今回は流動層における伝熱について取り上げます。流動層 Fluidized Bed に関する投稿は このブログでも取り上げています。実務でも流動層乾燥機について技術検討を実施した事も有りますね、一応。例えば、粉体の流動化開始速度はどれくらいなのか? とか、熱・物質収支の計算とか様々やりましたね。
No.48 ポリマー乾燥 Polymer Drying
No.29 乾燥器の物質・熱収支
で、この流動層ですが 乾燥機として使われる場合には、製品である湿潤粉体に熱風を送って流動化させると同時に乾燥を進行させます。 また、反応器として使われる場合、例えば 触媒粒子を空気によって流動化させ、そこに原料ガスを装入します。典型的なものは アクリロニトリル Acrylonitrile の製法である ソハイオ法 SOHIO Process でしょうか。この SOHIO ですが Standard Oil of Ohio に由来するそうです。スタンダードオイル オハイオ製油所って感じでしょうか。そして、この製油所ですが あの石油王 ロックフェラー John Davison Rockefeller によって 1870年に設立されたんですね。
この流動層ですが 乾燥用途であれば水分の蒸発に必要とされる熱量を加える必要が有ります。また、反応器として使う場合には発生する反応熱を除去する必要が有ります。と言う事で、流動層においても伝熱が同時に進行している訳で、熱移動速度はどれくらいなのか? ってのを把握しておく必要が有りますね。そうじゃないと量産スケールの流動層を設計 出来ませんし。と、そんな感じで流動層における伝熱について少し計算してみようかなと。
流動層 乾燥機とは? What is a fluidized bed dryer?
✓ 流動層乾燥機 Fluidized Bed Dryer
以前 流動層について取り上げた時は 流動化開始速度に注目してたんで、流動化の様相については触れましたけど 装置自体については説明してませんでした。流動層乾燥機についてですが、一般的には 下図のような感じでしょうか。
製品となる湿潤粉体は入口からドサッドサッと投入される、と言うか落ちて来ます。流動層乾燥機の前段には別の乾燥機がある場合も多いかなと思います。ビショビショの原料の含水率をある程度 下げておく為です。で、量産スケールの乾燥機であれば 多室タイプとなっている場合が多いかなと。そうじゃないとショートパスが発生してターゲットの含水率をクリア出来ないとかトラブルの原因となります、多分。何室にするかとか仕切板の高さはどれくらいにするか?とか、下部のクリアランスはどれくらいにするか? とかは乾燥機メーカーさんのノウハウなのかなと。
で、熱風が乾燥機下部から供給されており、内部に設置されている 多孔板を通過して噴出し粉体層を流動化させます。湿潤粉体と熱風が接触すると 水分の蒸発が進行します。そして、乾燥が進行して含水率が低下した粉体は出口からドサッドサッと落ちてきて製品となります。そして、乾燥機内に伝熱板とか伝熱管を設置して温水を循環させ、そこから熱量を加える場合も有ります。
入った熱風は乾燥機上部から出ていきますけど微粉が同伴していると厄介ですね、ブロワが壊れます・・・。なので、乾燥機の上部にはサイクロンが設置してあって、比較的大きな微粉を分離し、更に下流のスクラバーで微粉を分離します。
✓ 長所と短所 Advantages and Disadvantages
せっかくなので参考書籍に記載されている 流動層の長所と短所に触れておきます。
まずは長所ですが以下のとおりです。
- 粒子を流体のように取り扱える
固体である粉体は液体とか気体とは違って、こっちからそっちに動かすのも大変ですよね。なんですが、流動層内では粉体は流動化していて まるで液体のように振る舞います。これは実際に見たので実感としてそう思いますね~。 - 流動層では装置全体をほぼ均一で一定の温度に維持できる
激しく流動化しているので有効熱伝導率が非常に大きくなります。結果、非常に大きな発熱反応であっても安定して運転出来る事になります。前述のソハイオ法が当てはまりますね。 - 粒子-流体間の熱・物質移動速度が大きい
流動化出来るような粒子径の粉体を使うので、固定層と比べると粒子径は小さいですね。となると、比表面積が大きくなるので 固-気反応において非常に有利となります。 - 壁面・内挿管表面における伝熱効率が高い
やっぱり流動化していて粉体が激しく動き回っているので壁表面における熱伝達係数が大きくなります。と言う事は、熱負荷に対して 必要伝熱面積が少なくて済むと言う事にになります。 - 大規模な装置も可能
前述の図を見ても分かるように、装置内には特に可動部とかは無いですよね。でっかい箱の底に多孔板が有り、その上に仕切り板が何枚か有り、かつ伝熱管が設置されているだけです。もちろん、やみくもに大きくすることは出来ませんよね。粉体層高さが 数メートルもあるような流動層とかであれば、熱風ブロワがすご~く大きくなって初期費用も電気代もかさむように思います。
