今回は身のまわりの化学工学シリーズとして、「蒸し調理」Steaming について取り上げてみます。これまでも「煮る」、「焼く」、「揚げる」や「炒める」と言った調理法について取り上げました。どの調理法においても化学工学的と言うか伝熱工学の視点から、その調理過程を解析したり 予測出来るんですね。
で、蒸し調理の特徴ですが参考書籍には以下のように記載されています。要は水蒸気加熱の特徴って事になるのかなと。
- 水蒸気の凝縮潜熱が利用出来るので加熱効率が高い
- 煮るのと違って食材は動かず そのままの姿で調理出来る
- 食材の量が多くても全体を均一に加熱出来る
- 食材の周囲は水蒸気なので表面が乾く事は無い
- 加熱温度は100℃なので 焼き調理と違って焦げる心配が無い
- 茹でるのと違って食材の成分が溶け出しにくい
勿論、蒸し調理にあまり向いていない食材ってのも有って、例えば「アク」や「臭み」の強い食材は避けた方が良いようです。茹でるとアク成分が水に溶けだしますけど、蒸しだとそれがあまり無い為ですね。また、蒸し調理だと「肉の脂が落ちてヘルシー」とか言われますけど、そんな事は無くて 焼きの方が脂が落ちるんだそうです。何故かと言うと、蒸しでは 食材の温度は 100℃ どまりですが、焼きだと 140℃ とかになります。そうすると、脂が溶けて液体の油になりますけど 、温度が高いほど粘度が低くなり 流動しやすくなる為だとか。なるほどですね~。
ケミカルプラントにおいてもスチーム加熱ってのは一般的に使われますけど、潜熱を使うので熱伝達が良好です。加えて、圧力さえ一定にしておけば その圧力に対応した飽和温度に自動的に維持されるってのがメリットですね。まあ、ケミカルプラントでは より高圧なスチームを使ったりして 高い温度で加熱するってのも有りますね。
とまあ、そんな訳で蒸し調理の加熱特性とかについて見ていこうかなと。
蒸し調理とスチコン Steaming and Steam Convection Oven
✓ 蒸し器からスチコンへ from steamer to steam convection oven
蒸し調理はず~っと昔から行なわれていましたけど、昭和の頃は「蒸し器」とか「セイロ」を使って蒸し調理をしていたと思います。なんですが、最近は 所謂「スチコン」で蒸し調理するって事も有りますよね。「スチコン」はスチームコンベクションオーブン Steam Convection Oven の略ですが、家庭用から業務用までいろいろな種類があるようです。このスチコンですが 西ドイツのラショナル社が業務用スチコンの販売を開始したのが 1976年との事です。その後、1985年頃から日本の厨房機器メーカーが販売をはじめ、ホテルとか給食センターなどに普及したんだそうです。で、家庭用ですが シャープの「ヘルシオ®」が販売されたのが 2004年との事です。2000年代になってからなんですね~。なんでかと言うと、家庭用 100V 電源で 過熱水蒸気を安定して生成するってのが難しかったようです。業務用スチコンだと電源仕様は 200V ってのが一般的のようですし。
余談ですが、家庭用スチコンの先駆けとなったヘルシオですが、シャープのサイトを見てみると Wi-Fi でネットに繋がったり、AI を搭載していたりします。なので、スチコンと会話をして晩ごはんの献立を決めたりとか出来るようです。まあ、今はこれが普通なんでしょうね。
まあ、だからと言って蒸し器が無くなったって事は無くて普通に売ってますね、家庭用も業務用も。例えば、電気式の業務用蒸し器だとミニ中華セイロ (径150mm) が27個 も載っけられます。小籠包とか焼売もガンガン作れますね。因みに、電源仕様は 3相200V で消費電力は 4.5kW となります。家庭用だと 径 26cm のものが Amazon で 3,000円くらいで売ってますね。下鍋は普通の両手鍋で「おでん」とかが作れます。上鍋の底には蒸気が通過する為の孔が開いていて、ここに蒸したいものを置きますね。ガスコンロでも使えますし、IH でも使えるってのが令和仕様なのかなと。まあ、たま~に蒸し調理するのであれば こんなので良いのかなと思います。家庭用スチコンは この値段では買えないので・・・。
✓ スチコンの構造 Structure of Steam Convection Oven
参考文献もスチコンについて取り扱ったものが多々有りますんで、この投稿でも取り上げるのはスチコンとします。で、スチコンの構造ですが まずは 食材を静置するオーブン庫が有りますし、庫内のスチームとか空気をかき混ぜるファンが有ります。そして、空気を加熱するヒーターとスチームを発生するボイラーが有って、前者からは高温熱風、後者からはスチームが供給されます。で、概略図は以下のとおりです。まあ、実物はもっと複雑なんですけども。
