵極 有効長さ 10メートルで電気集塵機の絵を描いてみると下図のような感じです。門外漢なのでだいぶアレなんですけど、まあこれぐらいのデカさにはなるのかな~と思います。因みに集塵機断面積は 57 [m2] となるので、平均流速 1 [m/s] とするとガス流量は 3420 [m3/min] となります。ん~、デカいです。





まとめ  Wrap-Up


今回は電気集塵について取り上げました。ん~、まずもってやった事が無いので 正直 こんな感じなんかな~と。デカいってのは分かりますね、それなりに。んでも、ケミカルエンジニアリングにしては珍しく電気的な話が出てくるので面白くは有りますが、良く分からない部分も有りますね。荷電云々とか言われてもなかなか・・・。

で、バグフィルターもそれなりにデカいですが 電気集塵機もデカいです、やはり。ボイラーの排ガス処理用の電気集塵機を見たことが有りますが、どか~んと存在感が有りますね。それなりにデカい反応器を設計した事が有りますけど、それでも せいぜい 60 [m3] くらいでした。上記の電気集塵機だと内容積は 684 [m3] となりますね。と、そんな事を考えていると ボイラーとかクーリングタワーとかバグフィルターとか電気集塵機とかのユーティリティーとか後処理 絡みの機器はデカいのが多いな~と思いますね。ボイラーとかだと高い煙突が突っ立ってたりしますしね。





※ 今回も Google Gemini で電気集塵機の画像を作成して貰いました。まあ、それっぽくは有りますね。


参考書籍・文献  References


  1. 「粉体技術ポケットブック」 工業調査会 1996年刊
  2. 「電気集塵技術の最新動向」
       エアロゾル研究 第35巻 第2号 2020年
  3. 「はじめての集じん技術」 日刊工業新聞社 2013年刊
  4. 「改訂4版 化学工学便覧 16. 集塵」 丸善 1978年刊











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