一方、短所は以下のとおりです。
- 気泡発生の影響
粉体層が均一に流動化していれば良いですけども、気泡が発生している場合も有ります。そんな状態で固気触媒反応を実施すると、ガスがショートパスする格好となり反応の選択率が悪化するような場合もあるそうです。 - 完全混合状態に近い
激しく流動化していると粉体層は完全混合状態に近くなるので、エイッと投入された粉体がすぐに出ていく可能性も有りますね。となると、製品の乾燥むらが発生したりします。まあ、なので多室化するんですね。 - 脆い粒子には不適
強度が低い粒子だと流動化によって粉砕され微粉が発生します。そんな微粉が損失とならないようにサイクロンを設置するんですね。ですが、あまりにも脆いのは問題ですよね。 - 粒子による摩耗
まあ、粒子性状にもよるんだと思いますけど 粉体が激しく壁面とか内挿管に衝突するので 場合によっては摩耗とかも有るのかなと。摩耗とまでは無くても、壁面とかに微粉が付着堆積するのは有ると思いますね。なので、定期的にウォータージェットで洗浄するとかも場合によっては有るのかなと。
まあ 当たり前なんですが、それなりのガス空塔速度で流動化するような粉体性状で、摩耗性や付着性も小さい 比較的に扱いやすい粉体に適しているって事なんでしょうか。勿論、ビショビショに濡れている粉体は事前に 脱水とか予備乾燥とかをする必要は有りますね。
流動層における伝熱 Heat Transfer in Fluidized Bed
そして、流動層における伝熱なんですが 対象物によっていくつかに分類されます。
- 粒子 - 流体間の熱伝達係数
- 壁面・内挿管 からの熱伝達係数
- 流動層内の有効熱伝導率
✓ 粒子 - 流体間の熱伝達係数 Particle-Fluid Heat Transfer Coefficient
まずは 粉体粒子と空気など流体との間の熱伝達係数についてみてみます。粒子径基準のレイノルズ数の値によって 用いる式が異なります。
粒子レイノルズ数に対してヌッセルト数をプロットしてみると下図のようになります。Re数が小さい領域では式①を適用し、大きい領域では式②を使います。で、30 [℃] の空気と粒子径 300 [μm] の粒子との組み合わせで熱伝達係数を計算すると下図下段グラフのようになります。流体は空気なので気体なんですけど、熱伝達係数は結構大きいです。これは粒子径が小さい為ですね。このブログで 「頭髪の乾燥」について取り上げた際に、毛髪表面における熱伝達係数を計算していますが 数値的には同じくらいですが これも毛髪が細い為です。
✓ 流動層における最大熱伝達係数 Max. Heat Transfer Coefficient in Fluidized Bed
まず、式⑥ですが 流動層内の壁面・内挿管における熱移動速度 q を表わしています。で、流動層の熱伝達は良好では有りますけども、例えば伝熱管内側がスチームの凝縮熱伝達であれば その熱伝達係数は相当大きいですよね。管壁の熱抵抗はそもそも小さいですし、となると主な熱抵抗は 流動層側に有ると考えられます。と言う事で、流動層における伝熱においては、流動層側の熱伝達係数に注目すれば良い事になります。
そして、この熱伝達係数ですが 最大値を持つとされています。と言うのも、粉体層が流動化していない 固定層の状態では 熱伝達係数は小さいですが、そこからガス流速を上げていくと 流動化が始まり と同時に熱伝達係数は急激に増加するんですね。そして、更にガス流速を上げていくと 熱伝達係数は最大値をとり、そこからは徐々に低下します。であれば、この最大熱伝達係数が発現している状態と言うか条件で運転するのが好ましいですよね。そして、その時のガス流速は 式⑦で求められます。右辺に含まれる Ar はアルキメデス数と呼ばれる無次元数で式⑪で計算されます。で、その時の熱伝達係数がどれくらいの値になるのかは 式⑧・⑨・⑩ によって計算されます。
で、計算してみると下図のようになります。30[℃] の空気と密度 2400 [kg/m3] の粒子の組み合わせで、粒子径を変えています。上段グラフは 粒子径に対して 最大熱伝達係数を与える時のガス流速をプロットしたものです。粒子が大きくなると ガス流速も増加しています。そして、その時の熱伝達係数は下段グラフとなります。粒子径によって適用する計算式が異なります。更に、粒子径を変えていくと 最大熱伝達係数も最小値を持つと言うのが分かります、面倒くさいですけども。粒子が大きくなってくると 熱伝達係数は小さくなっていきます。そして、下図のように 粒子径 3[mm] で最小値となり、その後は上昇していきます。その理由ですが 粒子間の状況 例えば 衝突とか乱れとかが影響しているのかも知れません、良く分かりませんけど。