まあ、メーカーさんや機種によっても違うんでしょうけども、庫内温度は 30 ~ 300 ℃ 、湿度は 0 ~ 100 % まで設定可能なようです。そして、調理モードですが 空気の強制対流加熱による「ホットエアモード」、スチームによる「スチームモード」、そして 空気とスチームを混ぜて高温 高湿度加熱する 「コンビモード」 が有るのが一般的なようです。この辺りをうまく調節する事によって、焼く・蒸す・茹でる・炊くなどに対応出来るんだそうです。確かに、ホットエアモードであれば 「焼く」に近づくんでしょうし、スチームモードとすれば「 蒸す」になるんだろうな~と思いますね。
蒸し調理の加熱特性 Heating Characteristic of Steaming
「スチームコンベクションオーブンの加熱特性」
✓ 実験方法 Experimental Methods
実験では業務用スチコンであるフジマック社のガス式スチームコンベクションオーブン FSCC6G を使用しています(現在は製造していないとの事)。オーブン庫内寸は 間口847mm × 奥行771mm × 高さ757mm なんで、そこそこ大きんでしょうか。ここにホテルパン 1/1 サイズ が6段入るとの事です。ホテルパン 1/1 サイズは 530 mm × 325 mm なので、これが 6段となると 面積で 1.03 m2 となります。ピンと来ないので AI に聞いてみました。曰く、普通サイズの「鮭の切り身」を余裕を持って置いた場合は 130枚くらいは置けるとの回答でした。まあ普通は 1人に切り身 1枚 なので 130人分となりますけど、これが一気に出来上がるのであれば タイパは良いのかなと思いますね。これまた AI 情報ですけど、この機種は 本家本元の ドイツ ラショナル社の OEM製品なんだそうです。
- 熱伝達係数 及び 放射伝熱の割合
それなりに高温になるので放射伝熱の寄与は無視出来ませんね。なので、渋川先生が開発された 黒色と白色の金属ブロックを用いた手法を この実験においても適用しています(下図参照)。庫内温度は 100、150、200℃ で、蒸気量は 0、50、100% との事です。 - 蒸気量と温度
庫内の蒸気量割合は酸素濃度を実測する事によって決定しています。蒸気以外は空気な訳で、その空気割合は酸素濃度から決定されるって事ですね。一方、庫内温度は普通に熱電対を設置して測定しています。実務でも、ヒトが立ち入れるくらいの大きな炉のような装置で似たような事はやった事ありますね。炉内に熱電対を設置し 壁面の貫通部から補償導線を引っ張り出して 打点記録計に接続して データを取ってましたね。で、記録紙から温度値を読み取ってました。さすがにデータ整理は EXCEL でやってましたけど。まあ、今は何か適当なロガーを使って SD カードとかにデータを記録して、PC に CSVファイルで取り込んでって感じなんでしょうけども。 - 食品の内部温度・水分量
実際の食品として 「ジャガイモ」を円筒形に切り出して スチコンで加熱しています。庫内温度は 100、130、150、200、250℃ ですが、これは「茹で」から「焼き」までを想定したって事らしいです。そして、蒸気量は 0、50、100% の3水準となります。実測しているのは 食品の内部温度と水分変化量となります。温度測定位置は下図のとおりです。
✓ 実験結果 その1 機器の加熱能 Results 1 : Heating Capacity of the Equipment
さて、実験結果を見ていきますが まずは機器の加熱能となります。参考文献では 20℃の 金属ブロックをエイッとスチコンに入れて、ブロック中心の温度変化を測定しています。材質については記載されていないので不明なんですが、まあ金属なので熱伝導率はそれなりに高いですよね。なので、 全体的に均一に温まっていくのかなと思います。で、結果は下図のとおりです。
オーブン温度は 150 ℃ なので 金属ブロックはその温度に到達しています。で、蒸気量の割合によって 途中の温度上昇が異なっているのが分かります。蒸気量割合 0% であれば、普通の非定常加熱の場合と同じ様に単調に増加しています。一方、蒸気割合 100% であれば 加熱開始直後にグイッと温度が立ち上がっています。そして、100℃に到達後は 0% の場合と同じ様に単調に増加しています。なんでこのような違いが有るのかと言うと、加熱初期において金属ブロック表面に蒸気がバーっと凝縮する事によって放出される潜熱によって加熱されるんですね。んで、表面温度が 100℃ に到達すると もう凝縮は起こらなくなり、対流伝熱のみによって温度が上昇する事になります。こうなると、蒸気量割合は関係無くなります。参考文献では加熱初期の 温度100℃までの部分を 「初期」とし、一方 100℃ 以降の部分については 「安定期」と定義しています。
