今回は 身のまわりの化学工学シリーズとして 「電子レンジ調理」 Microwave Cooking について取り上げてみます。これまでにも、「煮る」、「焼く」、「炒める」、「揚げる」そして「蒸す」と言った調理法について取り上げています。
「煮る」 No.4 調理における熱伝導と拡散 , No.5 調理における熱伝導と拡散 その2
「焼く」 No.6 調理における熱伝導と拡散 その3 , No.24 放射加熱調理
「揚げる」No.31 揚げ調理
「炒める」No.32 炒め調理
「蒸す」 No.34 蒸し調理
で、これらの調理法ですが 何らかの熱源が有って、その熱を「伝導」、「対流」 そして「放射」と言った伝熱の三形態によって食品に伝える現象になるのかなと。なんですが、それらとは全く異なる調理法と言うか加熱法が有り、それが「電子レンジ調理」即ち 「マイクロ波加熱」となります。
この電子レンジですが 今は 置いてない家庭は無いと言うくらいに普及してますよね。拙宅にも勿論有りますけども、ほぼ毎日使っています。最近 買い替えたんですけども、今どきの電子レンジには ターンテーブルってのが無いんですね。旧機種では ターンテーブルが有って、ちょいとサイズの大きな弁当とかだとカドが引っ掛かって回ってないってのがちょくちょく有りましたね。
とまあ、そんな感じで電子レンジ調理ってのはすご~く身近な調理法なんですけども、食品がどんな感じで温まっていくのかってのは あまり気にした事は無いですね。まあ、最近の弁当とかだと加熱時間が表示されてますし、ちょいとヌルいな~と思ったら追加で加熱しますし。なんですが、電子レンジ調理に関する文献ってのも結構有って 食品の温度上昇を実測してたりするんで、その辺りをご紹介してみようかなと。
※ 今回も Chrome Gemini に画像を作成して貰いました。大盛りのカレーライスを加熱中です。とてもじゃ無いですが、今はこんな量のカレーライスは食べられないです・・・。
電子レンジ調理とは? What is Microwave Cooking ?
✓ マイクロ波加熱 Microwave Heating
参考文献によれば 電子レンジでは マイクロ波帯の電磁波を用い食品を加熱する、とあります。んで、日本では 電波法によって 使用するマイクロ波の周波数は 2450 MHz ± 50 MHz と決められています。これってWi-Fi の 2.4 GHz帯にもろに被ってますけども、 結果として電波干渉を受けやすいんですね。電子レンジを使うとネットのスピードが落ちるとかでしょうか。因みに 拙宅においては 出来るだけ 5 GHz帯 を使うようにしています。なんですが、機器によっては 2.4 GHz 帯でしか使えない機器も有ったりしますね。
で、このマイクロ波ですけども以下に示す 式①で波長が求められます。光速度 30万 km/s と 周波数 2450 MHz から 電子レンジの波長は 12.2 cm となります。マイクロ波って言っても 波長はそれなりに有るのかなと。ですけど、例えば ラジオのFM波だと 波長は 3~4m なので それよりはだいぶ短いです。
そして、マイクロ波によって加熱される原理ですけど、所謂 誘電加熱 Dielectric Heating と呼ばれる現象となります。んで、物体の単位体積当たりの加熱エネルギーは式②で求められます。周波数 f、比誘電率 εr、誘電正接 tanδ 、電界強度 E が含まれています。んで、この誘電加熱ですけども 参考文献には以下のように記載されています。曰く、食品にマイクロ波を照射すると主に水分子が正と負に誘電分極 Dielectric Polarization します。周波数 2450 MHz であれば 毎秒 24億5000万回 電場が変化しますが、 それに伴って水分子も配向を繰り返します。なんですが、この電場の変化に誘電分極が追随出来なくて位相のズレを生じます。この位相のズレは 比誘電率 εr と誘電正接 tanδ との積で表わされますが、このズレによってエネルギー損失が起こり 結果として発熱します。そして、この発熱によって食品が加熱されるって事になります。水分子の場合、比誘電率は 77 で 誘電正接は 0.15 なので 誘電体損失係数 εr × tanδ は 11.5 となり、マイクロ波で加熱されやすいと言うのが分かります。因みに氷は 0.003 で加熱され難い事が分かりますし、ジャガイモは 12.84 なので すごく加熱されやすい事が分かります。
また、電力半減深度 D は 式③で求められますが、 要はマイクロ波が食品へ浸透する深さはどれくらいなのかとなります。勿論、食品により深く浸透する方が 全体的に加熱されるので好都合ですよね。計算してみると 水は 1cm で氷は 7.94m となります。なので、氷だとマイクロ波はどんどん透過してしまうので 全然 加熱できないって事になりますね。ジャガイモだと 7mm なので 大きな塊だと中心部は加熱されにくいって事になるのかなと。