✓ 流動層 壁面における熱伝達係数 HTC at Wall Surface of Fluidized Bed
最大熱伝達係数については 前述のとおり計算出来ますが、いつもその状態で運転出来る訳でも無いですよね。なので、例えば ガス流速 (空塔速度) を変えた場合に熱伝達係数がどの程度になるかを知りたいですね。
参考書籍には 以下の2つの計算式が記載されていました。どっちも定数値を含むんですが、グラフから読み取る必要が有ります。少しと言うかだいぶ面倒くさいです。
で、計算してみると以下のとおりです。ガス流速が遅いと式⑫と⑬はほぼ同じ値となりますが、そこから流速を上げるとズレてきます。まあ、オーダー的には同じ様なものですけど。
✓ 内挿管における熱伝達係数 Heat Transfer Coefficient at Inserted Tubes
最後に流動層中に設置された内挿管表面における 熱伝達係数についてですが、参考書籍によれば以下の2式で計算出来るとの事です。式⑭における定数値ですが 流動層半径方向における内挿管の位置によって変化します。これまたグラフから読み取る必要があるので面倒くさいです・・・。
で、計算した結果は以下のとおりです。条件は前述のものと同じです。一応、垂直管群と水平管群について計算したんですが、水平管群についてはだいぶ大きく出てしまいました・・・。理由は不明です、単なる計算違いかも知れませんけど。そのうち、別の参考書籍を当たってみて修正しようかなと。まあ、考えてみると垂直でも水平でもそんなに変わりは無い筈ですよね。流動層内はすごく活発に粒子が運動しているので、伝熱面の姿勢はほとんど関係無いと思います。
まとめ Wrap-Up
今回は流動層における伝熱について取り上げてみましたが、壁面とか内挿管における熱伝達係数について計算してみました。固体 - 気体系の伝熱ですが、流体側が気体なので 本来であればそんなに熱伝達係数は大きくはなりませんね。ですが、計算結果を見ても分かるように 結構 大きな値となっています。気体の管内強制対流や物体周りの強制対流伝熱であれば、10 とか 頑張っても 100 [W/m2 K] だとは思います。ですが、流動層伝熱では それよりは大きくて 300 くらいも十分に達成出来そうです。
まあ、こんな感じで伝熱性能が優れているので乾燥機として使われたり、前述の ソハイオ法における反応器として使われているのかなと。そして、韓国企業に勤務していた際には流動層に関する技術検討なんかもしていましたね。その際、ベンダーさん(日本企業) との技術打ち合わせとかも何回かしましたが、自分自身良く分からない分野だったのでいろいろと質問したんですね。その質問の一つが、「化工便覧に載っているような流動層に関する推算式で熱伝達係数は推算出来るか?」だったんですが、回答は 「出来ません・・・」でした。まあ、粉体の性状も千差万別ですし、乾燥の条件とかも異なりますし 汎用的な推算式でチャチャッと計算出来るような感じでは無いんだと思います。
なので、ベンチスケールのバッチ実験や連続実験を何回もやって、実際の熱伝達係数を採取するのが基本なんですね。まあ、条件が違いますけど そんな感じで採取された内挿管の熱伝達係数の値ってのも知ってますけど 前述の計算例の値よりはだ~いぶ小さいんですよね。まあ、やはり難しいな~と思いつつも、計算結果をグラフにしていました。
まあ、こんな感じで伝熱性能が優れているので乾燥機として使われたり、前述の ソハイオ法における反応器として使われているのかなと。そして、韓国企業に勤務していた際には流動層に関する技術検討なんかもしていましたね。その際、ベンダーさん(日本企業) との技術打ち合わせとかも何回かしましたが、自分自身良く分からない分野だったのでいろいろと質問したんですね。その質問の一つが、「化工便覧に載っているような流動層に関する推算式で熱伝達係数は推算出来るか?」だったんですが、回答は 「出来ません・・・」でした。まあ、粉体の性状も千差万別ですし、乾燥の条件とかも異なりますし 汎用的な推算式でチャチャッと計算出来るような感じでは無いんだと思います。
なので、ベンチスケールのバッチ実験や連続実験を何回もやって、実際の熱伝達係数を採取するのが基本なんですね。まあ、条件が違いますけど そんな感じで採取された内挿管の熱伝達係数の値ってのも知ってますけど 前述の計算例の値よりはだ~いぶ小さいんですよね。まあ、やはり難しいな~と思いつつも、計算結果をグラフにしていました。
参考書籍・文献 References
- 「化学工学便覧 改訂6版」 丸善 1999年刊
- 「伝熱工学資料 改訂4版」 丸善 1986年刊
- 「化学工学の進歩 流動層」 槇書店 1992年刊









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