なんですが、金属ブロック表面温度が 100℃ に到達すると もう凝縮は起こらないので、気体の水蒸気による強制対流伝熱となります。例えば、オーブン温度 150℃ の場合、蒸気割合 100% において初期 熱伝達係数値は 240 W/m2 K ですが、安定期 熱伝達係数値は 66 W/m2K まで低下しています。で、この値は 蒸気割合 0% における 熱伝達係数値 62 W/m2K とほぼ同じですよね。まあ、庫内気体はファンによって撹拌されているんで それなりに気流速度があると思いますんで、この程度の熱伝達係数値にはなるかなと。
そして、オーブン温度が上がると 初期 熱伝達係数値が下がる理由ですが、この場合 蒸気は過熱状態にあります。オーブン内は ほぼ大気圧なので 凝縮温度は 100℃ となり、過熱蒸気との間には温度差が有ります。と言う事は、例えば 200℃ 過熱蒸気であれば 一旦 100℃ まで顕熱移動によって冷却された後で はじめて凝縮が始まる事になります。これが 100℃ の飽和蒸気であれば 低温面に触れた瞬間に凝縮が始まります。この違いなんだろうなと思います。
それと気になったのが 初期 熱伝達係数値です。このブログでも「凝縮熱伝達」については取り上げましたけども、値はもっと大きいんですよね。例えば、温度 20℃ に維持されていて高さが 1cm の凝縮面が有ったとします。ここに 100℃ の水蒸気を触れさせると 当然 凝縮して 流下液膜が形成されます。で、Nusselt の膜状凝縮理論から得られる 理論式を用いて、この時の熱伝達係数値を計算すると 10,000 W/m2 K とかになりますね。参考文献における実験値 620 W/m2K と比較すると 16倍も差が有ります。まあ、少しでも不凝縮性気体 (この場合は空気) が混入していると 熱伝達係数は大幅に減少するってのは良く知られている事なんですが、一応 蒸気割合 100% と書いてありますし、そこはきちんと担保されているのかなと思いますけど。
✓ 実験結果 その2 ジャガイモの温度・水分量 Results 2 : Temp. & Water Content of Potato
まずは ジャガイモ 内部温度上昇速度 ℃/min ですが、表面部と中心部の2箇所で温度推移を測定し その結果から それぞれの温度上昇速度を算出したとの事です。ただし、ジャガイモ温度は 10℃ から 50℃ までとの事です。何でかと言うと、それ以上だとデンプン糊化の影響が出る為だそうです。
まずは上段グラフですが、 側面から 5mm の表面部における温度上昇速度となりますが、オーブン温度が高いほど そして蒸気割合が大きいほど 上昇速度は大きくなっています。温度が高ければ対流伝熱も大きくなりますし、そして蒸気割合が大きければ凝縮伝熱の寄与も大きくなるので、結果としてより早く温まるって事になります。一方、下段グラフは中心部における温度上昇速度ですが ちょいと様相が異なりますね。蒸気割合 0% (全部が空気) であればオーブン温度に比例して上昇速度は単調に増加しています。なんですが、蒸気割合 100% ですと オーブン温度 150℃ で上昇速度はピークとなって、更にオーブン温度を上げても 上昇速度は逆に低下しています。う~ん、不思議です。参考文献によると、オーブン温度が高くなると 対流伝熱も大きくなりますが 同時に表面からの水分蒸発も大きくなります。そうすると、水分の蒸発に伴って 潜熱が奪われます。その蒸発熱を差し引いた熱量が中心部に伝わっていく事になるので、結果として中心部における上昇速度は低下するって事のようです。水分の蒸発を考慮しないと現象をうまく把握できないって事になりますが、なかなか厄介ですね~。
蒸気が含まれていると 凝縮によって 食品の水分量が一旦は増加しますが、表面温度が 100℃ なると凝縮は無くなります。んで、今度は 水分の蒸発(= 乾燥)が始まります。参考文献では それを乾燥開始時間としていますが、この辺りをまとめているのが 下段グラフとなります。オーブン温度が高くなると あっという間に乾燥が始まるようになるんですね。蒸気割合 0% では最初から乾燥するので、乾燥開始時間は ゼロとなります。