✓ 電子レンジ調理の特徴 Characteristics of Microwave Cooking
参考文献には電子レンジ調理の特徴として以下の点が挙げられています。利点ですが以下のとおりです。やはり、食品だけを素早く加熱出来るってのが他の調理法には無い特徴ですね。
- 目的物以外のものは加熱しないので効率が良い
- 比較的大きな物体でも表面と内部を同時に加熱出来るので加熱時間が短い
- 真空中の物体や包装された物体でも加熱する事が出来る
- 加熱電力の制御が容易である
- 目的物以外は加熱しないので作業環境が良好
- 加熱時間が短いので熱に弱いビタミンなどの損失が少ない
一方で欠点も有りますね。う~ん、比較的高価ってのは最近は無いですね。ネットで調べると 1万円以下でも買えますし。まあ、オーブントースターであれば 5千円とかで買えますけど。また、不均質な物体ってのは 誘電体損失係数が大きく異なる物質が混ざっている物体との事です。
- 装置が比較的高価である
- 温度制御が困難である
- 表面を焦がしたりは出来ない
- 不均質な物体や凸凹のある複雑な形状の物体では加熱むらや突起部の過熱が起こる
- アルミホイルや缶詰などの金属包装材の中に物体を入れると加熱は出来ない
✓ 電子レンジの構造
まあネットにも沢山 有るんですけども一応 触れておこうかなと。拙宅の電子レンジはフラットテーブルですけどもその構造は下図のとおりです。マイクロ波はマグネトロン Magnetron で発生し 導波管 Waveguide を通って電子レンジの庫内に放射されますが、その際に回転アンテナ Rotating Antenna によって庫内に分散されるとの事です。マイクロ波は庫内に置かれた食品に吸収されますが、吸収されなかったマイクロ波は庫内の金属壁で何回も反射するって事らしいです。まあ、何回も反射していれば いずれは食品に吸収されるんだと思いますけども。
拙宅の電子レンジは以前はターンテーブル式だったんですけども、そう言えば加熱ムラとか有ったかな~と思います。前述のとおり、デカい弁当とかを入れると カドが引っ掛かって止まったりしてたんで、まあそうなるんだろうなと。で、フラットテーブル式では そんな事は無くて 弁当とかも全体的に温まっているって感じが有りますね。それを顕著に感じるのが、ちょいと小さめの惣菜とかを温める時でしょうか。例えば 温め時間 50秒であれば その時間を設定しますが、40秒くらいで ボンとかパンとか音がしますね。惣菜に含まれる水分が蒸発して噴出しているんだろうなと思いますけど。ターンテーブル式の時は こんな事は無かったと思いますね。フラットテーブル式だと惣菜の直下からマイクロ波が放射されているので、より強く加熱されるのかな~と。
電子レンジによる加熱例 Examples of Heating using Microwave Oven
✓ 水と油の加熱 Heating of Water and Oil
参考文献では 水 若しくは ナタネ油をビーカーに入れ、それを 650W 電子レンジで所定時間加熱した後 かき混ぜて液温度を測定しています。その結果が下図となりますが、電子レンジ加熱に特有の昇温カーブになっています。見て分かるように液温度が直線的に上昇しています。水 50mL の後半では 温度上昇が曲線になってますけども、液温度が高くなって水が蒸発しているのかなと。その蒸発潜熱によって熱が奪われているんで 温度の上がりが鈍くなっているのかなと。んで、液量が増えると 温度上昇は小さくなってます。まあ、電子レンジ出力が同じで加熱すべき液量が増えるんで そうなるのかなと。
それと、普通に考えると 水と油では 比熱が大きく異なるので、同じ出力で加熱した場合 油の方がより早く温度が上昇すると考えられます。で、下図を見ると液量 500mL では油の方が早く昇温しているので、理屈どおりなのかなと。なんですが、100 mL や 50 mL では 比熱の大きな水の方がより早く昇温しています・・・。この理由についてですが、参考文献では 油の負荷インピーダンスが液量の減少によって極端に小さくなり、電子レンジの特性インピーダンスと不整合を起こし 吸収できるエネルギー量が減少したって事らしいです。水を多く含む食品を基準にして電子レンジは 設計されているそうなんで、油とかで更に極端に量が少ないとうまく加熱出来ないって事になるんですね。