とまあこんな感じで スチコンの操作条件を変えることで食品温度や水分量をコントロール出来るって事になるのかなと。まあ、50℃ のジャガイモは ナマなので食べても全然美味しくは無いとは思いますけど。ホントはもっと温度を上げていった場合にどうなるのか? ってのが重要ですよね。それと、実際に食べてみて美味しいのかそうじゃないのかと言うのがもっと重要かなと。この参考文献ではそこまではやってませんけども、他の文献では実際に食べてみて食感についてだとか甘みを感じるかなどを検証していますね。
まとめ Wrap-Up
にしても、蒸し調理もなかなか奥が深いな~と思いますね。特に一旦凝縮してから再び乾燥に切り替わるってのが面白いです。この辺りについては別の参考文献が有って、精緻な実験が実施されています。非常に興味深いです。それと、凝縮伝熱とは言いながら 熱伝達係数がそこまで大きく無いのは何故か? と言うのが気になります。まあ、さすがにNusseltの膜状凝縮理論がそのまま適用出来るとは思いませんけども。茶碗蒸しの器だとスベスベした垂直な陶器表面なので、そこに流下液膜が形成されるのであれば 熱伝達係数を計算出来るのかもしれないですけど。
今回のように ジャガイモとかの食品だと どうなるのか見当も付きませんね・・・。まあ、一旦 ジャガイモ表面に蒸気が凝縮すると その場の温度は急激に増加する訳で、そうすると駆動力である温度差が小さくなるので 熱伝達も小さくなるようには思いますけど。また、空気と蒸気が混在している場合については 明らかに熱伝達係数は低下します。これは空気中を水蒸気がえっちらおっちら拡散して行って冷たい伝熱面に到達する必要がある為です。まあ、こういう状況であれば熱伝達係数が小さくなるのも納得では有りますけど。
そして、冒頭で触れた茶碗蒸しですが ネットで作り方を調べてみると、卵と出汁の黄金比 1:3 を守り、ゆっくりと蒸し上げる事が重要との事です。まあ、黄金比についてはおいといて、ゆっくりと蒸し上げる事によって 「す」が出来ず滑らかな口当たりになるんですよね。この時に加熱温度が 100 ℃ に限定されると言う「蒸し調理」の利点が効いてきますよね。もし直火で加熱して 卵液が100℃ 以上になると水分がボコボコっと沸騰して 気体となります。もう、「す」が出来まくります・・・。加熱温度 100℃ が維持できて、かつ加熱能力も大きいってのが重要なんですね~。んじゃ、お湯でも良いのでは? と思えなくも無いですけど、茶碗蒸しの器をドボンとお湯に入れるとどうなるのかは自明ですよね。
で、茶碗蒸しが出てきたんで韓国のケランチム 계란찜 を取り上げない訳には行きませんね。大抵の食堂では つき出しとして定番であり かつ鉄板です。冬の寒い日なんかは美味いですね。勿論、メインの料理では無いんですけども 卵料理は大抵のヒトは好きですし、見た目にもインパクトが有ります。大抵は トゥッペギ 뚝배기 (1人前用の土鍋) で出てきますが、ボワ~んと盛り上がった状態でお店のヒトが持ってきてくれますね。表面に孔が開いていてプシューっと湯気が上がっていたりします。その熱々のケランチムをスッカラ 수카라 (スプーン)でエイッとすくい上げ、口いっぱいに頬張ると実に美味いです。そして、キンキンに冷えた韓国焼酎をグイーっとやると至福ですね。まあ、直火でガンガン加熱してるんで、「す」は出来まくりですが 、お店によっては すご~く滑らかに作ってある時もあって 「おっ、このお店のケランチムは美味い!」とか思ってましたね。それと、変わり種で チーズ入りケランチムってのも有って これはこれで美味かったです。ピザみたいにチーズがビヨ~んと伸びるんですよね。
参考文献 References
- 「スチームコンベクションオーブンの加熱特性」
山田 晶子、杉山 智美、渋川 祥子
日本家政学会誌 第53巻 第4号 pp. 331 ~ 337 2002年 - 「過熱水蒸気乾燥における凝縮から蒸発への反転過程」
日本機械学会論文集B編 第63巻 第612号 1997年 - 「スチームコンベクションオーブンの加熱特性」
日本調理科学会誌 第52巻 第4号 2019年
web site
- シャープ公式 オーブン・電子レンジ
ウォーターオーブン ヘルシオ 「水のチカラで調理」
https://jp.sharp/range/products/axlsx3d/feature/water-oven/










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