電子レンジ加熱における温度上昇は直線的になってるんで、温度上昇速度 ℃/sec が直線の傾きとして得られます。で、その温度上昇速度を 液量に対してプロットしたのが 下図下段グラフとなります。そして、このグラフ中の直線ですが 電子レンジ出力値を用いて 温度上昇速度を推定した結果です。まず 液量 m3 × 密度 kg/m3 × 比熱 J/kg ℃ = J/℃ となるので、投入エネルギー J/s を J/℃ で割り算すると ℃/s となり温度上昇速度となります。ただし、定格出力 650W がそのまま全部 食品に吸収される訳では無いので、出力に効率を掛け算しています。効率値は 0.6 としていますが、水に関しては まあ それなりに推定出来ているのかなと。一方、油で液量が少ないと 前述のインピーダンス不整合が発生して うまく加熱されないですね。
参考文献には、更に水と油を同時に加熱した場合なども記載されていますが、水はマイクロ波を良く吸収して昇温しますが、一方の油はそうでは無いので 温まった水からの熱移動によって徐々に温まるって事のようです。まあ、食品ってのはザックリと言えば 水分と有機物で出来ているので、それを水と油に置き換えて考えてみるってのは意味が有るんだな~と思います。
✓ 電子レンジによる熱燗 Hot Sake prepared by Microwave Oven
下図は様々な形状の徳利に清酒を入れ 電子レンジで加熱した場合の上下温度差の実測結果です。まあ、結構な温度差が有りますね。なんでこうなるのかってのは、徳利の首部が細くなっている為にマイクロ波が多く通過する為に 局部加熱が起こるって事らしいです。んで、そもそも徳利の首は何故細いのかですが、蒸発面積を小さくしてアルコールの蒸発を抑制するのと、ヒョイッと手で持ちやすいようにってのが理由なんだとか。下図の下段右端が上下温度差が小さくなるように形状を工夫した徳利って事らしいです。まあ、それでも温度差は 9℃ は有るんですよね。
で、ここで更に調べてみると普段使っている徳利を使っても 上下温度差を小さくする方法ってのを見つけました。徳利の上側にアルミホイルで作ったキャップを被せると言う方法です。アルミホイルは金属なのでマイクロ波を遮断しますんで、徳利の首部にはマイクロ波は照射されません。なんで、首部の清酒は加熱されません。一方、キャップが無い下側ではマイクロ波によって清酒が加熱されます。そうすると、徳利の上下で温度差が出来るので 対流が発生して 良い感じに混ざり合うという寸法です。参考文献には アルミキャップの有る場合と無い場合の温度実測結果が有りますが、グラフにしてみると下図のとおりです。
確かに 上下温度差は大幅に小さくなっています。ただし、加熱時間は少しだけ長めにするんだそうです。また、参考文献では プラ製のマグカップの内側にアルミホイルを貼り付けて取り扱いやすくしています。アルミホイルだけだと何回も使っているとヘタって来ますしね。この方法だと、100秒の電子レンジ加熱で 上部 57℃ 、下部 55℃ となるそうなので、十分に熱燗ですね。
✓ 幕の内弁当の電子レンジ加熱 Heating a Makunouchi Bento in Microwave Oven
最後により現実的な食品を電子レンジで温めた場合の温度変化について見てみます。参考文献には幕の内弁当を温めた場合の結果が有りましたが、下図のとおりです。弁当の画像も載せていますけども、Chrome Gemini に作成して貰ったものなので あくまでもイメージです。まあ、普通のコンビニ幕の内弁当って感じでしょうか。それを蓋をしたままで100秒くらい加熱すると、まあこれくらいには温まりますね。ご飯は 50℃ くらいでしょうか。漬物の温度が高くなってますが、野菜なので 水分が多いせいなのかなと。
まあ、実際の食品というか料理については こんな感じで様々な食材が含まれていますし、更に汁気の多い少ないとかも有ると思いますんで、それを電子レンジで加熱したらどれくらいの温度になるのかを予測するのは結構 難しいんじゃないかな~と思いますね。
まとめ Wrap-Up
で、電子レンジ調理ってのは マイクロ波加熱な訳なんですが ケミカルプロセスにおいても活用しようと言う動きは有るようです。化学工学会誌 2018年 第5号の特集は 「マイクロ波利用技術」となっていて、マイクロ波照射によるナノ粒子合成とか、アンモニア分解による水素製造にマイクロ波加熱を利用するってのが紹介されています。一般的な加熱法よりは効率が良い場合も有るんだと思いますし、間接的に加熱できるってのも面白いのかなと思います。ただ、大型化とかする際にはいろいろと難しい面が有るのかなと。例えば、マイクロ波の漏れとかが無いようにしないと駄目でしょうし。
参考文献・書籍 References
- 「加熱調理の科学的情報の解析及び画像の開発 報告書」
令和3年3月 国立大学法人 お茶の水女子大学 - 「電子レンジ加熱による食品成分の温度上昇」
日本家政学会誌 第41巻 第6号 1990年







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